何か自覚がないわ
「ま、そんなことはさておき。」
「さておけないわよッ!!」
俺が話を進めようと試みるも、イーリクリズがそれをさせまいとする。
「あー、話が進まんから後にしてくれ。で、町ってのは近くにあるのか?」
「ちょ……まぁ、いいわ。ええ、あるわよ。」
こいつには何を言っても無駄だと悟ったのか俺の質問に答える。
俺はなぁ……さっさと異世界を満喫したいんだッ!!
転生の最初の行程でもある親の魔術本を読むのにも失敗、周りに家がないから幼馴染みも出来ない、それどころか学校でチーレムも展開出来なかった……ッ!!
唐突に血の涙を流しだした俺にヴィローネが驚く。
ヴィローネとイーリクリズといったほうが正しいかな。
「どうしたの?」
「あぁ、大丈夫。よくあることだから。」
「て、結局話が進んでないじゃないッ!?」
イーリクリズのツッコミで俺達ははっと気がつく。
姉さんはニコニコしながら俺達のやり取りを見てる。
「とりあえず、俺達をその町まで乗せてってくんない?」
「別に構わないけど……。」
イーリクリズがこんなことのために時間を使っていたのかという顔をする。
「悪いな、お礼にこいつを渡しとく。『魔法箱』」
ドサッと俺達の目の前に腕が四本ある猿っぽい魔物の死骸が現れる。
そこまで強くもなかったからちょうどいいだろうな。
それに、冒険者をやってるってことだから魔物の換金所も分かるだろうしね。
「Sランクの魔物をお礼で渡されたのは始めてだわ……。」
「え? 足りない?」
「十分すぎなのッ!!」
足りないかと思ってもう何体か出そうとしたが、慌ててヴィローネが俺を止める。
「もういいわ。早く乗ってちょうだい……。」
「何かすまん、イーリクリズ。」
ふぅ……と疲れた顔を見ているイーリクリズに俺はとりあえず謝っとく。
俺達が乗り込んだのを確認した後、出発する。
「あ、私のことはララで構わないわ。」
「私もマーシャでいいの。」
「おう、ララにマーシャな。」
出発してすぐに二人がそう言ってくる。
俺達もとりあえず名前でいいぞーと言っておいた。
◆◆◆◆◆
しばらく馬車に乗っていると、前方に城壁が見えてくる。
そうか……あれがウォールマ○アか。
城壁にだんだんと近づき、門のところまできた。
門はすぐに開かれて、俺達は壁の中に入っていく。
ガタンガタンッと少し大きく揺れた後、馬車は止まる。
馬車のドアが開かれて、俺達は外に出る。
「もう馬車なんか二度と乗らねぇ……。」
外に出てすぐに俺は言った。
ケツが痛いし、何よりも酔う。前世でも車はそこまでというか全然強くなかったのでこれはキツイ。
「飛んだ方が楽かもね~。」
「今度からはそうするか。」
「町中大騒ぎになっちゃうの。」
俺達の話を聞いていたのか、ヴィローネが咎める。
まぁ、確かにな。竜が二頭飛んできたらそれはビビるか。
「私達はこれからギルドによるけど、あなた達はどうするの?」
「とりあえず、宿に行くかな。もうすぐ暗くなるだろうし。」
イーリクリズが俺達の所に来て、次の予定を聞く。
んー、ギルドでのイベも回収しときたいけど、宿屋の空きも気になるからな。
「分かったわ。じゃ、またね。」
「バイバイなの。」
イーリクリズとヴィローネが町に向かって歩き出す。
「じゃ、俺達も行こうか?」
「そうだね~。」
俺達もゆっくりと町の中に入っていく。
そして、ギルドでは死の森の魔物が持ち込まれ、大騒ぎになっていた。
◆◆◆
ほどよい値段の宿屋を見つけ、チェックインをすませる。
受付は女の子だったが妙に顔が赤くなっていた。
恐らくだが、少し熱があるのだろう。
お大事にと声をかけた後、俺は渡されたカギ番号の部屋に向かう。
この世界の医療がどこまで進んでいるか分からないが、早く直るといいなと切実に思う。
部屋についてすぐ姉さんが言う。
「レオ君って鈍感なんだね~。」
「え?」
何だろう、実はチップが欲しかったとか?
んー、とあれこれ考えるが結局、これってやつが思い付かなかったので気にしないことにした。
俺はぴょーんとベッドに飛び込む。
少し、値段を高くして良い部屋にしてもらったのでベッドはフカフカだ。
あ~、家のオフトゥンもなかなかだったが、このオフトゥンも格別やなぁ。
俺がそんなことをしていると隣でも俺とおんなじことをしている姉さんが見えた。
「流石、姉第だなぁ。」
「ふふ~フカフカ~。」
睡魔がチラッと現れたが、まだ飯を食ってないし何よりも風呂に入ってないため寝るわけにはいかない。
俺はチラッと現れた睡魔を涙ながら見送り、ベッドから起き上がる。
とりあえず、時間も丁度いいし飯を食いにいくかね。
「姉さん、飯食いにいこ。」
「すやぁ~。」
姉さんに声をかけるが姉さんは既に睡魔と戯れているようだった。
「ほらほら、早く起きて。」
上にかかってるオフトゥンをグイグイと引っ張るが引き剥がせない。
そんな時、不意にオフトゥンから二本の腕が伸びてきて、俺の首を絡めとる。
「え?」
驚いたのも束の間、俺はベッドに引きづり込まれる。
身体に柔らかい感触がする。
「ふふ~捕まえた~。」
「ね、姉さん……。」
女性特有の暖かさとオフトゥンの温かさが合体していた。
そして、再びチラッと睡魔が現れる。
まぁ、いっか。と俺は諦めて睡魔と数分ぶりの再会を果たした。
しばらく睡魔と戯れた後、俺達は宿屋の食堂に向かう。
受付の際にもらった食事券かな、それをさっきの子に渡して食事を貰う。
食堂には何人かの男女がご飯を食べていた。
俺達は適当な場所に座り、食事を待つ。
周りの方々は食事の手を止めて、俺達を見ている。
恐らくだが、姉さんの容姿に心を奪われたのだろう。
そして、引き立て役として俺がいるため更にその容姿に磨きがかかる。
俺の容姿もそこまて悪い方じゃないと思うんだけどなぁ、ま、いいけど。
実際に女性は俺の姿に目を奪われているのだが多分、俺は気づくことはない。
「お待たせしました~。」
カタッ俺達のテーブルに料理が置かれる。
今日のメニューはホワイトシチューにパン、そして、サラダだった。
「シチューのお代わりはたくさんありますので沢山、食べてくださいね?」
「分かりました、ありがとうね。」
「~~~ッ!!」
タタタッと走って俺から離れていく女の子。
……もしかして、俺の外見ってそんなに良くないのかな?
……ま、まぁ、前世より良くなってる筈だし? 平気平気……クスン。
俺は気を取り直して料理を食べ始める。
おぉ、やっぱり美味しいやん。
家で食ってた飯もうんまかったがこれもまた美味い。
何回かお代わりをお願いした後、俺達は食事を終了する。
窓から外を見るとすっかり暗くなっていた。
んー、このまま部屋に戻ってもいいけど夜の町も見てみたいよね。
「姉さん、俺は外に行くけど姉さんはどうする?」
「ん~、私は部屋でお眠りしてる~。」
了解と俺は部屋の鍵を渡して、姉さんと別れる。
俺は途中すれ違った受付の女の子にちょっと外出てきます。と言って外に出る。
外は酔っぱらいが多くいて、とても賑やかな感じになっていた。
俺は酔っぱらいにぶつからないよう気をつけながら町を歩く。
俺も一杯、どっかで飲むかと店を探しながら。
しばらく歩いていると少し賑やかなお店を見つける。
中からは笑い声が聞こえてきていた。
ふむ、ここにはいって見るか。
俺はその店のドアを開ける。
「いらっしゃ~い、お好きな所にどうぞ~。」
酒をお盆に乗せている女の子に言われて俺はカウンターの一番端っこに座る。
中は酒の入ったコップを持ちながらがははと笑う客や、ちびちびと飲みながら今日の疲れを癒す客などがいた。
賑やかで大変よろしい。
俺が中を観察しているとカウンター側から髭面のおっちゃんが声をかけてきた。
「おう、何か飲むか?」
「そうだな……ビールと適当に付け合わせをくれ。」
とりあえず無難にと俺は前世とおんなじ感じで頼む。
大体、こう言っとけば間違いないと思う。
「おら、ビールに付け合わせの肉だ。」
すぐにビールと肉が出てくる。
そこまで騒ぐ客じゃないなと思ったのかそれとも元々、こういう料理なのか知らないがローストビーフ見たいたのが出てきた。
「お、ありがと。」
ビールをごくごくと飲む。
ビールは前世と一緒のお味にのど越しだった。
肉もタレとよくあっていてとってもおいちい。
「ふぅ~、最高だなぁ~。」
久々の酒に心が踊る。
そうやって一人でグビグビしていると盆を持った女の子が声をかけてくる。
「お、さっきも見たけどやっぱりイケメンじゃん。」
「そんなことないよ。」
実際にはそんなことあるのだが俺は気づいていない。
「ほらほら、そう言うところだよ。」
「ま、ありがとね。」
「あ、こ、これはだめだ。」
ニコニコと笑っているので俺も笑い返すと、顔を真っ赤にして行っちゃった。
なんやろな、酔っぱらってたとか? まいっか、
俺はパクパクと料理を食べつつ、ビールを飲む。
「ふぅ~、満足。満足。」
俺は席を立ち、金を渡して、外に出る。
酒で火照った体を心地よい風が冷やしくれる。
少しご機嫌で歩いていると前から声が掛かる。
「あ、レオンじゃない。」
「なの。」
それはイーリクリズとヴィローネの二人組だった。
「お、こんなところで会うとはねぇ~。」
「あんた酔ってんの?」
「少しね~。」
どうやらこの体はお酒にそこまで強くないようでビール一杯でここまでだった。
ま、いいさ。心地いい酔いだから。
「レオンご機嫌なの。」
「そうだね~。」
「何か酔うとエレナさんに似てるわね。」
確かに最後ののばす所とかは確かにそっくりかも。
しょうがないよね、だって姉弟だもの。
と、イーリクリズの髪に何かがついているのに気がつく。
「髪に何かついてるよ~。」
「え? どこ?」
「とってあげる~。」
「~~ッ!?」
俺はふら~っと近づく。
顔と顔とが至近距離に近づかせて、俺はゴミをとってあげる。
イーリクリズは顔を真っ赤に照らしていた。
「はい、いいよ~。じゃ、またね~。」
バイバイと手を振って俺はその場を後にする。
後ろからはボンッという音が聞こえたけど、まぁ、いいよね。
どうも、作者です。
無自覚で女の子を顔真っ赤にさせたいです。(真顔)
さて、今回は宿屋の女の子と酒場の女の子を落としましたね。
彼女達の名前は特に出てくることはありませんのであしからず。
それでは、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いします。
でわでわ~。m(__)m