思い出す!
ソレを口にした瞬間、全身を虫を這うかの様な嫌悪感と苦みと酸っぱさがグチャグチャになったかの様な形容し難い味に思わず叫んでいた。
「うあーんッ!!」
―――――ゲロマズッ!!
そして、何故ゲロマズと叫んだはずが泣声なのかと。
「どうしたの?美味しいでしょ?マリー」
ニッコリと美しい微笑を浮かべた黒髪青い瞳の美人さんがスプーンを持ったまま、私を見つめていた。
「熱かったのかな?」
そんな美人さんの隣には、これまた美形なお兄さん。キラキラの銀髪を軽く後ろに流し、赤茶の瞳にノンフレームの眼鏡を掛けた明らかな外人さん。どちらもニコニコと極上の笑顔を浮かべている。
「ま、まじゅ…」
マズイが舌ッ足らずに…。口の中が悲惨な事になっているのだが。
それよりも、どう考えても二人と規格が違う…。
体も動かしにくい上に頭も重い、そして極め付けがこの幼児専用イス。
どうにも嫌な予感バリバリである。
「え?美味しくないの?今日は殿下が分けて下さったリカの実の離乳食ですのに…」
「サラ、味見したのかい?」
「えぇ、甘酸っぱい良い出来ですのよ?」
心底不思議という顔のサラさん。
いやいや、コレが甘酸っぱいならゴーヤも甘いよ!
「どれ?…美味しいよ?」
美形さんも味見をするが、美味しいという。
私の味覚が変なのか…?
いや、そんなはずはないと思う。
「何か違うのを持ってきますわ。確か一緒にユナンの果実も頂きましたから、擂って蜂蜜を少し混ぜてみますわね」
「ユナンなら甘いから、きっと気に入るね」
会話からは何の果物なのかまったく想像が出来ない。
サラさんが部屋を出て行くのじっと見ていると美形さんがおもむろに私を抱き上げた。
「マリーそんなに泣いては目が溶けてしまうよ?今、母様が美味しいのを作ってくれるから泣き止みなさい。父様もマリーがそんなに泣いていると悲しくなってしまうよ…」
――――チュッ。
頬に美形さんがキスをする。
そして私は気付いた。この目の前の美形さんは父でサラさんは母なのだと。
なんってこった!
外人しかも超美形の子供に生まれ変わってしまった。
離乳食から多分まだ一歳程なんだろうが、部屋の様子プラス服装が明らかに平成の時代ではない。
部屋は映画であるような長いダイニングテーブル、一体何人座るのかという長さだし。美形さんの服は紺色を基調にした軍服のように見える。
私は一体何時代に生まれたんだ…?
頭の中ではグルグルと色々な事が廻っていた。
その間も美形さん、もとい父は額やら瞼にキスしまくりだ。
「…とぅしゃ」
思わず口から洩れる呟き。
「マリー!初めて父と言ってくれたね!あぁ何て日だ!」
感激で微笑二割り増しの美父が私を抱きしめ頬ずりする。
「もう一度、父様と!」
恐ろしく期待の籠った目で見られても…。
マズイ物を食べた瞬間に、その衝撃で前世を思い出すとは色々と残念だ。
そして幼児とはいえ結構な羞恥だ。
「とぅしゃ!」
「おぉ!マリーは賢いな!」
でも美形に褒められるのは純粋に嬉しい。幼児だからなのか、それともこの人が父だから本能でかまってもらえるのが嬉しいのかは解らないが。
「あら、どうしましたの?ジェラルド様がそんなに楽しそうなのは珍しいですわね」
「サラ!マリーが父様と呼んでくれたのだ!」
「まぁ!今まで単語がなかなか出ませんでしたのに、初めてをジェラルド様に取られてしまいましたわ」
グリーンのドレスを翻して、小さな器を持ったサラさんがちょっと残念そうな表情を浮かべる。
何だろう、美人のこんな顔は物凄い罪悪感が生まれる。
「確かに私だけは不公平だな!マリー、頑張って母様と呼ぶんだ」
うわぁ…一見冷たそうな美形ジェラルドさんが、親馬鹿に見える。
でも私も美人美形には弱い様だ。
「かぁしゃま!」
滑舌が悪いのは愛嬌だ、許せ!
「まぁまぁ、マリーは賢いですわね!」
「私達の子だ、将来はきっと賢く可愛い淑女になるはずだ」
確かに、この二人の子供なら将来は美人になりそうだが前世の私はアレだったからなぁ。
どうなる事か…。
「それにしてもマリーは見事なオッドアイになってしまったな」
「そうですわね。殿下も見事に金と銀ですがマリーは青と赤、まさしく私達の色ですわね」
「だが嬉しいな。自分の子供というのは、今まで見ていた子供はなんだったという気さえしてくる」
「私も生まれた瞬間には涙が零れましたもの。大好きな貴方との子ですもの」
そうか、私は望まれていたのか。
こんなに愛されているのだな。
前世でも両親はどんなにオデブでも毎日ニコニコと愛情を持って接してくれた。これが親という者なのか…。
「ちゅき!」
そんな二人に両手を一杯伸ばしていた。
「私もだよ」
ジェラルドさんが瞳を潤ませながら私とサラさんを抱きしめる。両親の腕に包まれながら、私はこれからの未来をこの二人に報いる様に生きようと思った。
「さぁ、ユナンの果実ですわ」
小皿に載ったユナンという果実は見事なまでに毒々しい紫色だった…。
さっきは甘いと言っていたが、これは食べてもいい色なんだろうか。私には黒い靄が渦巻いている様にさえ見えるのだが。
「これはユナンと言って、甘い果実なんだよ?さぁ、食べてみよう?」
サラさんが差し出すスプーンを加えた瞬間。
ねっとりとした練乳を何倍も甘くした様な味に、さっきとは違う衝撃が襲う。いくら何でもコレは甘過ぎだ。しかも蜂蜜を加えたと言っていたよね。残念の一言に尽きる…。
でも我慢できる。
食べれない訳ではない。
「おぉ、美味しいかい?」
「コレなら大丈夫そうですわね」
いやいや、大丈夫ではないけど。かなり我慢してるけど…。
もしかして、この世界は世に言う『飯マズ』というやつなのだろうか?
それならば納得できるかも。
この両親が変な顔せず口に含んでいたのだ。前世の両親ならば含んだ瞬間に吐き出すだろう。
私でさえも毒か!?と思ったのだ。それを普通に食べてる時点で全ての物がこの調子なんではないだろうか?
――――この世は地獄です。
前世で好きだったキャラが呟く一言が思いだされる。
ほんとご飯がマズイなんてどんな拷問だよ。
よし!決めた。私は前世の記憶知識をフルに使って『飯マズ』を脱却する!
そして、この二人に褒めて貰うんだ!
美男美女の微笑を見る為に私頑張るよ!