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13話 温かさ

「ふむ……」

 3日というのはあっという間に過ぎてしまった。実原達の調べていたタクシーの運転手の線は全くハズレで、不審な点はなくそれがわかった途端に国沢も不機嫌になりだした。

「谷口班も香椎班もめぼしいものはないか……」

「申し訳ありません」

 報告を終えた香椎は小さく頭を下げながら椅子に腰を下ろす。

「いや構いません、うちも成果は全く無いんで……しかし困ったな」

 電子ボードを眺めながら神木は小さく唸る。それに対して会議室がざわつき始める。

「……参ったな。これほどの距離を短時間に移動しているのだ、何かあると思ったのだがな」

「でもタクシーに乗ってた人もタクシーの運転手さんも不自然な点が何もなかったですし……」

「何もないというのがおかしいというのは」

 染川が真顔でつぶやく。

「いや、証拠も何もない以上本当に手がかりにすらならない」

 染川、お前は黙ってろ。

「……」

「ん?」

 うずうずと何かを話したさそうにエステリアは体を震わせていたのを実原は気になり顔を覗き込む。

「エステル、なにかあるの?」

「えっ」

 エステリアは驚いたような表情を浮かべながらビクッと体を跳ねる。

「何か気付いたように見えたけど……」

「あの……」

「なにかあるなら意見しろ、お前も魔導兵だ」

「……」

 エステリアは小さく頷き挙手しながら立ち上がる。

「ん、君は……」

「あの、香椎班のエステリア・ルーカス……少尉です」

 エステリアが名乗り出るとざわつきが更に大きくなる。

「エステリアって裏カジノの……」

「ルーカス家の生き残りの」

「同胞殺しの……」

 エステリは徐々に苦虫を噛み潰した表情を浮かべていく。

「静粛に。少尉、何か意見があるのだろう」

 神木は両手を何度か叩きその場を沈める。するとざわつきが収まる。

「……あの、これは今思いついたことでなんの情報もありません。ただの可能性という話です」

「構わない、言ってくれ」

「……ヒートマンは高速道路を使用している、これを前提で話を進めます」

「ふむ」

 神木が相槌を打つ。

「今の段階で言えることはカメラで確認する限りだと同じ車を使って移動はしていない。そしてタクシーを使用している可能性もない。ではタクシー以外で通っていても不自然でない車を探せばいいんです」

「……そこまで言うんだ、具体的には?」

「……」

 エステリアはゆっくりと息を呑む。

「例えば……トラックの運転手とか」

「運送会社ってことか……」

 向かい側に座っていた有坂が言葉を漏らす。

「……竜宮寺」

「もう調べてます」

 有坂の隣りに座っていた竜宮寺に神木は視線を向ける。

「……ビンゴ、襲撃時刻付近の時間帯に荷物を運んでる運送会社が一つだけあったわ。しかも全部一致してます」

 竜宮寺のパソコンの画面がモニターに接続され、大きく映される。

「これを担当した運転手も一致、堀越(ほりこし)正太郎(しょうたろう)。でもこの人は故人です……」

「偽名とは、ますます怪しいな」

 神木はエステリアに視線を向けながら笑みをこぼす。

「明日、この男を確保する。作戦内容は各班に個別に指示をする。それと―――」

 神木はゆっくりとエステリアに近づく。

「お手柄だ、ルーカス」




「……」

 窓から外の景色を眺めながらエステリアはうとうとと体を揺らす。

「明日は作戦がある、眠いなら寝ておけ」

 後ろからエクステリアの肩にタオルケットを掛けてきたのはシャワーを浴び終え濡らした髪をタオルで巻いていた香椎だった。

「どうした?」

「……私は色んな人に迷惑をかけた罪滅ぼしをしないといけない。だから魔導兵になることを受け入れました」

 香椎はその表情からある程度エステリアの感じていたことを察したのか、小さくため息を付きエステリアに小さな体を抱き寄せた。

「お前はまだ若い。私はお前を強く感じるよ」

「強くなんてありませんよ、私にはちゃんとした戦う理由がありません」

「……お前は実原に似てるな」

「実原さんに……?」

 香椎は小さく頷く。

「あいつには4年前よりも前の記憶が無いんだ。家族も自分が誰だったのかもわからない、だから私もあいつが何故戦っているのかは知らない」

「……」

「でも何かあるんだろう、何か戦う理由が。だから4年間魔導兵を続けてこれた。何が言いたいかというとだな」

 香椎は一拍置いてから再び口を開く。

「理由はこれから見つけていけばいい、今は自分のできることを一つずつ片付けていこう」

「……はい!」

 と、そこへまるで空気を読んだかのように銀髪の女性―――ベルが扉を開けて入ってくる。

「……今大丈夫ですか?」

「ああ、構わない」

 と言いながら香椎はエステリアから離れる。

「明日のことなんですけど、例の運転手丁度明日運送の仕事があるみたいなんです。なのでヒートマンとして魔導兵を襲うところ押さえます」

「で、私たちはどうすれば?」

「目的地から逆算してヒートマンがどの魔導兵を襲うのかはわかっています、のでその魔導兵を囲うように魔導兵を配置します。ひとまずトラックの尾行は谷口班に任せます」

 谷口班。確かに東支部で有名なユグドラシルを尾行するのに東支部の魔導兵を使えば尾行に気づかれてしまう可能性が高くなる。

「香椎班は尾行する谷口班に何かあったときのために後ろから着いていってください。その後はこちらの方で再度指示します」

「了解した」

 香椎が理解したのを確認すればベルは一礼して部屋をあとにする。

「さて、明日。何もなければいいのだが」

「何かって……?」

「そりゃ……」

 香椎の表情が曇る。かつての上司の死に顔を、香椎は未だに忘れられずにいた。


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