二十六話 急な転換
黒い筋肉質な身体に艶のある毛並み。
鋭い眼光に大きな二つの牙。
四つ足の獣の群れがロード一行の馬車を狙い取り囲む。
その数は四十匹程。
「どけ」
早々に放ったロードの爆雷は先頭の獣を爆散させた。
それを目の当たりにして獣の群れは恐怖と警戒心から勢いを失い
ロードたちの来た道を逃げるように駆け抜けて行く。
「野生の勘か。勝てない相手だと見定めたな」
「助かった。。。でも、今向かった方向って。。。」
キリエが来た道を振り返る。
「シネト村だな」
「まずくないっすか! 追わないと!」
レオが慌てるも、ロードは冷静だ。
「村が襲われる確証はないだろ」
「ネオパンサーが集団の時は狩りをする時よ。
ほぼ間違いなく村は襲われるわね」
シンシアが確信を持って断言する。
「あの騒ぎの後に助けようと戻る方がどうかしている」
ロードは助ける気が微塵も無いようだ。
「かと言って無視できないだろ」
キーフは熱を入れてロードに抗議する。
「俺には関係のない事だ。馬車を出せ」
「待ってっ! 村の人を見殺しにできないよっ!」
朔桜が大声で制止するがロードは聞く耳を持たない。
「構わん。出せ、シンシア。
あそこは貴族も村人も質が悪かった。
助ける価値など無いに等しい」
シンシアの返事を待つ前に大きな声で一人の少年が声を上げる。
「俺は行くぜ! 勇者の背中を追う者として見過ごせない!」
「俺ももちろん行く。力を貸すぜ、レオ」
「私も二人をサポートします。。。」
「三人ともっ! ノアちゃんは?」
「朔ちゃんが行くならノアも行くー!」
「シンシアさんは!?」
「私は……助けには行きたいけど……」
「行くの!? 行かないの!? どっち!!」
「い、いきます……」
「という事でロード以外は満場一致で行きます!
なので、行きます!」
朔桜は無理やりみんなをまとめた。
「はぁ……お前はにザイアに似てて嫌になる……」
ロードは渋々戻る事を許可。
馬車は来た道を全速力で駆け戻る。
「ロード! 分かってくれたんだね!」
「戻る事は許す。だが、手を貸すとは言っていない。
お前たちが各々決めた事柄だ。自分たちで片を付けろ。俺の力は頼るな」
「ふん! いいもん。みんなで村の人を全員助けよう!」
朔桜に合わせみんなはオーと拳を上げた。
ロードとシンシアを除いて。
戻る時間を利用してにシンシアは村であった事を全員に説明する。
「酷い。。。」
キリエは口に手を当て感情を堪える。
「そんな奴はどうなろうと構わないが、他の村人には罪はない」
「ああ、俺らは出来る限り多くの人の命を救う!」
「知りもしない同種のために知りもしない他種の命を奪うか……。良い価値観だな」
「ロード! 言い方!」
「ふん。この世は弱肉強食。
弱いモノは喰われ、強いモノが喰らう。元よりそう創られている。
畜生共が村人を喰い殺そうと、お前たちが畜生共を駆逐しようとなんら間違っちゃいないさ」
「何もしないってんなら黙ってろ」
「ふん、地虫らしく精々あがいてみろ。お前らでは限度があるみたいだがな」
意味深な言葉を残し、ロードは目を閉じて寝てしまった。
時刻はすでに日没前。
思った以上にネオパンサーの足は速く
馬の足でも全然追いつくことが出来ない。
「村が見えたわ……でも……」
目の良いシンシアとノアは見えても他の皆は、はっきりと視認する事ができない。
近づいて見えてきたのは、赤く染まった大きな湖と燃え盛る村。
ネオパンサーの集団は既に村を襲っていた。
騒ぎで誰かが火を倒してしまったのだろう。
火は瞬く間に木製の家に燃え移り辺りは灼炎に満ちていた。
「シンシアさん! 急いで!」
馬に少し無理をさせて馬車は激しく揺れながらシネト村を目指す。
村の少し手前で馬車を停め、一同は装備を整えた。
出発する前にロードは朔桜を止める。
「朔桜、来い」
「なに?」
朔桜は頬を膨らませムスッとしている。
参加しないロードに対して怒っているみたいだ。
嫌々来た朔桜の顔の前でロードはパチンと指を鳴らす。
「もう済んだ。行け」
「う~~~~~!! みんな行こっ!!」
バカにされていると感じ朔桜は地団駄を踏んで
みんなを連れて急いで村へ向かった。
「さぁ、満足の行く限り、人助けとやらをしてこい」
ロードと助けたエルフの子は村の手前に馬車で待機。
朔桜、ノア、シンシア、レオ、キーフ、キリエの六人は
村人を助けるべく燃え盛る村へ向かった。




