十八話 下劣な賊と川の主
ロードのノアは気絶した男達を残し
残りのバラバラになった肉片を風の魔術で川に投げ入れる。
「なにしてるの~?」
「まずは撒き餌だ」
川の流れも緩やかなため肉片は川底へと沈んでゆく。
少し待つと川底から泡が湧き出てきた。
「やはりいるな」
残りの男を風の魔術で川の表面に浮かべる。
シンシアは遠目からその様子を見て目を鋭くした。
「惨い事を……」
すると川の水に浸った男が目を覚ました。
「っは! ここは川!?
やめろ、やめてくれ! このままだと喰われちまう!」
男は血相を変え、怯えだす。
「アジトの場所も言う! 罪も償う!
女も財宝も全部お前にやるから!」
賊は必死で命乞いをする。
その様子をただロードは冷たい眼見るだけだ。
「お前は何人殺した事がある?」
「ふ、二人だけだ!」
その言葉を聞き、ロードは嘘だと見抜き
男を一度川に沈める。
「で? 本当は?」
「ごっ、五人!」
「何のために?」
「そ、それは――――」
海面がブルブルと揺れ、波紋が広がる。
川の中から大きな影がみるみる近づいてきている。
「そろそろ来るぞノア。構えとけ」
「お願いだ助けてくれ!!」
「狙う相手を間違えたな。
いや、そもそも……なんの罪も無い通行人を狙う事が間違いだったな」
「ま、待っ――――」
賊の言葉の途中で大量の飛沫を上げ
水中から巨大な大顎が現れ、浮いている賊を丸飲みにした。
「かかったぜ。大物だ」
ノアの羽衣が大物を捕らえ、陸地に引っ張り出す。
「一本釣り!!」
打ちあがったのは、二十メートルはある巨大な鰐。
ずっしりとした分厚い体高。
深緑色の身体の表面は緑のコケがこびり付き、大きな黄色い目玉がギョロギョロ動く。
「オ、オーダゲーター!?」
シンシアは鰐の名前らしき言葉を叫び、唖然としている。
「あれは“精霊女王の忘れ形見”よ!」
オーダーゲーター。精霊女王が残した鰐の精霊獣。
その巨大な口は村を数口で食い尽くす。
雑食で人も精霊も精霊獣、木も岩もお構いなし。
岩石のような鱗は、軟な刃物を一切通さず、分厚い身体は進行した先を跡形も無く踏み潰す。
尻尾の一振りは森を消し飛ばすとも言われている。
それほどの精霊獣だ。
「川底からまあまあなエナを感じてはいたが、当たりみたいだぞ」
「やったー! ノアが釣ったからさ、ノアが殺していい??」
「構わない。生ゴミの処理も済んだしな」
「じゃあね、ワニさん」
身軽に跳び上がり、雨の羽衣を長く一本に伸ばす。
ノアの敵意に気づいたオーダーゲーターは大きな口をゆっくり開く。
「ばいばーい。壱頭両断!」
長く伸ばした羽衣一枚を硬化させ、鋭い大刃は鰐を縦真っ二つにぶった斬った。
鰐は真ん中から二つに崩れ落ちる。瞬殺。
オーダーゲーターは二つに分断されて初めて自身が死んだ事に気づいた。
ノアはエナとなり舞うオーダーゲーターを人差し指を咥え、物欲しそうに眺める。
「消えちゃうんだ~ワニ肉食べて見たかったなー」
ロードは散ったエナを残さず吸収。
シンシアは変な声を漏らしていた。
善行は終わり、後はレオとキーフを待つばかりだ。
「さあ、あいつらは生きて帰って来れるかな?」
ロードは少し退屈そうに呟いた。




