第52話 植物園地下その5 嘘と真実と幻覚と
ユカリが少しの間あるものに言われて緑の元へとやって来た。
自分の元へやって来てもらうために・・・。
「サキ様、ユカリのこと言ってよかったの。」
「・・・わからないです。でもです、ユカリさんは言わなかったです。」
「そうかも知れないよ、でも……。」
そうです言ったかもしれないです。でも、いわないと……。
緑さんは諦めるって言ったと思うです。
よかったのかどうかはわからないです。
緑さんは泣いているです……。
「次の扉へ行きますよ!付いて来てもらえます。アサナ、サキ。」
「あんたを待っていたのよ、早くしなさいよ緑。」
「そうです、緑。行くです。」
「行き方はわかってるわよね。」
「・・・」アサナに行き方を聞かれた緑は驚愕した。
「冗談です、緑さん。」
行き方はわからない。しかし……。
「ユカリさんが起動してくれて鍵が導いてくれるです。行くです緑。」
「そう……なのでありますか……。なら行きます。」
・・・
「ここがユカリさんが言っていた場所よ、緑さん。」
「え、鍵が導いたって言っていましたのに…。」
「声は聞こえるです。鍵から声がするです。」「本当!サキ!」
サキの目の前まで行く緑。目と鼻の先まで近づいた。
「ちょっと緑、落ち着きなさいよ。鍵を持っているのは私よ。」
「貸してアサナ。」渡しなさい。
殺してでもそれはもらうから覚悟しなさい!
そんな言葉が聞こえてきそうなほど緑はアサナを見つめていた。
「言いわよ。そんなこと言われなくても渡しますわよ。落ち着きなさいよ。」
「そんなに念じてもなにも思わないし感じないです緑さん。」
聞こえないです。
そんな風に泣いている人にはほしいものを手に入れるのは無理です。
緑、自分は感情では生きていません。
と言っていましたけど嘘よ。
そんなに泣いている人に感情がないなんてありえないわよ。
「サキ様、緑に言い過ぎだと思いますよ。」
「言い過ぎだとは思わないです。消えてしまいそうになっているのです。」
「どういうことよ。緑が消えそうなんて言っている意味が分からないわよ。」
「そうですか、緑は死にたいのです。自分の罪悪感から解放されるためにです。」
解放とは、なにを言っているのよサキ様。
「緑は、変わってしまったこの国を酷く悲しんでいるのです。」
自分を呪いたくなるほどにです。
そして……。
その真実を教えていいのかがわからないです。
「どうです緑さん。なにかわかったですか。」
「わからないものが一杯あります。この声はなにサキさん。」
「それは求めるものを探しているのです。」
その声は、あなたです緑さん。
「求めるもの。……なんのことだかさっぱりわかりません。」
「なるほどよ。そうよ求めれば幸せになれるというあれよ。」
「それは違うですアサナ。」
「わからないわよ。それではわからないよ。」
「わかるです。」
「それより、緑さんどうするです。行きますですか、行きませんですか。」
最下層まで行くですか緑さん。
「行くってなんのことをいっていますのサキ。」
「最下層に行きたいか聞いているのよ。そうよね、サキ様。」
「はいです、進むですか緑さん。」
「行きます。これが本当なら行きます。」
「そうですか。扉を開けるです。」
「そう、なら開けます。いい。」
「よろしくです。」
・・・
扉が開いた。
「……。」
「嘘です。これは嘘です。」
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【嘘】
・事実でないこと。
・人をだますために言う事実とは違う言葉。偽り。
・正しくないこと。誤り。
・適切でないこと。望ましくないこと。
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「これが偽りならものすごく嬉しい。」
「緑の言う通りよ。」
「行きたくないです。」
「そう思います。しかし、ユカリにもう一回会いに行きます。」
「階段を下りた先が水の中なら行きたくないよ。」
一瞬たりともあの扉の前に行きたくない。
行ったら……死ぬわよ。
「でもです、違う扉ではないかと思うです。」
「この扉じゃないっていうのサキ。」
「アサナ、この扉なんの模様です。」
「ここは、ナンヨウハギの模様よ。」
「ナンヨウハギ、違うと思うです。」
「え!この扉に導かれたのよ。」
「声のことですか。それはどうかと思うです。」
「鍵に導かれたわけじゃないの。」
ちょっと違うです。鍵に導かれたと思うです。
声を聴いたのですか。
「サキ様、間違っていないと思うわよ。」
「そうです、間違いないと思ったです。」
でも、ユカリさんはツノダシだと言ってたです。
三角が横に二つ並んだ様な魚、ツノダシの模様です。
「アサナはなんて聞いてここに来たのです。」
「道順を教えてもらってよ。サキ様。」
アサナの言う通りです。道順を教えてもらってこの階層まで来たです。
でもです、ユカリさんが去り際に呼ばれて言われたです。
三角が横並びに二つ並んだ模様が次の階への扉シャイときいたです。
「でもです、ツノダシだと思うです。」
「ツノダシってなんのことを言っていますの。サキ。」
「ツノダシとは三角が二つ横に並んだ魚のことよ。なにかで見ましたよ。」
「どういうことよ。鍵が導いたのは確かなのよ。」
「それもそうなのです。下の扉を開けたら開けられるかもしれないです。」
しかし、わずかな可能性です。でも、ありえないとは言えないです。
「開けらるとは思えません。」
「なぜよ。」
「それは鍵が導いたとは思えないからなの。」
鍵……。
「どうしてよ。」
「アサナの言う通りです。どうしてですか。」
「鍵が導くのは共鳴反応によるものかもしれません。」
「なに言っているのですか。共鳴反応でですか。」
「そうよ、共鳴反応で道順はわからないわよ。」
そうです。そんなの無理です。
でもです。鍵に導かれてこの階層まで来たのは真実なんです。
「共鳴反応というのは無理があるというのはわかります。」
「声に導かれてここまで来た……。とは言えないのよね。」
「そう、そこなの。頭を使うと変じゃない。鍵が動くなんてありえない。」
「そのとおりよ。でも、実際にありえたのよ。この地下ではよ。」
「そう……なの。でも、今回はそれがなかった。それはなんでなの。」
「そんなの簡単です。」間違えたからです。
「そうなの、サキ。そういう理由であなたが一番最初に否定したの。」
「簡単とはどういう意味よ。サキ様。」
「簡単です。鍵が自然と動き出したわけじゃないからです。」
「サキ様の言う通りよ。でもよ。」
「アサナは声に導かれてここまで来たといっていました。」
「そうです。そしてです、鎌しかないのです。探して見たです。」
「鎌しかないってなんのことを言っていますのサキ。」
「鎌しかないって蟷螂鎌しかなかったということでありますよね。サキ様。」
「そうです、あの鎌は蟷螂のような鎌だったです。でもあれは人用の罠だったと思うです。」
「なるほど。サキの言うとおりであります。」
「あの鎌が人用の罠とするとよ。本物の蟷螂はどこに行っちゃったのよ。」
「どこにいったのです。蟷螂さん。」
蟷螂さんって笑えるわよサキ様。
肝心な蟷螂さんだが一匹はアサナが鎌から逃げる時に踏んでしまった。
次の一匹は本物の扉つまりはツノダシの扉の前で両鎌を上げて威嚇していた。
そして誰かが木の剣、木剣で殺した。
誰が……。
一体なぜ……。
「それでどうします。水中に行きますか、ツノダシの部屋に行きますか。蟷螂探しますか。結論を決めてください。」
「緑の言う通りです、探しに行くですか、アサナ。決めてです。」
「……導かれたのよ。このまま行ってみるべきよ。」
「ああ言ったです。でもです、水の中を探しに行かないです。」
「行きたくありません。怖くて水の中に行くなんて嫌なの。」
「水の中で鍵刺して扉開けないといけないなんて怖くて仕方ありません。」
「そう思うです。でもです、こんなにも扉があるのは異様です。行ってみるべきです。」
「異様に思います。しかし、道を間違えたとするともう帰れません。」
「そうよ、怖いけど行きましょう緑。行ってみれば次の階に行けると思うよ。こっちの階段の上の扉、もう開かないのよ!開けて見てよ緑。」
「……わかりました。確認してみます。」
もう帰れないです。
・・・
「開きました、行きますか。」
「行きますよ。」「行くです。」
……このまま行っても大丈夫か心配です。
「どうかしましたサキ様。」
「緑に悪いと思うです。水中で扉を鍵で開けてもらったからです。」
「そうかもしれませんよ。しかし、こうして水の中にいても呼吸はできますし喋ることそして会話も可能なのよ。それがわかったのは緑が開きましたと声をかけてくれたお陰なのだけよ。」
「心配しているのはそれだけではない。そうではありませんかサキ。」「間違っているかもしれないって言うことよね。」
「その通り。しかし、おかしいことがあります。」
「それはなんなのよ緑。」
「呼吸ができることがおかしなこと以外になにかあるです。」
「呼吸が出来るそれもあります。しかし、論点はそこではありません。そういった狭い空間にいると人は撹乱状態になることがあります。」
「幻覚や幻聴、不自然な行動と言ったものよね。」
「その通り。そして、今私たちは幻覚を見ているのよ。水の中にいると言う幻覚を。」
そうですか、幻覚だったですか。
「ふーん、これが幻覚……それが緑がたどり着いたことってわけよね。でも、そうなのかはわからないわよ。」
「どうして、わからないなんて決めつけられるの。」
「この部屋がどういう仕組みかはいいじゃないですか。考えたって魔法は科学ではわからないです。」
「しかし、行きすぎた科学はもはや魔法と見分けがつかないと誰かが言っていました。これもなにかしらの根拠があるに違いありません。」
「そうですか。なら、二人で調べていてくださいです。この先に行って欲しいものを探してくるです。」
「その欲しいものはなんでしょう。サキ様。」
「教えませんです。」
「わかりました。このままこの現象がなんなのか調べるのもいいかもしれません。しかし、今はやらねばならないことがあります。鍵探しをして最下層の宝物を探し出すという物がありますから、ここのことは後回しにします。鍵を探します、二人とも手伝ってください。」