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8話 加速

「雪村さん……でしたっけ?」

「あ……はい、雪村少尉です」

 名前を呼ばれた雪村が我に返ったのか間が空いてから返事をする。

「このシールド系の魔導器、私の言うタイミングで解除できるかな?」

「…はい、私の魔力によって膨張してるのであれに送っている魔力を切るタイミングを変えれば可能だとは思いますが」

それを聞けば実原は小さく頷いてゆっくりと刀を構える。すると染川に付き添っていた根谷が実原の横に立つ。

「先輩、私も行きます」

「根谷さん……」

「困った人を助けるのが、魔導兵なんですから……」

 実原は小さく微笑む。

「雪村さん、3秒後解除をお願い!」

 それと同時に実原は走り出す。その瞬間膨張していた球体が一瞬で消滅し、実原が刀を大きく振るう。現れた赤と黒に包まれた暴走した何かに当たりはするも、化物の体はその攻撃を平然と受け止める。

「先輩、どうしますか……」

「……暴走した偽聖字(アウラ)を止めるための抑制剤を使う、暴走時の仕組みは同じはずだから」

「だとしたら……」

 抑制剤、それは暴走した偽聖字(アウラ)を止めるために作られた魔力を鎮静する薬である。液体で注射器状になっており、体内に撃ち込むことによって効果を発揮する。

「あれの動きを何とかして止める。そのうちに誰かがあれに抑制剤を撃ち込む」

「でもあれ注射器刺さるんですかね……」

「いくら硬くても関節部分は柔らかいはず、そこを狙おう」

 根谷は小さく頷く。

「これはあなたに任せても……大丈夫かな?」

 そう言って実原は持っていた抑制剤を雪村に差し出す。

「……」

 雪村はそれを手にすれば無言で頷く。

 実原は笑顔で返せば、根谷とアイコンタクトを取るように視線を合わせる。

「いきます!」

 根谷は大きく飛べば勢い良く腰を曲げて腰部分から伸びた尻尾を化物の腕の関節部分に突き刺す。それは先程弾かれていた時と違い尻尾の先端が化物の肉に突き刺さる。

「ぐ…がぁ……」

「よし、刺さった―――」

 根谷が安堵したその刹那、化物は大きく腕を振りその勢いで根谷が壁に叩きつけられる。

「くっ……」

 実原は持っていた刀を握りしめながら化けもに対して大きく踏み込む。振るった刀が何度か交えた後に化物の大きく振り上げた腕に反応して後ろの方へ大きく飛んで振り下ろされた攻撃を躱す。

「まだっ!」

 一瞬だった。そこにいたはずの実原はありえない速度で化物の腕を切り裂いた。加速(ジ・アクセル)。世界に26人しか存在しない魔導器なしに魔法を行使する者、聖字(ルーン)を持つもの。神から許されたその力を実原は行使し、通常の何倍も早く動くことが出来るのだ。

「一撃入った……?」

 壁に叩きつけられ倒れていた根谷が起き上がる。

「でも……」

 浅い。それにこんなにチマチマ攻撃していたらこちらの魔力が先に尽きてしまうのは明らかだ。

「……」

 実原はゆっくりとその様子を一切手を出さずに見ていた香椎の方へと視線を傾ける。

「……それの使用は私の管轄外だ。好きにしろ」

 その言葉を聞けば、実原は持っていた刀へ魔力を注ぐことをやめる。すると刀の刃は霧散するように消滅する。

「……いきます」

 実原は刀の柄と鍔の部分を大きく引っ張る。すると柄の部分が大きく伸びる。そして再び実原が魔力を込めると鍔の部分から先ほどとは全く形状の違う刃が姿を現した。その形はまさに槍のような形をしていた。

「槍って……」

 槍の魔導器。物自体は珍しくないが、使っている魔導兵は少ない。そもそもユグドラシルと魔導器で戦う場合遠距離から攻撃することが基本になっており護身用、もしくは狭い場所で戦う際に近接用の魔導器を用いる。その為剣ならともかく槍を使う魔導兵は数百人いる魔導兵の中でもかなり限られている。

 実原は武器を槍の形状に変化させれば、再び化物に対して大きく踏み込んだ。それに対して化物は腕を薙ぎ払うように振るったが、実原はすでに化物の後ろへと移動していた。

「そこ!」

 右足の関節部分。膝に槍の先端部分が突き刺さる。と同時に次の行動にすぐに移っていた実原の一撃が左腕の関節部分に入る。腕と足の両方にほぼ同士に攻撃を受けた化物がバランスを崩して倒れ込んだ。

「今だよ!」

 雪村は抑制剤を片手に戦場へと足を踏み込む。だが倒れていた化物の尻尾が近づいてきた雪村を襲う。

「まずい!」

「あ―――」

 だがその攻撃は雪村に届くことはなく、直撃する一歩手前で動きを止めた。

「……あれ?」

 反射的に目をつむっていた雪村が目を開くとそこに映っていたのはさっきとまでは全く違う景色だった。一瞬死んでしまったのかと思ったが、実原も根谷も呆然としていた。

「おい、餓鬼ども」

 声をした方に雪村が振り向けば、そこには白いコートを来た金髪の女性が立ち尽くしていた。

「これは一体どういう状況だ……?」

 東支部の氷雪の騎士、神木(かみき)和音(かのん)。そんな有名人が私の眼の前にいることに気づくまで、一体どれだけの時間がかかったのだろうか。




「……まさか神木までここに乗り込んでくるとはな」

 誰もいない部屋に一人残りモニターを眺めていた中本と呼ばれていた男が銃を片手に立ち上がる。

「さすがに無理だな、俺も退却するか―――」

「出来ると思っているのか?」

 そう言って中本の後頭部に銃が押し付けられた。


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