第2話
コンビニで働き出して1ヶ月が経つが接客は苦手だ。
さて、その日も俺は椅子に座って雑誌を読みながら客を待っていた。自動ドアが開いたので立ち上がり雑誌を隠す。
入って来たのはフードを被った背の低い男だった。男は向こうの飲料水コーナーに向かって歩いて行った。 それを見届けてから再び座り直すと後ろから声がかかった。
「佐藤君、真面目に働きなさいよ。」
俺は雑誌を置いて振り向いた。
「声をかけるなよ。お客さん来てるだろ。」
乾は俺の雑誌を取り上げるとさっさといなくなった。恐らくあの女が読むのだろう。言い足りない分をポスターの犬に文句を垂れていると自動ドアが開いた。
今度の客は覆面を被っていた。まっすぐに俺の方に向かって来るとポケットからナイフを出して言った。
「金出せ。」
突然のことだったので思わず、ふふ。と変な笑いが出てしまった。俺は早速レジから出せるだけの金を出してお引き取り願った。だが、笑っていたのが悪かったのだろう。苛々しながら強盗はさらに金を要求してきた。
そこへ、フードの男がコーラを片手にやって来た。
俺は目線で逃げろと伝えたが全く伝わっていない。男はこちらに近づいてくる。やがて強盗も男に気づいた。
先に動いたのは男の方だった。強盗の手首を掴んで反らせナイフを落とすと、後ろに回り込んで抱え上げ、上体を後ろに反らして強盗の後頭部を床に叩きつけたのだ。
いわゆるジャーマンスープレックスホールドである。
「カウント。」
男はブリッジしたまま俺に言った。
「1、2、3」
俺がレジ台を叩いてカウントを取ると男は何事もなかったかのように財布を取り出して支払いに来た。俺は支払いはしなくていいからちょっと待って居てくれと頼んでバックヤードで雑誌を読んでいる乾を呼びに行った。
しかし、俺と乾が戻った時には失神した強盗と小銭だけが残っていたのだった。