表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
95/395

三十一話 バルスピーチ


突如として放たれた熱閃により、シネト村の三割は消滅した。

その格の違う恐ろしいまでの威力に

レオは開いた口が塞がらない。


「全員、気を確かに! 体勢を立て直して!」


唯一冷静なシンシアの声も、誰の耳にも届かない。

全員が自分の意識から隔離されている呆然とした状態。

次に意識が戻ったのは朔桜だった。


「ノア……ちゃん? ノアちゃんどこ!!」


朔桜の問いかけに答える者はいない。

聞こえていて口にしない者。

耳に入っていない者もいる。

抗いようの無い今の一撃で、戦況が変わってしまった。

皆の戦意が一瞬で奪われてしまった。


「全員一度引くわよ! 早く!!」


「ダメ!! ノアちゃんがまだ――――」


「この目ではっきり見た! ノアは……死んだわ」


朔桜はシンシアの確信的な言葉にショックを受けて膝から崩れる。


「そんな……」


ショックを受け止められず、座り込む朔桜に

悲しむ暇など与えてはくれなかった。

遠くの湖に潜んでいたモノが、突如として水面に姿を現す。

ハートをひっくり返したような、体長三メートルほどの巨大な桃色の体。

水面を無数の触手が躍る。

中心には縦に開いて飛び出た一眼が気味悪くぎょろぎょろと動く。

あれが“精霊女王の忘れ形見”にして“喰者(フルーヅ)”の一体。複製結合バルスピーチ。

何かを仕掛けてくるのは明らかだ。

だが、今の熱閃で皆の意識は散漫としている。

そんな中でも、シンシアは有無を言わさず、先制で矢を放った。


「刮目せよ! バルスピーチ!

天の星々よ、私に従い、悪を貫け! 流星群(ミーティア)!!」


放たれた矢を追うようにして

天から無数の光の矢が降り注ぐ。

宇宙(そら)の光が落ちてくる。

危機を感じ取ったバルスピーチは、触手を空に向けた。

触手の中は、大人一人が通れるほどの空洞。

空洞部から《複製》したネオパンサーを触手から頭上に排出し

肉壁として光の矢にぶつけて使い捨てる。


「シンシアさんの言った通りだ!

やっぱりあいつがネオパンサーを複製していたのか!」


光の矢はネオパンサーの壁を容易く貫き、バルスピーチをズタズタに貫く。

矢を受けた箇所から桃色の飛沫を上げて

藻掻くバルスピーチは泡とともに湖へと沈んでいった。


「やったか!?」


レオが禁句を口にする。


「まだよ! あの程度では倒せていないわ! 今のうちに全員退避しましょう!」


シンシアの言葉に従い、皆が退こうとした時。

バルスピーチが沈んだ場所から全く別のモノが現れた。


「なに。。。あれ。。。」


湖の水面を大きく揺らし現れたのは、五メートルほどのドクドクと脈打つ巨大な肉塊。

真っ赤な肉に緑と赤の血管らしいきモノが無数に張り巡らされて繋がっている。

水面から出ている部分であれほど大きさのだから

湖で隠れている部分も合わせるとその三倍以上はあるだろう。

全員が立ち上がり、集まるまでシンシアは弓に矢を番えたまま湖を警戒する。


「……あれから……ネオパンサー……二千体分の力を感じるわ……」


シンシアの言葉に一同は耳を疑う。


「二千。。。って。。。」


「さっきのケルベロス二十体分って事ですか!?」


「そうなるわね……」


肉塊の真ん中が開き、内側が光る。

誰が見ても力を溜めているのは明らか。


「さっきの熱閃は、バルスピーチじゃなくてあいつだったのね……。

次、あれを撃たれたら、全員消し飛んでしまうわ!」


「そんなっ! なんとか出来ませんか!?」


「あれに打ち勝つ手段はあるにはあるけど……」


シンシアはなぜか躊躇(とまど)う。


「キーフはキリエを抱えて《加足》で逃げろ。

シンシアさんは朔桜さんを連れて逃げてください」


「貴方は!?」


「俺の能力《反拳》であの攻撃を跳ね返せるか試してみます!」


「バカ野郎!! 跳ね返す前に、お前の身体が蒸発しちまうぞ!!」


「レオやめて。。。一緒に逃げよう。。。」


「いや、ここで誰かがあいつを仕留めないとシネト村の生き残った人達も

周辺の村に住む人達もみんな死んじまう。だから……俺がやるんだ」


レオは覚悟を決めていた。

それは誰にも覆す事が出来ない真っ直ぐな意志。

純粋に人を助けたいという優しい意志だ。

反射出来ない事なんて分かっているのだ。

だが、シンシアはそれを許可できない。


「レオ……私の精霊術なら奴を消し去れる。だから貴方が死ぬ必要ないわ」


「あはは、死ぬとはまだ決まってないっすよ。

シンシアさんがとっておきを隠してたのは……なんとなく分かってましたよ。

でも、使うのはここじゃない。この先なんです。なんで、ここは見せ場貰います!」


レオは仲間に背を向け、肉塊を真っ直ぐ見据え拳を構える。


「来いっ!!!」


シンシアは座り込んだ朔桜をキーフはキリエを抱える。


「レオ、巻き込んでごめんなさい……」


「相棒。俺は信じてるぞ」


二人は一言の思いを残し、朔桜とキリエが言葉を出す前にその場を去った。

湖には熱閃を限界まで溜めた醜い肉塊。

畔で対峙するレオだけが残された。

波の音だけが聞こえる静かな空間。

黒雲に覆われた夜空と深淵のように真っ暗な湖の真ん中に目映い絶望が輝く。


「さて、やるだけやってみますか!」


呟いた自分の声が静かな空間のなかでバカみたいに大きく響く。

レオは頭では分かっていた。

百パーセント、絶対に、確実に、間違いなく

あの熱閃を返すのは、無理だという事に。


「でも、やってみないと分かんないし!」


自分で自分を鼓舞し心を保つ。

ここで生還したら、英雄だ。

ここで死んでも、英雄だ。


「憧れた勇者カウルのようにかっこいい生き様じゃなかったけど、これはこれで俺らしいか」


溜まりきった絶望の光が放たれ、レオの視界全てを覆う。


「反 拳!!」


その巨大な熱線に向かってレオは小さな拳を突き立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ