朝から嫌な感じ?
「…よかっ、た…大丈夫…?」
その日――――朝から何だか妙な胸騒ぎはあった。
目が覚めた瞬間、今日は多分何かが起こるって。
私――――「雪音 円」は自他共に認めるオデブだ。
幼少期から現在20歳になった今まで痩せたという時が無い位、全体的にムチムチなのだ。
実家が定食屋というのも原因なのかもしれないが、両親は標準体型だ。まったくもって世の中、理不尽だと思う。食事もお菓子も大抵は両親の手作り、これは不満も無いし自分でも食べるのも作るのも好きだから両親には作り方から盛り付け色々教えて貰っていた。
将来も実家を継ぐのだと思っていたから、調理科のある高校に進学して更に調理師の専門学校に進んだ。
卒業してからは実家の手伝いをしながら、三代目を目指し修行中だ。
そんな私が朝起きて、何かが変?
いや、胸騒ぎがする?
そんな感覚を感じたのだ。
昔から第六感とでもいうのか虫の知らせとでもいうのか、嫌な感じがするという感覚だけは何故か良く当たった。
今朝もその感覚が目覚めた瞬間から纏わりついているのだ。
「円ぁ、起きたの~?」
「起きてる!」
「ご飯出来てるわよ」
「今いく~!」
母の声に反応を返しながら、適当な服に着替えて鏡を覗きながら髪を軽く纏めた。
「おはよ」
「「おはよう」」
ニコニコと笑顔を浮かべた両親にあいさつをしつつ食卓に着く。
すでにテーブルには卵焼き、焼魚、昨日の残りの煮物、ワカメと油揚げの味噌汁などが並んでいた。
「今日、佐々木さんの所からネギ貰ってきてくれない?」
佐々木さんは近所の農家さんでウチの定食屋で使っている野菜のほとんどは、佐々木さんの所から仕入れている。
「わかった。食べたら行ってくるね」
うん、今日のご飯も美味しい。
味噌汁を飲みながら、味の滲みた煮物うまうま。
そんな私を両親は相も変わらずニコニコと見ていた。
大量のネギが入った袋を抱えながら店まで五分と掛からない道を歩きながら、今日の日替わり定食のメニューを考える。
店は小さい商店街の中にあり、その周りは畑と住宅街という何処にでもある町の定食屋だ。
お客さんも大抵近所のお年寄りや家族連れだ。
「あれ…?」
車道の端と端に猫が二匹いた。
大きさからいえば、親子だろうか茶のトラ猫。大きいのと半分位の大きさの子猫。
子猫が小さく鳴きながら車道を渡ろうとしているのだ。
ここまできて、自分の背中を嫌なモノが這う様な感覚に気付く。
でも、そんな感覚を感じた時には走っていた。
「危ない!!!」
目の前に軽トラックが…。
――――――ドンッ!!
子猫を親猫の方に放り投げ、自分はネギを放り投げ跳ね飛ばされた。
いくら体に脂肪がついているとはいえ地面に叩き付けられれば痛い。
というか死ぬかも…。
軽トラックの運転していた爺ちゃんは明らかに居眠りっぽい、オマケに民家の外壁に突っ込んでるし。
ニャーニャー…。
投げ飛ばしたはずの子猫が一生懸命こっちに向かって鳴くのを見ながら、心底良かったと思った。
「…よかった、大丈夫…?」
絞り出した声と体の痛みとで意識も自分の生も尽きるのだと悟った。
―――――朝からの悪寒はコレか…。父さん、母さんゴメン先逝く…。
そんな事を考えながらブラックアウトした。