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1話 目覚め

 魔法歴107年、人類が初めてガービアを放棄した事件。トレス事件から約四年の月日が流れた。トレス事件以来人類は魔導兵の育成に更なる力を入れるようになり、育成機関も通常の学校に加えて魔導軍が直々に設立したアカデミーと呼ばれるものが作られた。アカデミーでは通常の育成機関に比べて実戦を体験でき、より質のいい魔導兵を生み出すことが目的である。結果的に若くして居力な力を持った魔導兵が生まれる。

 人の中に混ざっていたユグドラシル達は魔導兵の尽力により次々と粛清されていき、ガービア内での平和もかなり安定し始めてきていた。と言いつつもやはりユグドラシルは未だにガービア内に潜んでおり、魔導兵は血眼になりながらその存在を殲滅するべく魔導兵が絶対の社会になりつつあった。




 北支部。全ガービアの中で一番北の位置にあるクアトロガービアを中心にユグドラシルの管理、殲滅を行っている魔導軍の駐屯地の一つである。

「あの、つかささん見てませんか!?」

 北支部の受付に走り込んできた少女は受付にいた二人の男性と女性に大きな声を浴びせる。

「へ?あ、香椎(かしい)少佐ならいつものところに行ってると―――」

「ありがとうございます!」

 そう言って少女は受付を後にして再び走り出す。

「全く、舞果日(まかひ)の奴も大変だな…」

「そうですね、なんだかんだであの二人が北支部(ここ)に来てもう二年になるんですねぇ」

 そして舞果日と呼ばれた少女は北支部を出ていき、真っ直ぐととある建物の中に入っていった。

「すいません、司さんいますか…!?」

 建物の中に入った瞬間再び大きな声が建物中に響く。その瞬間少女の頭にガンと硬いものがぶつけられる。

「うるさいぞ舞果日、他の客の迷惑だ」

「司さん。いたた…」

 司と呼ばれた女性、香椎司は持っていた丼をテーブルの上に於けば再び箸を進めていく。

「司さんまた抹茶小倉牛丼ですか、いい加減お腹壊しますよ?」

「何を言ってる、この甘さが最高なんじゃないか」

 舞果日―――実原(さねはら)舞果日も同じくテーブルに付く。ここは小さな料理屋で恐らく香椎のお気に入りなのだろう。

「じゃなくてですね、できたんですよ例の資料が!」

 その言葉を聞いた瞬間香椎の目つきが変わる。

「見せてみろ」

 実原は右手に持っていた封筒を香椎に手渡す。香椎は持っていた丼と箸をテーブルに置けば封筒からその資料を取り出す。

「やはり奴はターゲットだったのだな」

「はい、通常の人間に比べて魔力濃度が倍近くになっています」

「ふむ」

 魔力濃度。通常の人間でも魔力はあるが、魔導器を通じていないと魔法を使うことができない。それに対してユグドラシルは体内の構成が違い魔導器無しで魔法を使うことが出来る。その為魔力濃度と呼ばれる、体内から自然と放出される魔力の濃さが通常の人間とかなり数値が違うのだ。

「今夜、奴のところに行く。根谷(ねだに)国沢(くにさわ)にも待機させておけ」

「りょーかいです」




「およよ、どうやら泳がせていたゴミが見つかってしまったみたいじゃぞ」

「…」

「うぬは相変わらずだんまりじゃのう」

 髪の先が白く頭頂部分から生えている髪が紫がかった色。赤色のフードをかぶった小柄な体型に仮面のようなものをかぶった少女はビルの上からその様子を眺めていた。少女の振り返る先には真っ白の髪に目の下には隈。やせ細った体をしているが男性の体の体型は残っており、自分の指をガジガジとかんでいる。

「ウルセェ」

「今回はわしでなくうぬが出向くことになっている、頼んだぞ…椎名」

 椎名と呼ばれたその男は軽く舌打ちをしながら立ち上がり少女に背を向けた。




「こちらS1、状況は?」

『こちらK1、特に変化なし』

 住宅街の中に建つ家の一つを取り囲むように実原は家の前に身を潜めながら通信機を手にする。

「実原の下調べによるとこの家には目標以外にも住んでいる、少し手出しはしにくいが…」

 実原の隣で香椎が端末に保存された資料を見ながら口にする。

「…私が行きます」

『先輩っ!?』

『…』

 通信機から女の子のような声が響く。

「ここでこうしてても始まらない」

 そういって実原は家のインターホンを鳴らす。すると中から女子高生くらいの女の子が中から出てきた。

「はい…えっと…」

「夜分遅くにすいません、私魔導兵の実原と申します」

 そういって実原は手帳のようなものを見せる。

「魔導軍…大尉さん?」

「はい」

「えっと、ご用件は…」

『目標はその子じゃない、うまく対応しろよ実原』

 耳についた通信機を通じて香椎の声が聞こえた。

「えと、増田弦さんはいらっしゃいますか…?」

「お父さん?ちょっと待って下さいね…」

 そう言いながら少女は再び家の中へ戻っていく。

『増田礼華(れいか)、今回のターゲットの義理の娘』

『第二世代であることを考慮するべきでは…』

 第二世代、人間とこうして人に紛れ込んだユグドラシルの間に生まれた子。通常のユグドラシルよりも高い能力を持ちかつてその圧倒的な力でガービアの一つを滅ぼしている。

「私の調べでは娘さんは奥さんの連れ子なので大丈夫だと思うのですが…」

『実原大尉』

 唐突に男の声が実原の思考を途切れさせる。

『貴女の判断ミスだと、俺は思いますよ』

「…なにが?」

「おとうさーん、魔導軍の人が―――」

 その瞬間大きな爆発音が鳴り響く。家の二階から何かが窓を突き破って屋根から屋根へ渡るように走っていく。

「あれは…!」

『まぁ逃げられませんよ、俺からは』




「くそ、くそ…なんでいきなり魔導軍が―――」

 男は途中屋根から飛び降り小道を走っていたが急に体が動かなくなってしまう。

「な、なんだこれは…」

 何かに体を縛られているような感覚になんとか解けようと体を動かすが、男の体が動くことはなかった。

「無駄だ、俺の蜘蛛の糸からは逃げることはできない」

 上の方から声が聞こえ、その声の主が飛び降りる。

「ゴミが、手こずらせるな」

「ま、魔導軍…」

「何故こうしているかわかるな、化物」

「ぐ、ぐ…」

 男の目の色はどんどん充血していき息も荒くなっていく。

「ふざ、けんなぁ!」

 男の体を捕らえていた糸はちぎれて解放される。そして腕が鎌のようなものに変化すればそのままコートを着た少年に振りかぶる。

「バカが」

 少年は人間離れしたように高く飛び、壁の上をまるで蜘蛛のように張り付く。

「たかが人間如きにやられて、たまるか…!」

 男―――ユグドラシルの尻の部分からサソリの尻尾のようなものが生えてき、それが少年に向かって放たれる。少年は何事もなかったようにそれを躱す。

「バカはお前だ」

 ユグドラシルは大きく飛べば宙を舞う少年に向かって鎌を振りかぶる。

「終わりだ、魔導兵…!」

 だがその鎌が少年に振るわれることはなかった。

「は?」

 振りかぶられた鎌の付いた腕は振るう直前で腕ごと切り落ちた。

「なんで…」

「これが俺の力だ」

 呆然としていたユグドラシルに少年は回し蹴りを入れる。

「ぐ、げ…」

「俺の作った糸だ、刃物のように切れる。普段は使わないが…」

「なんで人間がそんなもの作れて…」

「それはもちろん…」

 少年の目つきが変わる。

「俺が人間じゃないからだ」

「人間じゃない…でもお前はユグドラシルでもない…!」

「そうだ。人間でありながらユグドラシルの細胞を使い擬似的に聖字(ルーン)を使えるようにした人工文字持ち。それが俺たち―――」

 少年に続いて栗色のパーマがかった髪の少女や実原、香椎もやってくる。

「特別派遣部隊だ…!」


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