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5話 作戦会議

「おい実原」

 食堂でからあげを頬張りながら資料を眺めていた実原が自分のことを呼ぶ声の方に向けばそこには香椎が急いだ様子で額に汗を垂らしながら食堂に入ってきていた。

「どうしたんですか司さん、そんなに急いで」

 香椎は小走りで実原に近づく。

「染川が……帰ってきたぞ」

「染川くんが……!?」

 実原はその言葉を聞けば皿に盛られていたからあげをあっという間に平らげてしまう。

 染川(そめかわ)龍二(りゅうじ)、20歳。アカデミー卒業後国沢や根谷と同じく偽聖字(アウラ)の被験者となりその後偽聖字(アウラ)持ちとなった青年魔導兵の一人。ただかなり使い勝手がいいのか、よく別の支部の応援に行ったりしており、直属の香椎班からしばらく離れていたのだ。

「国沢くんは……?」

「察しろ」

 国沢は染川のことがとても嫌いだ。染川と国沢はアカデミーで一、二位を争う中で、最終的に主席で卒業したのは国沢の方なのだが実際頼りにされているのは染川という事実が気に入らないらしく、いつも国沢の染川への態度は冷たいものだった。

「劣等感というのは誰かに言われてどうにかなるものではないからな。それよりも―――」

 そう言っているうちに特別派遣部隊の作戦室まで辿り着くが、作戦室の前に一人の青年が立っていた。

「あ、香椎少佐と実原大尉」

 青年はペコリと頭を下げる。

「頭を上げろ、染川少尉。お疲れ様だな」

 香椎の言葉を聞き素直に染川と呼ばれた青年は頭を上げる。

「それよりも少佐、土産話を聞いてもらうよりも大事な(くだん)があると聞いているのですが」

「やはりお前の耳にも届いていたのか」

 はい、と染川は小さく頷く。

「裏カジノの件、自分も参加したいので資料一式いただけないでしょうか」




「……大型の会議って本当に慣れませんね」

「まぁお前も少佐になる頃には慣れているさ」

 それでも慣れたくないなぁと心に思いながらも自分にとって後輩でもある国沢たちにかっこ悪いところ見せれないとタブレットをしっかり握りしめる。

「皆さんお揃いのようなので始めさせていただきますね。私今回の作戦を担当させていただきます、丹羽(にわ)明日香(あすか)と申します」

 30代半ばくらいの大人びた顔立ちの女性が一礼をする。

「今回の作戦だが、各班の情報収集の結果を拝見させてもらいました。その情報を下に作戦を組ませてもらいます」

 そう言って電子ボードに色んなデータが映し出される。

「まずカジノに関してですが、場所がクアトロガービア7区の路地裏にある地下施設と思われる。これに関しては聞き取り調査の下私の班の雪村少尉が割り出してくれた。この情報は早い段階で共有化されていたと思う。そしてこのカジノ、どうやら一般人でも参加できるようになっているらしく普通の一般人も混じっているようだ。そして入り口で魔力濃度数を図られユグドラシルだけが奥のVIPルームへ入れるようだ」

「そんなに詳しく……」

「一体誰が……」

 説明している丹羽を傍らにチラホラと話し声が聞こえ始める。

「こちらに関しては香椎班の国沢中尉が全て情報集めをしてくれた。今から国沢中尉が作ったカジノの見取り図を配る、頭に叩き込んでほしい」

 そう言ってタブレットに送信された見取り図をそれぞれがファイルを開く。

「見ての通り入り口は3箇所存在する。一箇所に突撃すれば逃げられる可能性が高い。それで立てた作戦―――というよりはこれも国沢中尉の提案なのだが」

 丹羽が何かのボタンを押せば電子ボードの画面が変わる。

「香椎班の特別派遣部隊の特徴を活かして香椎班に先にVIPルームへ先行してもらう」

「待ってください!」

 そう言って立ち上がったのは香椎だった。

「うちの班員を特攻させろと……?」

「いや」

 丹羽は小さく首を振る。

偽聖字(アウラ)を持つ特別派遣部隊は人間に比べて魔力濃度数が高いのは香椎少佐もご存知でしょう?」

「……はい」

「それを利用して先にユグドラシルとして侵入し、私達の攻撃開始と同時に中からも攻撃してもらうという作戦だ」

「……」

 根谷は放心状態だった。

「国沢くん……」

 後ろで不敵に笑みを浮かべていた国沢に実原が視線を向ける。

 そこまでしてその力を使いたいんだね、君は。

「……俺は有効作戦を提案しただけですが」

 沈黙する一室で香椎だけは座らずにその場で立ち尽くす。

「ですがその作戦、戦闘経験の少ない少尉や中尉には難しいと…」

「そんなことはありません」

 反論したのは国沢だった。

「俺―――自分はユグドラシルとの戦闘くらい可能ですし、染川少尉もそれなりに戦闘経験があるはずです」

 悔しいが。

「根谷は戦闘経験に乏しいかもしれませんが、自分と染川少尉で十分カバーできます」

 これはマジ。

「それに実原大尉の偽聖字(アウラ)持ちで、それなりの実力があります」

 流石にお世辞。

「第2世代と遭遇すれば迷わず撤退、これは約束させていただきます」

 そんな約束守らんがな。

「香椎少佐、許可を」

 淡々と説明された香椎は黙ってそれを頷くことしかできなかった。

「決まったようだな。では香椎班……偽聖字(アウラ)を持たない香椎を抜いた四人で先遣部隊を組む。班長は実原大尉。そして国沢中尉、染川少尉、根谷少尉。以上四名を裏カジノ制圧作戦の先遣部隊に任命する」

「……」

 大変なことになってきた。実原はそう思いながら胸をギュッと握りしめた。


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