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2話 アウラ

「国沢、よく追い詰めてくれた…」

「…はい」

 香椎は右手に持つ鉈のようなものを構える。

「鬼殺し、どんな硬いものでも叩き切る魔導器だ。お前の体がどれだけ固くても、関係ない」

「…」

 ユグドラシル―――増田は失った右腕の方をちらりと見てから小さくため息をつく。

「わかった、降参だ。おとなしく捕まるよ」

「…」

「んな―――えっ」

 増田は不思議そうな顔をしながら魔導兵たちを眺めていた。否、増田の不思議そうな顔だけが床に転がっていた。

「国沢…!?」

 国沢と呼ばれた男が自分の指先から出た糸で増田の首を真っ二つに落としたのだ。

「追い詰めたのは俺です。功績を上げるために自分が討ち取りたかった、それだけです。それに―――」

 そう言いながら指先から出た糸がぷちんと切れる。

「俺のSの偽聖字(アウラ)でこいつを仕留めるくらいできたはずです。香椎少佐の手を煩わせるまででもありません」

 国沢そう言いながらポケットから手袋を取り出し、両手にはめる。

 偽聖字(アウラ)、捕獲したユグドラシルの細胞を体内に取り込むことで通常の聖字(ルーン)持ちと同じく魔導器無しで魔法を行使することの出来る存在。

「兎に角、本部に戻りましょう…」

 その瞬間だった。突然空から黒い帯状の魔力が無数に降り注いだ。魔力の帯は地面に当たれば更に折れ曲がって別のものを破壊していく。

「なんだ、これは…」

「危ない…!」

 国沢を押しのけて実原が持っていた刀の柄を振るう。振るった瞬間その刀の柄に魔力で生成された刃が生まれ、黒い帯が放たれる先の何かと衝突する。

「はは、すげぇ!受け止めやがった!!」

 白髪に黒いマント、やせ細った体に狂気すら感じさせる表情。そして何より人間の腕ではない、まるでユグドラシルの腕のようなものが実原の振るった刃と交わる。

「実原…大尉…」

「く…」

 魔力で出来ているとはいえ刀の刃だというのに白髪の男は全く引くこと無く刀と交わる腕を押し付けてくる。

「なんで、切れない…」

「お前に用は、ねえッての」

 そういって男は一旦ジャンプをして実原の後ろに回り込む。

「どけろ」

 爆音波、それ以外に比喩しようのない巨大な叫びが辺りをこだまする。それが衝撃波となり辺りにいた実原達は吹き飛ばされてしまう。

「ンあ、こいつ死ンでるのか」

 そう言って白髪の男は転がる増田の頭を掴むがすぐに投げ捨てて体の方に向かう。

「どこにあンのかわかンねェし、グチャグチャにする」

 男の背中から黒く、禍々しい巨大な翼が皮膚を破るように生えてくる。その翼を広げ、男は魔力を練るように集中しだす。

「あン?」

 真っ赤な血が宙を舞った。男の右腕が血を流しながら地べたを転がる。転がる先には実原が息を荒げながら刀を構えて立っていた。

「貴方…ユグドラシル…」

「そうだな、そうといえばそうかもだな」

 その瞬間男の腕の切られた部分から職種のようなものが生えてき、それが腕とつながればそのまま男の腕にひっついていく。

「…再生!?」

「他の奴は殺すなッて言われてンだけど、邪魔するンだったら―――」

 だが男は続きを話すこと無く口を開けたままポカーンとした表情で実原のことを見つめる。

「な、なに…」

「ンだよ」

 男は口を開く。

「お前、澪田深雪(・・・・)じャねえか」

「っ!?」

 その言葉が実原に向けて放たれた言葉なのか、はたまた独り言だったのか。だがその言葉を聞いた瞬間実原の思考は完全に停止した。

「え…?み、お…」

「実原っ!」

 急に横から割り込むように香椎が鬼殺しを振るう。よそ見をしていたからか振るわれた攻撃は男の横腹をえぐり、血しぶきが肉片とともに飛び散る。

「あ?」

「そいつの言葉を傾けるな…」

「み、ゆ…き?」

 実原は両手を頭に抱え、ブツブツと何かを呟きながら膝をつく。

「く、サポートしろ国沢!」

「…」

 後ろで再び手袋を外し構えていた国沢が両手から蜘蛛の糸を放つ。その蜘蛛の糸は男の体をぐるぐるに縛り付ける。だがその蜘蛛の糸はいとも簡単に漢によってちぎれてしまう。だがその間にすでに香椎が男の首元に狙って鬼殺しを振りかぶっていた。

「アホか」

 だが男の回し蹴りで香椎は大きく宙を舞い、地べたを転がる。

「(何やってんだよ少佐殿は…)」

 国沢は舌打ちしながら男に向かって走り出す。

「俺の偽蜘蛛男(アナザースパイダー)でこんなやつ―――」

「おッす」

 男は国沢よりも早く距離を詰めており国沢の顔面に真っ直ぐ拳が直撃する。

「国沢くん…!」

 国沢はまるで野球ボールのように放物線を描きながら大きく飛び、そのまま建物に当たり地べたに落ちれば動かなくなった。

「ホームラーン。さてと」

 再び男は増田の体が倒れるところまでゆっくり足を運ぶ。

「こいつの処分ンンンンンンンンンンンン―――」

 しかし男が増田に触れること無く国沢と同じように壁に向けて放り飛ばされた。

「はぁ…はぁ…」

 そこには息を荒げながら実原が立ち尽くしていた。

「ぐ…」

「いでェ」

 瓦礫の中から頭をポリポリとかきながら。横腹の傷もブクブクと泡を噴くように再生していた。

「なんなの、貴方…」

「ンだよ、知らねェのか」

 ペッと男は口から血を吐き出す。

魔人(アニマ)、人間にユグドラシルの細胞を取り込ンだ人工的に作り出された第二世代ユグドラシルだよ」

「第二世代…」

「聞くな…実原」

 必死に止めようとする香椎を見ながら男はにっと笑みを浮かべる。

「お前逃げたッて聞いてたンだけどな、まさか魔導兵をやッてたなンてな!」

「私が…逃げ出した…?」


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