第1話
夢を見ていた。歩く夢だ。黒い猫に連れられてゆっくりと歩いていく。光が徐々に強くなる。全てが白くなる。振り返った黒猫だけが俺を見ていた。
起きるともう昼になっていた。
ウィズが腹を空かして待っている。しかし、餌がないので買ってこなければ。
床から適当にズボンを拾い上げてそれを履き、財布を手に取る。
財布には2847円入っていた。
これなら猫の餌くらい買える。床中に散らかったペットボトルやカップ麺の容器を片付けて俺は外へ出た。後ろからウィズがついてくる。一緒に来て選ぶ気なのだろう。
近所のペットショップに着くとウィズは高級猫缶の前で立ち止まった。いくらなんでも500円というのは高すぎる。丁重に100円の物を差し出すと払いのけられた。試しに300円の物を見せると顔を背けられたので仕方なく高いのを買う。ウィズは満足げに俺の肩に乗ってくつろぎ始めた。
今度は自分の餌だ。近くのコンビニに入って適当におにぎりを選ぶ。猫より安い飯を食うとは我ながら情けない。気落ちしてレジに向かった。
「可愛い猫ですね。」
肩に猫を乗せていたのが目についたのか店員の女に話しかけられた。動物を連れていることを注意しなくてよいのだろうか。
「やたら高い飯を食うので困ってるんだよ。」
財布を出していると犬が描いてあるポスターが目に止まった。バイト募集中と描いてあるポスターなのだが、犬の顔が独特で印象に残る。
ポスターを見ていると店員の女が言った。
「実はあれ私が描いたんですよ。」
ふふふ。と笑う女は恐らく俺が絵の上手さに見とれていたと思ったのだろうが、俺が見ていたのはバイト募集の文字だ。
俺は今無職なのである。なにかしらで金を稼がなければならないのだ。他にあてもないので俺はこのコンビニで働くことにした。