第59話 植物園地下その12 棺と戦慄
笑い合った三人。
「ねぇ、アサナ。」
「なんですのよ、サキ様。」
「さっきいったことは本心ですか。」
「本心よ、当たり前じゃないのよ。」
「……そうですか。なら、よかったです。」
恥ずかしいこと掘り返さないでよサキ様。
アサナ、ムスッとしたです。掘り返されたくないみたいです。
でもです、アサナ・・・。
「なにの話をしているのでありますの。」
「なんでもないです。」
「そうよ緑。なんでもないわよ。」
「そう……でありますの……。」
露骨に落ち込んでるです緑。
「……そんなことより早く行くであります。扉はここにはありません。」
そういってキンレンをすり抜けていく緑。
「・・・」
それは違うんじゃないのよ。扉ならあそこにあるわよ。
「どういうことよ。」
「あの奥のは扉じゃないのです。」
「……わかりません。サキの言う扉に行きます。」
ここがそうではないのです。
「ここは違います。」ここは違います。この扉の奥にはユカリはいません。早くユカリに会いに行きますサキ。
「そうは見えないわよ。」「そうですか。」
「そう思うのでしたら開けてみてください。」
扉を開けることを躊躇う二人。
「アサナ」「サキ様。」
「「開けます
よ。」です。」
二人が開けた扉の先に見えたのは・・・。
二人で声合わせながら開けるような扉ではないと思いますの。
「・・・」そうですか。
ここにありましたよ、ナタレ様。
「こんな所に墓場があるです。」驚きです。
「ここではないことはわかりました。」
「ここは違うです。」「ここは違いますわよ。」
「行きましょう緑。まだまだ道のりは長いかもしれないですよ。」
「そうです。早く行くです。立ち止まっている時間がもったいないです。」
「二人の言う通りであります。ここで立ち止まっていてはここにいる死者に顔向けできません。この国を守るために他国に売ったものとして……顔向け……そんなこと……無理で……あります。」
泣かないでよ緑。
緑が進むことを決めた……時、扉はしまった。
「あ、です。」
「え、嘘よね。」
「冗談じゃない、こんなところに長い時間いたくありません。開いてください。」
扉を開けるだけですぐ閉めようと扉の手前で見ていただけだったがサキがうっかり手を離すと扉が閉まり、サキとアサナは墓地から出られなくなってしまったのだ。
扉を開けようとするが鍵がかかっているように開かない。
両側から扉を引けば開くわけがないのだが・・・。
「開かないわよ。」
「開かないですか。」
「・・・」
「冗談じゃありません、開いてください。」
「ならです、鍵開けてくださいです。」
「鍵かかっているなら鍵を使えば開くかもしれません。すみません、試してみます。」
「アサナ、開くと思うですか……。」
「緑と鍵を信じましょうよサキ様。」
「そうですか。開かないと思ったです。キンレンの棺どれだと思うです。アサナ。」
サキ様、大丈夫よね。そんなこと聞いてくるなんてよね。
「キンレンの棺がどこかはわかりませんよ、緑ならわかると思いますよサキ。」
「・・・そうですか……。」どうしたのよ、サキ様。
「緑さん、先に行ってです。すぐに追いかけるです。」
「はい、わかりました。」
そんな、アッサリ受け入れないでよ。緑……。
嬉しいような……悲しいような……緑、そんなアッサリ受け入れないでよ。
(「どうも、お二人様。いらっしゃいませ。」)
「そういうことであってたですか。キンレンさん……。」
「サキ様、わざと閉めてないよね。」
「・・・返す言葉がないです。」
わざとじゃないと言えばいいと思うわよサキ様。
・・・聞いたことが間違いよね。
(「・・・」)
「泣かないでくださいよ、サキ様。」
「泣いてませんよです。泣いてるのはもう一人です。」
「それは……緑はまだ泣いてないと思いますよ。」
泣いてるです。自分のふがいなさに泣いてるです。
「キンレン、ここは墓地よね。」
(「ここは墓地であり、レストランであります。とは言いましてもここの上が、レストランであります。ここは、台所であります。」)
上に運ばないといけないなんて面倒そうです。
それ嘘よね。
(「というのは冗談であります。ここは祭壇であります。」)
「祭壇ですか。」
(「はい、ここは祭壇でもありません。ここがレストランであります。」)
「アサナ。」
「サキ様。」
「間違えたかもです。」
「なんで閉めたのよ。」
扉に戻ったサキ。扉の前で開かないか試すが開かない。
緑に残っていてもらえばよかったと後悔するサキだった。
「開かないです。でもです、今すぐ出たいです。」
「なにしていますのよサキ様。」
「すみませんですアサナ。」
そんなことよりよ、ここに入ったわけを話してくださいよ。サキ様。
後なりより、周りの目が痛いのでやめてくださいよ。
「そんなことする意味はないことはわかっていますよ。一旦ここで待機ということよ。仕方ないじゃいのよ、落ち着きましょうサキ様。」
・・・
(「お二方大丈夫ですか……特にそちらの方は具合が悪いようですが……。」)
「キンレン……ここレストランよね。」
(「はい、こちらはレストランにございます。」)
「座る場所はあるわよね。座らせてくれるとありがたいのよ。どこか座る場所はありませんのよ。」
(「こちらの席にお座りください。」)
(「こちらが当店自慢のメニューになります。」)
・・・
「読めないです。」
「読めないわよ。これ何語よ。」
(「ミティカ語であります。」)
「ミティカ語ってなんですアサナ。」
「わかりませんよ。」ミスティカならわかりますけど、読めないわよ。
「読めないからおすすめを教えてよ。」
(「オススメは……メンチカツであります。」)
「アサナ、帰ることにしませんです。」
「メンチカツがおすすめってことは怒ることか睨み付けることがおすすめということよね。」
「どういうことです、アサナ。」
「メンチ切るっていうからよサキ様。」
だからって睨み付けるのがお薦めとはならないと思うです。
メンチカツがお薦めなんですからです。
「冗談よサキ様。」
でもよ。まだ怒っているということよサキ様。
あれは仕方のないことよ。だから、そう落ち込むことじゃないわよ。
どうやって見たってキンレンがやったことなんだから仕方ないわよ。
「メンチカツ定食2つお願いです。」
なんでくつろごうとしているのよサキ様!
励まそうと思ったのに台無しじゃないのよ。
(「メンチ定食二つでよろしいですか。」)
「いいわよ。」「はいです。」
キンレンはトボトボと歩いて行った。
メニュー忘れてるわよ。
・・・
「少しは落ち着きましたか。サキ様。」
「少し楽になったです。ありがとうです。」
「気にしていないわよ。サキ様のせいだとは思っていませんのよ。」
「どうしてです。」
「……サキ様はわかっていると思いますよ。」
「・・・。」
そういうことと言うことではありませんよね、サキ様……。
「サキ様、ありがとうごさいます。感謝していますよ。」
「なにがです。」
「サキ様のお陰で気持ちが楽になりましたのよ。」
「アサナも不安で怖いと言うことです。」
「そうよ。」
「クラノスに会いたいですか。」
「クラノスにサキ様の言う通り会いたいわよ・・・。」
(痛めつけるために。)
キャー、やっぱりアサナはクラノスのことを……。
なにか誤解されてるように思うわよサキ様。
「サキ様……勘違いしていますよ。」
「えーそんなことないです。」
「そういう関係ではありませんよ。」
「えー、会いたいって言ったじゃないです。」
「そうよ、会ったところでなにされるかはわかりませんのよ。」
「わかりましたです。そういうことにしとくです。」
はぁ、絶対わかってないわよねサキ様。
「まぁいいわよ。それより、大丈夫よね。ここの料理大丈夫よね。」
「そんなのわからないです。」
・・・
二人の前に料理が出てきた。
「どうですアサナ。」
「サキ様も食べてみてくださいよ。味がわかりますよ。」
こんな味だなんてよ……。
一口大に切って口に運ぶサキ。
口にはメンチカツの肉汁が広がり、キャベツのシャリシャリ感と肉のネトッとした食間が癖になりもうひとつ食べたくなる。
そんなことにはならなかった。
口の中に広がったのは砂と砂利だけ。
不快感が全身を走ったサキ。
「アサナ、これ砂です。なんで食べさせたです。」
「それを聞きたい気持ちは同じよ。」
「「………はぁ。」」
「水もないですアサナ。」
「そうよ、サキ様。」
「「・・・。」」
「早く出たいです。」
「早く出たいわよ。キンレンなにすすめてくるのよ。美味しいなんて欠片も思えない物すすめないでよ。」
「そうです、こんなの食べてもただ空しいだけです。」
虚しいわよ、でも出られない方がもっと虚しいわよ。
それより虚しいのは食べる物と飲み物がないことなのよね。
なんであの扉に興味持ったのよ。
あれに興味を持たなければこんなことにはならなかったのやね。
緑も緑よね、あんな言い方しないでもっと詳しく言えばよかったのよ。
・・・これと同じよね、見た目は真似できても味も感触も全然違う・・・。
早くここから出たいわよ・・・。
あいつに・・・クラノスに会いたいのよ。
・・・
アサナの冷静さに欠ける行動にサキには戦慄していた。
アサナは扉を少しの間見つめた後、メンチカツの残りを手で持ち上げ握りつぶしお皿の上に落とした。
その光景を見つめると上を見上げそしてまた扉を見つめ続けた。そして、伏せてしまったのだった・・・。
サキは今も起き上がらないアサナに戦慄していたのだった。