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悪魔の血を浴びる金貨達  作者: 獅子山
3/3

賢者の導きと3枚の金貨

仕事が忙しくて投稿が遅れました。

3章は未完なので随時更新します。

 領主達はそれぞれ設けられた

椅子に座り、会議が始まった。

「今回、クロハ領の暴挙により大使の尊い命が失われ、

 我ら6名の領主が名乗りをあげた。

 侵攻作戦を開始し今日ついにクロハ領の

 首都の制圧が成功した。

 これまでの事例に対し何か相違のある者は?」

 連合軍の発足者であるスノーガイア領領主、

オスカー・ハートの質問に領主達は沈黙で答えた。

「よろしい、では改めて議題を進めよう。

 まずは未だ落とせていない最東端の砦

 ワイバーン砦にて、砦の攻略指揮をしている

 イーサン領主、報告を」

 マウスクラウド領領主、イーサン・ベアは軍服の

襟を正しながら答えた。

「あの砦は極めて守りが硬い。

 切り立った山脈に囲まれ、侵攻できるルートが

 限られておる。

 高所という事もあり大胆不敵に攻められぬのだ」

「ふん、情けない。

 貴様の軍は砦一つ落とせんのか」

 ヒートスティール領領主、

アガレス・スミスの挑発にまんまとイーサンは

腹をたてる。

「アガレス!!それは私の領地に

 対する侮辱と捉えるぞ」

「まぁまぁイーサン領主殿、首都を制圧したのだ。

 降伏勧告をすればよいのではないか?」

 イーサン領主の怒りを押さえつつ

グリーンタイル領領主

イザベラ・イシュが助言をする。

しかしイーサン領主は

苦虫を噛んだような顔をする。

「首都侵攻作戦時に何度か

 降伏勧告をしたのだがまるで効果がない。

 噂によれば、かのクロハ領近衛騎士四将軍、

 イーベルトが布陣していると聞く。

 敵兵士の士気が下がらぬのも奴の影響かもしれん」

 議題に上がったイーベルトという名は

皆が見知っているようで、イーベルトの情報が

書かれた羊皮紙が各領主へ配られる。

そこにはこれまでのめざましい活躍が記入されていた。

「アルキメデス、

 実情を知る君の見解を聞かせてくれ」

 オスカー領主の質問に

神妙な面持ちのアルキメデスの顔には既に

ただらなぬ存在であることを察させていた。

「クロハにイーベルトの剣ありと

 唱われた勇猛果敢な騎士です。

 類い稀なる剣術と知識の持ち主であり、

 近衛騎士四将軍の中では

 最も実力のある騎士です」

「ではワイバーン砦にはクロハ領主が

 逃げ込んだ可能性はますます高いな。

 そこに領主と近衛騎士四将軍二人の布陣か」

 オスカー領主は早々に意見を固めるが、

アルキメデスは苦言を呈した。

「オスカー様、ワイバーン砦は囮です。

 奴らは大軍勢を砦へ誘い込み、

領土端の警備の薄い所を一点突破をして

他の領地へ亡命する作戦でしょう」

 アルキメデスの言い分に

納得のいかないアガレスは反論する。

「ばかな事を言うな、

 クロハ領主はここ2週間連合軍が

 包囲網を敷いて各地を捜索しているのだぞ。

 一部の隙などない······ん?」

「お気づきになられましたか。

 包囲網が破れた周期が二度ありました。

 正体不明の巨大生物の襲撃です」

「確かに怪物が群れを成して

 我が基地を襲撃してきたな。

 我々の研究機関が調べた所、

 北の山脈で生息している

 太古の蛇竜[じゃりゅう]スカイドラゴンの

 群れである事が判明した。

 しかし一般的な個体は体表が白く、

 北の山脈の奥地から生息圏を出る

 生物ではないらしい。

 北に領地を持つオスカー殿ならあの生物に対し

 知識があるのではないか」

「伝説上で語られる神聖な生物だ。

 少なくとも過去二百年の文献を

 洗い出しても人間を襲ったなどの記録はない。

 そもそも北の山脈の奥地は

 人間の生活圏が取れないほどに気温が低く、

 スカイドラゴンを見た者など

 一世紀に一人か二人ぐらいぐらいだろう」

「砦はどうする、話が脱線しているぞ」

 イーサン領主は場の流れを変えるように

話の筋がずれている事を指摘する。

日照りを起こしそうなアガレス領主は

やり場のない怒りに大きくため息を吐いて収める。

「仕方ない、砦の攻略は俺の管轄に任せろ。

 ゴーレムならば崖など這って登る事ができる。

 その代わり、ワイバーン砦と辺り一帯は

 我々が管理するぞ」

「······皆も異存あるまい、砦は

 アガレス領主に任せるとして、

 やはり各地に点在する残党と

 領主の行方を捜索するべきだな」

 領主達は多少の領地など気にも止めず、

オスカーに続いて領主探しが話に上がる。

内部の事情を知るアルキメデスは

戦略地図の中心まで歩き、地図上へ指を指す。

「目星はついております。

 一部の側近のみしか知らぬ領主の居場所ですが

 3ヶ所ある神殿内部より隠れ忍んでいるはず」

「根拠はあるのかね」

 マウスクラウド領主の質問にアルキメデスは頷く。

「町や村は連合軍と人の立ち入りが多く、

 食糧には困りませんが常に発見される

 危険が伴います。

 クロハ領主を警護している近衛騎士四将軍、

 ヴェルートは実直で慎重な男です。

 最優先はクロハ領主の身の安全を考えている。

 その点、神殿内部は長き研究期間により

 町に近い生活空間が作られています。

 そこで戦いを逃れた学者や

 難民の中にクロハ領主が紛れているでしょう」

 アルキメデスは全てを薄情に語り述べる。

戦いで所属していた勢力を裏切る者は珍しくない。

しかし自らの保身に対し

領主を売る事を何の躊躇いもなく淡々と話す

アルキメデスの姿に領主達は

一種の気味の悪さを感じた。

「よくぞ話してくれた、アルキメデス。

 これより残党殲滅に移行しようと思うが、

 異論のある者は」

 パープルスワンプ領領主、ジャック・ラントーヌが

従者に耳打ちし、従者が代わりに述べる。

「オスカー様、神殿の捜索に関しては

 ある程度各領主の持つ軍の能力で

 赴く神殿とその役割を決めてはどうか。

 ···と我が主が申しております」

 他の領主もその意見に賛成する。

「確かに効率的に進め、早くこのクロハ領の

 今後の行く末を話し合いたい。

 ジャック領主、

 貴殿は自然に身を置く軍をお持ちでしたな。

 クロハ領、西の森の中にある

 精霊崇拝の神殿の捜索を頼みたい」

 白装束に身を包む物言わぬ

ジャック領主は

コクコクと頷き、了承する。

「北にあるこちらの夢想神殿に関しては

 スノーガイアの領主である私と呪いに対し

 心得のあるマウスクラウド領の長である

 イーサン殿が適切と判断する、協力を頼む。

 南東にある竜神殿は···そうだな、

 武闘派であるイザベラ領主と

 バックアップにティラミス領主にお願いしたい」

 ブルームーン領主、ティラミス・アーモンドは

不満を漏らす。

「わたくしは精霊神殿がいいのですが」

「申し訳ないがあくまでクロハ領主の捜索ですから

 今回は我慢していただきたい。」

 頬を膨らませるブルームーン領主を

オスカー領主が嗜める。

周りを呆れられている事など気にも止めない。

「では採決をとろう」

 領主達は決をとり、満場一致で残党殲滅作戦は

可決された。

「これより最優先は逃亡したクロハ領主の捜索と

 残党狩りとする。クロハ領財産の分配と統治する

 領地の区分けに関しては後日話し合おう。

 今日の領主会議はこれにて終了する、解散」


 主人を労るように、従者は効能のある

ハーブを煎じてお湯へくぐらせた、するとお湯は

みるみる透き通る赤へと染まっていく。

それをよく磨かれたカップへ注いで領主へ振る舞う。

「ハーブティーです、オスカー様。

 今回の会議はいかがでしたか」

「良くも悪くもそれぞれの領主の顔を拝めたのは

 幸運だな、厄介な領主もいくつか選定できた」

 領主の言葉に会議の全容を思い出すが、

従者には思い当たる節すら見つけられずにいた。

「最も厄介な領主はティラミス・アーモンドだ。

 今回の戦争の利潤を一番得るのはブルームーン領、

 その次がクロハ領主を見つけた陣営となるだろう」

「今回の戦争はクロハ領主を捕らえた陣営に

 多額の利益が手にされるのでは?」

「この戦争、勝者は一番槍を取った者ではない。

 真の意味での勝者とは常に磐石で、

 勝者の隣に座れる者だ。

 表の勝者には支持する者がいなければ

 勝利の価値など無いも同然だ。

 その点、今回の戦争の資材2割を配給した

 大貿易主要都市を持つブルームーン領が

 最も連合軍にて強い影響力を持っている」

「あら、誰の噂話に花を咲かせているのでしょうか

 おじ様方」

 会議室の外から派手なドレスを着た女性が現れた。

それを見た二人は顔色を青くする。

「これはこれはティラミス領主、

 忘れ物でもしましたか」

「ふふふ、白々しいですねオスカー領主。

 しかし偶然ですが要件は忘れ物で合ってますの、

 戦争勝利の勲功に応じて振り分けられる

 領土および町の領地分配と税収管理について

 私から提案があります」

「なんだね、言ってみたまえ」

 ティラミスは不適な笑みを浮かべた。

「この首都、サンセットキャピタルの運営と

 税金の運用を私がやります」

「な·····」

 あまりの驚きにオスカーと

従者は開いた口がふさがらなかった。

それを見たティラミスはなおも

その不適な笑みは崩れない。

「君は領地の分配で

 希望したのは海辺の町ではなかったのか」

「確かに南東部にある海辺の町は

 夕日がとても綺麗で天候も晴れが多く、

 観光地としては申し分ないので

 今も希望は取り下げていません。

 ですから私は追加でこの首都の経済成長を

 引き受けるつもりですの」

「各領主が君の提案を受け入れるとは

 到底思えんのだ。この提案は君の領地の心情を

 大きく下げる事になりかねんぞ」

「それについてはご心配ありません、

 既にマウスクラウド領とヒートスティール領の

 領主から許可と史書をいただいてます」

 軍国主義であるイーサンとアガレスは

敵対関係であり、少しでも優位に立つ為に

最大限、資材と装備品を提供する

ブルームーン領を味方に引き入れたい両者の姿が

容易に頭の中で想像できるオスカーだった。 

「では次回の会議で改めて提案致しますので

 お願いいたします」


 神殿内部飲み屋[巨人の酒店]

 男はボサボサの髪をかきあげると、

老婆の店主が注いだ酒を

喉を鳴らしながら流し込んでいく。

「ぷはー、しっかし婆さんが

 見立てた酒はやっぱりうまいな」

「いくら褒めても酒はただにはしないよ、

 あんたはあるだけ飲んじまうからね。

 ···ほら、そこのあんたも

 こんなだらしない男なんか気にせず酒を飲みな」

 店主は手早く調理した鳥の塩ゆでを鍋から出し、

ナイフで切り落として皿に盛っていく。

その後、酒と調味料を混ぜて

軽く火を通してアルコールを飛ばす。

そうしてふつふつと煮えた

甘辛い匂いをさせたソースを

小皿に移して肉の隣へ配膳する。

「私の地元で好まれた料理さ、

 肉にたっぷりソースをつけるんだよ」

 久々に食べる肉の食感に感動を覚えた。

肉は下処理がちゃんとされていて、

野生の力強さは残しつつ、臭みがない。

アクセントのソースも甘い酒の香りと

濃厚な甘辛い味わいで食欲をそそる。

捕虜の期間中、出された食事といえば

粘土のような練り潰した芋の固まりで

とても美味しいとは言い難い代物だった。

「おいおい婆さん、若い奴にだけ色目使わないで

 俺にも料理くれよ」

「黙りな、あんたも初めて会ったばっかの時は

 おとなしくて可愛いげがあったのに

 どうしてこんな風になっちまったんだい」

「ははは、厳しいな」


「ふぅ食った食った、もー食えね」

 男は酒を嗜みながら、

空の皿の山を前にあくびをかいている。

「あー、そういや紹介が遅れたな。

 俺はクロハの領地で

 傭兵をやっていたジェイクだ。

 訳あって領主とは知り合いでな、

 お前を監視してた二人いたろ。

 あいつらは俺の弟子みたいなもんだ」

「······そうだったのか」

 そう告げると、男は酒の臭いをさせながら

オイルスモークを吸い、大きく煙をふく。

「特にイアンが迷惑かけたな。

 まぁ出会いは最悪だったが

 これからは境遇を共にする仲だ。

 うまくやってくれよ」

 さりげなく男がとんでもない事を

言っているのを違和感で気づく。

聞き流していればそのまま

言及すらしなかったである程に自然な物言いだ。

「今さらっとこれから境遇を共にする仲とか

 言わなかったか?」

「ああ、お前を俺の弟子にしてやる。

 機転も利くし度胸もある。

 ちゃんと鍛えれば

 十分立派な戦士のできあがりだ。」

「断る」

 話が急すぎて動転したが

このやり口は詐欺師の常套句だ。

情報を与えるだけ与えまくって

混乱している相手を丸め込む雑な話術の一つである。

こんな話、断るに限る。

「それはまたどうして?」

 ジェイクの疑問に率直に答える。

「俺は商人だ、剣振って金稼ぎたいわけじゃない。

 それに拷問も追いかけられるのももうごめんだ」

「まぁ戦うのが好きな奴はそういないだろうな。

 でも戦う術ってのは

 そうならない為に必要なものだ。

 でないと苦難に食いつかれたら、

 抗う力がない人間はその苦難を真正面で

 受けなくちゃならねぇ」

 ジェイクの話に

目眩を覚えるような寒気を感じた。

これは牢屋の中で感じた感覚だ。

息も絶え絶えに成る程の指先が

凍りついていく恐怖の感情。

「何やってんだい、大の大人が

 病み上がりの男をいじめて。

 こんなに顔色が悪くなっているじゃないか」

不意に聞こえた店主の声に、体に刻まれた寒気と

痛みが暗い影の中へ消えていく。

「イテッ、誤解だって。婆さんこれ飯代ね、

 この先にある赤い屋根の建物に

 宿を借りてるから今日はそこで休め。

 次会うとき聞くからこの話はよく考えとけよ」

 ジェイクはそう言い残し、

逃げるように来た道を戻っていく。

弟子のイアンのいい加減な性格は

師匠譲りのようだ。


 赤い屋根の建物は、犬を象ったオブジェが

看板に飾られており、中に入ると気の良さそうな

青年がカウンターで客を待っていた。

「いらっしゃいませ、予約はとってますか」

「ジェイクという方の紹介で来たんだけど」

「貴方がアレンさんですね。

 今日の夕方頃、

 ジェイクさんがお客が泊まりに来ると

 お金を払っていきましたよ。

 お部屋にご案内します、こちらへどうぞ」

 青年は快く迎えてくれた。

宿は木材とレンガで出来ており、細かい部分の

レトロなランプや綺麗な刺繍の入った

値の張りそうなカーペットは

経営者の趣味がかいま見える。

「こちらがお泊まりになられるお部屋です。

 地下には水浴び場もあるので

 身体を洗いたいならぜひご利用ください」

 身体はぼろぼろであちこちが痛むが

所々汚れており、せっかく宿に止まるので、

水浴び場を利用する事にした。

包帯を取ると、痛々しい拷問跡に目を覆いたくなる。

傷口が少し膿んでいる所もあり、慎重に綺麗な水で

洗い流す。身体を洗いきると青年が気を使って

新しい綺麗な包帯を持って来てくれた。

「お客様、僕の使い古した服ですが

 どうぞお使いください」

「ありがとう、

 どうしてここまでしてくれるんだ?」

「戦争で傷ついた人がたくさんいます。

 僕はそういう方々の力になりたいんです」

 青年の優しさに涙が頬を伝う。

久しぶりの暖かいベッドにこの設備自体が

医療器具なのではと疑う自分がいた。

居心地の良さに自然と目蓋が重くなる。


 目を覚ますと、まず一番にどこかに

連れ去られてないか、周りを確認してしまう。

その癖はしばらく直りそうもない。

「お客様、起きていますか?

 朝食の準備ができました」

 青年の呼び掛けに返事をすると、

青年は扉を開ける。

「おはようございます。

 昨日はよく眠れましたか」

「名残惜しい程に快眠だったよ。

 ジェイクには感謝しなければ」

「ああ、ジェイクさんなら今下の食堂で

 食事をとられていますよ」


 下に降りると、ジェイクは忙しなく

机に並べられた数多くの

料理を次々と食していく。

その早さは貪欲な猛獣が大きな口で軽々と

肉を平らげている姿と重なる。

「おーアレン君、迎えに来たぞ」

 ジェイクは食べ進めながらも、

こちらに手を振る。

大食いの客がいることで厨房の料理人は

あまりの忙しさに火を吹いているだろうか。

「言っとくけど昨日の今日じゃ

 まだ決められない」

 黄金色のスープをスプーンですくいながら

答えると、ジェイクはこれまでにない

真剣な顔をのぞかせる。

「それが今日の朝から情勢が変わってな。

 連合軍が一斉に全ての神殿に進軍し始めた」

「ここに来るのか?」

「ああ、指名手配並びに準指名手配を

 受けてる奴らは見つかり次第、

 牢獄のネズミの餌か、お縄に直行さ。

 だからさっさと準備を済ませ、

 このクロハ領とはおさらばするぞ」

 指名手配は戦争の重要人物や明確な意思を持って

数多の命を奪った人間に化せられる手配である。

準指名手配は敗戦した領地の兵士、

指名手配人への協力を行った人間に対し、

化せられる手配だ。

捕まり次第手配を受けた人間は

永遠に日を拝む事はないだろう。

身体の痛みが未だに拷問の日々を

フラッシュバックさせる。

「何で俺を助けようとするんだ

 あんたにとって何か得でもあるのか?」

 素直な疑問をぶつける。

利用されるにせよこのジェイクという男が

どういう人間性を持っているか

知るには妥当な質問だ。

利用する為に嘘をつくか、

全てを明かし正直に話すか。

これから関わりを持つからには

知っておきたい要素である。

 ジェイクは無精髭をいじりながら

眉を潜めて考え込む。

「んー今回の脱出計画に参加させようって

 提案したのは俺自身じゃないぜ。

 頭下げて頼んで来たのはイアンだ」

「···なに言ってるんだ?」

ジェイクから聞いた話は

自分が感じたイアンに対する印象とは

真逆の事ばかりであった。

衛兵に見つかった日は

手負いの仲間を逃がす為に囮になり、

申し訳なさから連合軍の基地で救出を志願したのも

イアン自身だったという。

「すぐそこまで連合軍が来てる。

 今ここで決めてくれ商人、エリック」

「名前···ばれてたんだな」

 唯一基地から脱出時取り返した

手荷物から財布を取り出して銅貨を手のひらに

握り、握手を交わす。

ある地方の商人は誓いを立てる時にコインを使う。

信用とお互いの利益を守れるよう

努力しようと誓い合う気休めの程度の風習だ。

しかし俺はこの誓いに人生をかけた。

いつか自身の店を持つ為に、

まだ死ぬ訳にはいかない。


 精霊神殿を隠すようにある森に

入り込む黒い影達がいた。

影達は神殿外部の監視をする

クロハ領の兵士を見つけると、音もなく

背後に迫り、禍々しい紫色の刀で頸椎を突き刺して

暗殺していく。

「がっ······ぁっ」

「観測者の暗殺を確認、066隊集合せよ」

 50以上の複数の影はより集まり、

最終的に九つの人間に形に成り変わる。

軍用の自然に溶け込む

特殊なマントを身につけていて、

この中の一人が口元の布をほどく。

「これより、神殿内部を探索しクロハ領主の

 捕縛および護衛の騎士の暗殺を開始する」


 神殿内部、クロハ領主室前。

血の水溜まりに天井から落ちる血の雫が落ち、

時計の音のように等間隔で廊下に響く。

クロハ兵士達は苦悶の表情で

遺体となって横たわっており、領主室の前には

赤く染まった影らが暗闇の底から現れる。

「騎士の姿を見た者はいたか」

「いいや、確認できない。

 既にこの神殿を立ち去ったのではないか」

「待て、中に誰かいるぞ」

 臨戦態勢に入る影達はゆっくりと扉を開ける。

そこにはクロハ領主の姿があった。

影達は周りを確認し、即座に分裂して

あらゆる位置から取り囲み、

刀を領主の首もとへ構える。

刃は妖しく光輝き、まだ血濡れの跡が何人者の人間を

切り裂いた事を表す。

「ご機嫌麗しゅうクロハ領主、

 お付きの騎士はどうしましたか」

 影の一人がじっとりと注視しながら、

礼儀よく挨拶をする。

クロハ領主は刀を喉元に突きつけられたままに

顔をひきつけさせながら、息を吐く。

「皆、我を見限り出ていってしまったな。

 パープルスワンプ領の

 漆黒の影隊と見受けるが、

 武器一つ持たぬ我にここまで

 警戒する必要があるのか」

「ククク、五世紀に一度偶発的に

 開くかどうかの他世界の扉。

 それを既に三つ、人為的に開いた貴方を

 警戒しない人間はいない。

 我々は条件次第で貴方の命をお救いしましょう。

 その代わり、是非とも

 扉を開く技法を教えていただきたい」

「君たちの複数の影になる能力、

 他世界の知識と技術の賜物だろう。

 その力を持ちながら

 更なる力を欲するというのか」

「この能力だけでは周りの強大な領地に

 太刀打ちが出来ないのは

 よくお分かりでしょう」

 呆れ果てたような声音で影の一人は

自分達の能力の万能性を否定する。

「鋼の硬度を持つ魔導兵器のゴーレムや

 新しい地形を書き換えて進化し続ける地図。

 これら強力な兵器を前に我々が生き残るには

 未発見の新たな技術を取り込んで

 対抗するか、地に這いつくばり主導権を

 渡すしかないのです」

 影の携えた刀がクロハ領主の腹部に

潜り込むように突き刺さる。

冷たい紫の刃は背後にある

背もたれをも貫いていき、

内部で滞留した血液がクロハ領主の口から溢れる。

痛みと突然の出来事に目を見開き、

苦しみで顔を歪ませながらクロハ領主は

体勢を崩し椅子から転げ落ちる。

上を向くと影達の真っ暗な冷めた瞳が覗く。

「影武者を用意してまでかくれんぼを続けるとは

 クロハ領主は用心深いですね。

 本人は他世界に逃げたのでしょうか」

 刀を引き抜くと、幻は解けてクロハ領主と

思われた人物は別人に姿を変える。

今度は別の影が口を開く。

「それはありえない、他世界とこちらの扉は

 常に座標が固定されている。

 今領地を捨てて逃げてしまえば袋の鼠だ」


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