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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
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二十三話 エルフの怒り

私は厩舎に馬と馬車を預けた後、みんなと合流するためシネト村に入る。

新規で買った馬車なので、認定書を書くのに少し手間取ってしまった。

目深にフードを被っているため、行き行く人々には

たまに怪訝(けげん)な目で見られるが、私にはもう慣れっこだ。

船着場に着いたが、みんなの姿はない。


「あれ? 何処に行ったのかしら?」


辺りを見渡すも見つける事は出来ない。

みんなを探すついでに、黒い影の事を聞き込む事にする。

シネト村は村と言っても意外と広く、道が入り組んでいたせいで

聞き込みしているうちに知らない高所地に迷い込んでしまった。

ふと横を見ると目の前に広大な湖が広がる。まるで青一面の床。

青い空と青い湖に挟まれた境界線。

見上げる雲と見下ろす雲。

それがとても幻想的な空間に感じた。


「すごい綺麗……」


自然が豊かでエナジードも豊富で生命に溢れている。

精霊界は素晴らしい。

私たちがこの手で世界を救えて良かったと実感した。

そう思ったのも束の間だった。


「ほら! 早く運べ、異形種!」


怒号とともに何度も鞭を叩く乾いた音が聞こえる。

不審に思い、息を殺し壁の隅からこっそり覗くと

絶望的な光景を目にした。

大きな荷物をか細い身体で派手な馬車に押し込む私と同じ金髪のエルフの少女。

その少女の首には、鉄の首輪を付けられている。

薄汚れた布切れ一枚を羽織らされているだけ。

横にいる丸々と太ったチョビヒゲの男は上質な服と装飾を付けている。

そして、その手には太い革の鞭。

少女の肌が晒された部分には蛇が締め上げたような痛々しい傷が付いていた。

少女は何も口答えする事なく泣きながら作業を進める。

この光景の答えは一つ。奴隷だ。

私は怒りのあまり、岩の壁を握り潰していた。


「本当によく泣く異形種だ。

前飼っていた鳥女の方が黙って言う事を聞いたぞ」


「旦那様、そろそろお時間ですが、どういたしましょう?」


派手な豪邸から召使いと思しき男が現れた。


「この異形種なんと言ったか?」


「エルフにございます」


「エルフ、こいつは労働には使えんな。

私の遥か子の代まで長持ちすると聞いておったが……。

使えるのはぁ……こいつの身体だけらしい」


ねっとりとした不快な声。

あの男、あんな幼い少女に。

許せない。


「もういい、邸に戻れ。

今晩じっくりとお仕置きしてやるからな。

隅々まで洗ってまっておれよぉ……へへへ」


少女を突き飛ばすとドスンと馬車に乗る。

走り出した馬車の前に私は静かに歩き出す。

一頭の馬と御者は驚き動きを止める。


「突然危ないじゃないか! そこを退きなさい!」


私は御者の言葉を無視する。


「何事だ」


太った男が馬車から醜い顔を出す。


「急いでいるんだ、マーケットに遅れてしまう! 早く出せ!」


御者は男の言葉に従い、私の横を通り去ろうとする。

馬車が横に合わさった瞬間、馬の手綱と御者台を小刀で断ち

拳で派手で品のない馬車を横転させた。


「な! 何事だ!」


大破した馬車からさっきの男が顔を出す。


「私は貴方みたいなモノを救うために頑張った訳じゃない」


「何を言っている無礼者っ! おい、不審者だ! 殺せ!」


大声で叫ぶと先程の豪邸から何人もの男が現れる。

手には剣や槍に弓。


「私はお前に用があるの。痛い思いをしたくないのならば手は出さないで」


私の忠告を無視して男達は私に刃を向けた。


「忠告したのに」


剣を振った腕を取り、ダンスするように背後に回り肩の関節を外す。

突いた槍の柄を片手で握り、相手の腹に突き返して捻じり込む。

放たれた矢を二本の指で挟み、矢じりを外して

私の弓『母天体(マザァーム)』に(つが)えて、射る。

出来の悪い矢は空中を揺れながらも、一ミリもズレる事はなく的確に男の眉間に命中した。


「何者だ、お前!? 暗殺者か!?」


私は言う。嘘偽りない正体を。


「通りすがりの――――勇者の味方よ」

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