第70話 番外編①緑とその家族
緑編です
「ヤッホー。我が兄妹よ。元気。」
「御姉様、殴っていいですの。」
「いいと思うの。」
左のストレートを食らった緑とサファイアの兄。
「いたた。二人ともよくもやってぐれだな。」
「嘘なの。」「こんなの、嘘に決まっていますの!」
「でもこれが現実なんだな。」
「嘘ついてたの。」
「当たり前だろ。お前らに王族全員を殺すように言ったのは誰だ。」ギヒッと笑う姿には悪魔が宿っていた。
「怒ったの!あなただけは、あなただけは許さないの!水鳥兄様!」
「許さないか、兄の命令を実行できなかった貴様ら姉妹などもう用済みだ。消え失せろ人形ども。」
「それはこっちの台詞なの!」
「御姉様。キンレン掘り起こしてきますの。」
「ダメなの、サファイア。アイツはあのままにしておくの。」
「どうしてなの、狙いはサファイアたちじゃなくてキンレンなの。どうしてなの御姉様。」
「兄さんはキンレンと手を組んでると思うの。だから放置するの。兄さんだけでも倒せるかわからないのにキンレンとは戦えないもの。」
「それは御姉様はなの。」
「だからこそ、2対1のハンデが必要なの。」
「そうなの、御姉様。」
サファイア!攻撃モードに切り替えろ!
と叫ぶキンレン。
「切り、替え、攻撃。」
キンレンの声に反応しサファイアも本来の姿へと変貌した。翠色の鳥。翡翠翡翠。
翠の高熱レーザーを放つ筒がある羽をきたサファイア。
「しまったの。」
「これでなんとかなるだろ。」壁に埋まったままそういうキンレン。
「それはどうかな、キンレンさん。」
顔しかないキンレンに水鳥は意識する。
その瞬間今だと思った緑は水鳥を殴ろうとしたしかし。
しかし、頭痛がして水鳥の顔を殴ることはできなかった。
子供の水鳥とサファイアが自分をお母さんと呼び、自分も母として子供たちとの生活を楽しんでいた。
その時、男が一人やって来た。
その人は優秀として知られていた側近。
ここで何をしている!と鋭い怒号が響く。
子供達と遊んでおりましたと言う緑。
そんなことよりワレは昼食を食べたいのだこんなところでグズグズしておらずにすぐに準備せよ!と言う男。
そんなにすぐに食べたいのでしたらパンとスープがございます。パンはかたくなっているかも知れないのでスープを温めてお食べください。
ワレに自身で用意せよと申すか、とどこか悲しそうな男。
そうよ、とそれが普通じゃない。と思いながら言う緑。
ふざけるな。貴様が用意せよ。そして、一緒の食卓を囲むのだ。いや……しかし……他にも家事があったなそっちを済ませろ。そうすれば、食卓など囲まなくてもよい。
そう言って巨人のように足音をたてて去っていく男。
緑の腕を掴み大丈夫と心配するサファイア。
その姿を見て守らなければと思った緑は、水鳥とサファイアの二人を前から抱きしめた。
驚いた二人、先にサファイアが大丈夫と緑を心配して声をかけた。
大丈夫に決まってるじゃないの、私を誰だと思ってるの。何だってできちゃうの、だからあんなのなんともないの、大丈夫なのわかった二人とも。
とまやかしの言葉を返す緑。
うん、わかった。返事をしたサファイアにはいつもの元気が内容に感じた緑。
水鳥は緑が不安を覆い隠すために無理をしているように聞こえた。
自分のせいでと落ち込む水鳥を励ますためと感謝を伝えるため、二人を髪がグチャグチャになるほど頭を撫でる緑。
そんな緑を水鳥は尊敬しており自分も力になりたいと思ったことを伝えるべく気合いを入れて声を出す。
「緑姉はいつも心配してくれてるけどサファイアと僕は頼りないかも知れないけど緑姉のことを……緑姉のことを家族だと思ってる。家族なんだから背負い込んでいるものをたまには僕に分けてくれてもいいんだよ。人一人が支えられるものと人一人が抱えられるものは大きくないんだ。だから……だから……家族である俺たちに弱さを見せてもいいんだから、頼ってくれたっていいんだ。家族なんだから……。」
声を出して言葉をつむんだはいいが途中で恥ずかしくなり段々声が小さくなった水鳥ではあったが緑に思いは通じた。
「御姉様は、頑張りすぎだそうなの。人に頼ることを忘れちゃダメなの。だから、最初に家族に頼るのって水鳥御兄様が言ってるの。」
二人のその言葉に涙を流す緑。
ありがとう二人とも。手伝ってもらいますの、ますは洗濯物を手伝ってもらうの。
緑のその言葉に従い屋敷の中へと入っていく三人。
しかし、二人を頼ると言う緑の選択が最悪の事態に陥る結果となってしまうのだった。
好意に甘えることはいいが甘い過ぎるとろくなことは起こらない。その言葉が現実となってしまった三人。
時は流れ、緑が頼ることを選択して一年が経った。
その日、キンレンが婚約を発表した。
相手はなんと緑だったのだ。
根回しはしていたが貴族は大反発していた。
そんな娘を王妃にするならこの国から出ていくと申すものやふざけるなと叫ぶ者。
そんな娘よりも私を娘と婚約してほしいと言う者までいる始末。
そんな緑の婚約を否定的な中一人の女性が扇子を閉じる音でその場を支配し、声をあげる。
「見苦しいことを言うでない!貴族であろう、この放浪息子がやっと婚約をすると言うのになにを言うておる。これは王族が了承したことなのだぞそれを理解しておるのか。」
そうなのだ、キンレンは今までに何人も婚約を求めてきた女性を全員断っていた。
今の状況を見ればわかるのだが、緑はキンレンの幼いころから専属のメイドだったのだ。
それを指示したのは声をあげたキンレンの母親で王妃のイサナである。
イサナの脅しに口を紡ぐ者もいたが貴族達はイサナの声に賛成するものはいなかった。
扇子で口を隠しキンレンと緑の方へと向き、本当に良いのかと聞くイサナ。
頷きと視線で答えるキンレン。
「ならば、こうしよう。緑を士爵にする。これで異存ないであろう。」
その言葉がことをより荒らしたことなのは言うまでもないだろう。
緑の父、クロノスを士爵にするということそれならと貴族の者たちも賛同した。
家督を緑が継ぐという形を取ればそのあとはもう貴族ではなくなるのだからそれでもよいであろうと了承したのだ。
平民だからそれだけの理由で緑とキンレンの婚約話がなくなってほしくなかった。そして、緑の母親と王妃様はものすごく仲がよかったのだ。
緑の母親は食堂の看板娘でその食堂に王妃様と王様はお忍びでよく行っていたため、そして年も近く、なにより二人とも甘党だったから仲がよくなったのである。
その甘党な友達の娘と自分の息子が婚約を心の奥底から喜んだ王妃様。
それとは対照的に王の間こと執務室にて険しい顔をしていた。
息子の婚約が決まったと聞き嬉しくはあるがそれを報告しに来た者の言い回しに少し疑念が残っているのだ。
その者は緑は王子につけいり謀反を起こそうとしています。なにより、彼女は平民の娘なのです。気を許してはなりません。聞いた話ですが他国との交流もあるそうじゃないてますか。そんな者が王子の婚約者となってよろしいのですか。
と言われて険しい表情を浮かべる王様。
その報告に来た者というのは王の側近で長年使えている緑の父親であるからだ。
王様は険しい顔ではなく困惑していただけかもしれない
緑の父親に仕事に戻るように言う王様
悩みの種を巻きに来た男を早々に退室させフゥとため息を吐く。
緑に不穏と不安な影。大丈夫なのか心配だが二人とも大人だきっと大丈夫であろう・・・。
大衆食堂【スワンタルト】
その看板娘であった緑の母。
王妃と仲が良かったのは店名にもなっているスワンタルトが仲を作ったといってもいい。
中央に鳥の頭があるリンゴのスライスが渦巻き上に置かれたタルト。
それをイポメアルが今は有名なあの森の近くにある湖の側で屋台を営んでいた緑の母の父つまりは祖父。
その屋台へ一人の女性がやって来た。ここで有名なリンゴを食べに来たのだ。
そして、その女性に一目惚れした屋台の男。
その次の日、また女性が訪れた昨日の女性が。
そして、意を決して食事でもと聞いてみると了承された。
食事の約束の日、というより食事をしましょうと言った次の日。
女性がやって来た。
どうせだからと来たのは遊園地だった、リンゴパーク。
そこで1日遊んで・・・。
そして二人に娘の緑が生まれた。
それから十年後、イポメアルの小競り合いともとれる戦争が始まった。そのため湖での営業ができなくなり今は緑の祖母の地元であるナスターク帝国へとやって来てお店を始めたのだった。
そして、スワンタルトが有名となり、娘が王族の側近と婚約し、緑と水鳥、サファイアが生まれた。
しかし、サファイアの誕生の時運悪く緑の母は死んでしまった。育児と家事に終われて疲れているのに出産と言う一大イベントに体が耐えられず帰らぬ人となった……。
そして、緑の父親は壊れてしまった。
毎日帰ってきては酒を飲み、父は酒に溺れてしまった。
王族の側近かつ執事として酒など持っての他と言っていた父が酒に溺れてしまい、しまいには仕事にも影響が出始めた矢先、緑が王族に使える者となった。緑がメイドとなったのだ。緑はその時10歳にも満たない子供であった。
それからというもの緑の父は緑に怒鳴るようになった。
まるで妻が蘇ったように緑を妻と重ねていたのだ。
緑がメイドとして王族に使えるようになって一年が経った。
なんとか紅茶を入れることができるようになった緑。しかし、今のところ掃除が緑の主な仕事であった。