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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
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二十一話 円卓の食事会

レオとキーフの全力の一撃で腹部を貫かれた賊長ジオラは、一撃で絶命。

エナとなり広場に散らばったが、レオもキーフも吸収せずそのまま天に還した。

無傷だったり、不動だったり、とジオラの無敵とも思われる行動の原理は、風。

ジオラもロードと同じく、風属性の使いだった。

風の壁を張ったり、風の斬撃を放ったりと、使い方はほぼ同じ。

だが、明確に違うのはその“格”。

レオとキーフは、ロードの絶対に越えられない力量差の風壁を一度体験している。

その感覚が鮮明に残っていたからこそ、勝機をその手に掴んだのだ。

監禁室に閉じ込めれていた女性たちに賊の着ていた服を羽織らせ、

自力で歩けそうな者から広場に出す。


「大丈夫ですか?」


「ええ……ありが……とう」


声をかけた赤毛の女性はいつ殺されるか分からない地獄から解放され

安堵から身体の少ない水分を目から流し、枯れた喉で礼の言葉を絞り出す。

レオの手を握ったその細く弱々しい手はしっかりと暖かかった。

広場にあった食料を女性たちに渡し、装備庫からまともに着れそうな衣装を探して運ぶ。

重症者を看る者。食料を運ぶ者。

衣類をかける者。汚れを落とす者。傷を手当する者。

女性たちは交互に互いを助け合いながら、手際よくこなす。

あの暗い地獄のような部屋に、今さっきまで入っていたとは思えない。

ついでにレオの首と腕の傷も応急処置してもらった。

そんな中、二十代前後の女性がレオに声をかける。


「あの……。後、二人……。

青毛の長髪の子と栗毛の背丈の低い子を見ませんでしたか?」


「悪い、まだ全部の部屋を見ていないんだ。今、確認してくるよ」


レオは賊に書かせた地図を片手に急いで部屋を見て回る。

賊長の部屋の横、賊長の寝室に二人はいた。

大きなベッドの上に裸体のまま両手両足を鎖で縛られたまま、涙を流して気絶するように寝ていた。

近くにあった布団で肌を覆い、壁と鎖の固定部を殴り壊す。

その音で目が覚めたのかレオを見た途端二人は怯えだした。


「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!

何でもしますっ! だから叩かないでっ!」


「言うこと聞きます……ご奉仕しますから

酷い事はしないでください! 痛い事はしないでください!」


その二人の言葉を聞いたレオは腸が煮えくり返る。

もっと酷く、残忍に、自分のした事を心底悔いるように殺せばよかったと。

ジオラを一撃で葬り去った事を後悔した。

他の女性になだめられた二人は女性たちの輪の中に入っていく。

あの二人は見た目は健康でも心は壊れてしまっている様子だった。

こんな悲惨な世界で生きている者もいるのだと知り、

レオはこの世界を良くすると、改めて自分の心に誓ったのだった。

酌をした女性の話では、酒の席で外の岩場の陰に荷車が隠してあると言っていたらしい。

確認すると少しボロいが女性たち全員を運んでいけそうな荷車があった。

助け出した総勢十五名をなんとか乗せ、険しい山道をレオとキーフ二人で荷車を引いて下る。

下りのため行きよりも早く山の(ふもと)に到着。

日はもう暮れかけ、夕日が草原と水面を赤く染めていた。


「遅い、遅すぎる。お前ら時計が読めないのか? 体内時計がいかれているのか? 」


疲労困憊で帰ってきた二人へロードの手厳しい一声が飛ぶ。

だが、状況を一目見て判断する。


「……話は後でいい。朔桜、帰って来た全員に()()を使え」


「いいの?」


「問題ない。この世界の生物の力量は程度が知れた。

それの供給がなくとも、片手で捻れる」


「うん。分かった! ロードはやっぱり優しいね」


そう言い残し、朔桜は皆の治療を始めた。


「あれが彼女の宝具ね。私たちの前で使って良かったのかしら?」


シンシアが図るようにロードに話しかける。


「別にいいさ、この俺の目前で()()を害する者など許しはしない」


「あれとは宝具の事? それとも―――」


「くだらん雑談をしている暇はない。明日の日程を練り直すぞ」


「後で伺うわ。私は先に彼女たちの様子を診てくる」


「私も行きます。。。」


シンシアとキリエも女性たちの心のケアにあたった。


時は満天の星空。大きな緑月が輝く時間だ。

シンシアとの日程合わせの後、レオとキーフはロードに呼び出されていた。


「すいませんしたっ!」


素直に謝るレオ。


「…………」


不貞腐れそっぽを向くキーフ。


「賊を叩いて戻るのに半日以上かけるバカがどこにいる」


「まあまあ! いい事したんだし! 一日くらい変わらないって」


朔桜が割って仲裁に入って来た。


「シネト村がオーガに襲われてるか心配だから、とっとと行くんじゃなかったのかよ」


「あっ」


「もう付き合ってられん」


ロードは目的を忘れてた朔桜に呆れたのかそれ以上責める事はなく

(きびす)を返してその場を立ち去った。


「朔桜さんあざっす! さすがのロードさんでも彼女の言う事は聞くんすね!」


「彼女じゃないよ!」


「ええ!? そうなんすか!? 俺はてっきり――――」


「ロードくんはノアのだよ?」


「ええ!? そうなんすか!? そっちの趣向なんすね……」


ノアの言葉を真に受けるレオ。


「おい、全部聞こえてんだよ、殺すぞ」


「うわっ!」


足早に戻って来たロードに鋭い目で睨みつけられ、レオはノアの後ろに隠れた。


「早朝には出て、早めに着くぞ。

お前らのせいでやる事も多いからな。

とっとと寝ろ、明日の準備をしておけ!」


「ロード、ご飯は?」


「要らん。所要がある」


一言だけ言い残し、夜闇に消えていった。


「ふー怖かった……」


焦るレオと笑う朔桜。

朔桜にはこう聞こえていた。

疲れただろうから明日に備えて早く休めと。

素直に言わないロードに再び朔桜は笑みを溢す。


「でも、お兄ちゃんもレオも無事で良かった。。。」


「心配をかけたな、キリエ」


キーフは今にも泣きそうなキリエの頭を壊れ物を扱うように優しく撫でたのだった。

一行と助けた女性たちは、広い草原に円を描くように座る。

真ん中には暖かい大きな焚火。

そこで焼いているのは、夕食の焼き魚だ。

ロードとノアが暇すぎでひたすら釣った……というか、狩り集めた食材。

この状況を想定して集めていたのか、一興として集めていたのか

理由はロード本人しか分からない。


「でも、焼き魚じゃ物足りないよね。ご飯やお味噌汁が恋しいよぉ」


朔桜が遠い目でないモノをねだる。


「ん? いいよ? 今出してあげるね?」


ノアは立ち上がり円の中心に立つ。


満腹(フルストマッチ)!」


ノアは自身の宝具【満腹(フルストマッチ)】を使い

円の真ん中に大きな器と二十合ほどのご飯を出す。


「後は~お塩と海苔をポイポイっと!」


使うものを出し、桶で川の水を汲む。

ノアは焚火の横に鎮座すると左右に身体を揺らしながら、楽しいそうに白飯を握る。

女性たちもその姿を見て少し微笑んでいるように見えた。


「あい! おまち! ノア特製の塩おにぎり~!」


不格好に握られたおにぎりを長板の上に置いていく。


「うぅ~~~! もうみてらんないっ!」


うずうずとした朔桜は痺れを切らし、腕まくりをして飯握りに参加。

手際とテンポよく、綺麗な三角形のおにぎりを作り長板に置く。

ノアの不格好なおにぎりと並べるとその美しさが際立つ。


「う~負けないもん!」


「本物のおにぎりを魅せてあげるよ!」


二人のおにぎり対決が勃発。

みんな異世界の美味な食事を興味津々で食べていく。

そして、夜のおにぎり対決は味、形、見た目の三冠を朔桜が手にした。

その場の全員がお腹を膨らませ、満腹になるまで食べる事ができたと

ひと時の憩いの時間が過ぎてゆくのだった。

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