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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうしても、好きだから。

作者: 吉田 樹

「好きだよ。一輝」


 会議の終わった生徒会室内。仰向けで一人眠りこけていた一輝に俺はそう呟いた。


 役員が全員帰った後の生徒会室に椅子を並べて寝ている奴がいるなんて思いもしなかった。それも、一輝が仰向けで寝ているなんて。忘れ物を取りに帰ってきただけなのに、俺はつい一輝のそばに椅子を寄せ座ってしまった。そのまま寝顔を眺めていたら、つい言葉が漏れたのだ。


「寝ている時なら言えるんだけどな」


 とはいえ、寝ている相手に気持ちを伝えたところで言葉は帰ってこない。そんなのはわかっている。けど、伝えた気持ちが原因で今の関係が崩れることだけは避けたかった。


 それでもあふれ出す気持ちが言葉となって漏れてしまうほどに、俺の心は切羽詰まっていたんだ。


 童顔でありながら長身の一輝を眺め、サラサラの黒髪をなでる。


 寝顔であってもやはりかわいらしく、見とれてしまう。


 胸が締め付けられるように痛い。なんで俺は女じゃないんだ。と、そんなことを思っても何が解決するわけでもなかった。


 いつからだったろうか。俺の話をいつも真摯に聞いてくれたことがきっかけだったのかもしれない。仲良くなっていくうちに、俺はそれ以上の関係を望むようになっていた。


 でも、それは俺だけの願望だ。一輝は別に男が好きだったりはしないだろう。俺がアブノーマルなことくらい、俺自身がよく知っている。


 恋なんてものを俺は知らなかった。きっと初恋なのだろう。だから、こんなにも思いがあふれてしまうのだ。俺が女だったらどんなに楽だったろうか。一輝に気持ちを伝えることはごく自然な流れになる。好きだから。女が男を好きなら……。


「……」


 考えていてもつらいだけだった。一輝の顔を見続けるのはもっとつらかった。


 どこかで自分なりの結着をつけなければならない。なら、今なのではないだろうか。


 一輝の唇へとゆっくり顔を近づけていく。今なら、自分だけの思い出にできる。それで、割り切るしかない。


 静まり返った校舎内と、校庭で響く運動部の元気な声が耳にはいる。それが、頭の中でごっちゃになっていった。


 胸が高鳴る。一輝に近づくたびに、鼓動は早くなっていく。


 触れた。唇が、一輝に触れた。


 しっとりとしていてやわらかい。瞼を閉じるだけで、一輝のすべてを感じられるような気がした。


 けど、


「っ!」


 ゆっくりと瞳を開いたら、一輝と目が合っていた。その事実に頭が真っ白になった。


 最も恐れていたことが起ころうとしている。その事実が脳内を占拠し、慌てて唇を離した。


「か、一輝。これは、ちがっ……⁉」


 何とか言い訳を口にしようとしたところで、一輝に頭をつかまれ強引に口づけされる。


「んっ……んぅっ……」


 一輝の舌が強引に俺の口内へと入ってくる。反射的に拒んだ俺を離さないとでもいうように、一輝は舌を絡めてきた。


「んっんぅ……んっんぁっ……」


 自分の口から洩れる甘い声に羞恥心が掻き立てられる。自分から求めたはずの愛撫は、あまりにも強引で乱暴で……でも、心地よかった。


「んんっ……」


 ようやく一輝の唇が離れていく。包まれたぬくもりと、息苦しさがなくなっただけでこうも名残惜しいものなのだろうか。


「そんなさみしそうな顔をするな」


 微笑んだ一輝は、童顔に似合わぬ渋い声でつづけた。


「また、してやる」

「っ⁉」


 なんでこんなことをしたんだとか、俺のことをどう思っているのかとか、聞きたいことは山ほどあったのに、一輝の一言に何も言うことができなかった。


 あまりにもひどい不意打ちだった。心の高鳴りが早まることで、一輝への思いがはっきりと自覚できる。


「俺、一輝のことが……」

「わかってる」


 一輝の眼は迷いもなくまっすぐだった。


「俺、男だよ?」

「だからどうした? 性別なんていう些細なもので断念する程度なのか? お前の気持ちは」

「……」


 俺は必死に首を振った。そんな俺の頭をなでると、一輝は優しく唇を重ねてきた。


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― 新着の感想 ―
同性への切ない恋心と、想いが通じた瞬間の衝撃と幸福が、繊細な筆致で描かれた短編でした。淡々とした語り口の中に、諦めと期待の揺れ動く心情が丁寧に織り込まれ、読み手の胸を強く打ちます。ラストの一輝の力強い…
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