十六話 新たな同行者
七人は駅馬車の座席に四人と三人で向かい合うように座る。
「で? お前らは?」
「俺はレオだ!」
「私はキリエ。。。」
「…………」
二人は名乗ったが、一人はそっぽを向いて頑なに名乗らない。
「お兄ちゃん、名前。。。」
「……キーフだ」
妹のキリエにプレッシャーをかけられ、渋々と名乗った。
「私は並木朔桜です」
「ノアはノア!」
「私は……シンシアよ」
「俺はネジ・ナットだ」
「ロード、当たり前のように嘘言わないの!」
「別にこっちが名乗る義理はない。
処刑人相手に執行人が名乗るか? ん?」
ロードががふざけている間にキリエが一人真面目に口を開く。
「どうか見逃してほしい。私たちは貴方が恐ろしかった。。。」
緊張しているのか、怯えているのか
自分の手の甲をさすり、ロードから目を逸らして話す。
「私たちがオーガの壁を苦戦しつつも抜けた後
突然背後で自然じゃあり得ないような雷が落ちた。。。
確認してみると、あのオーガの壁が跡形も無く消し飛ばされていた。。。
そして貴方たちの馬車が現れ、中から禍々しいエナジードの流れを感じて
私たちはこの先の村には行かせまいと行く手を阻んだの。。。」
「おい、その禍々しいエナってのは――――」
「ははっ、あんただよ、あんた!」
「あ? 殺すぞ」
「ひっ! ごめんなさい! 許してください! 何でもしますから!」
ロードが一睨みすると、レオは腰かけから降りて馬車の床に頭を擦り付ける。
「じゃあなんだ?
お前らは俺の魔力にビビりつつも、村を守るため無謀にも俺の前に立ち塞がったって事か?」
「何だ? わりいかよ」
「ふん、バカだろ? お前ら」
ロードは三人の勇気と決意を一言で嘲笑う。
「格の違いを理解しろ。勝てない戦いは戦いじゃねえ。ただの自殺だ」
「ロード!!」
朔桜がそれ以上の言葉を言わせまいと釘を刺す。
「確かにさ、あんたの言う通りだよ。
でもさ、俺は憧れてる人がいるんだ。
その人ならこんな時、村を見捨てて絶対逃げやしないだろって思ったらさ、
身体が前に出てたんだよね!」
「はぁ……またそれ。。。レオの悪い癖。。。
まずい相手ならうまくやり過ごそうって言ったのに。。。
岩壁を壊された後、そのまま出て行っちゃうから。。。」
「俺の拳で馬車を止めようと思ったんだよ!
その間にキリエが村に行って避難させてくれれば良かったんだ」
「レオはすぐに無茶をするから放っておけない。。。
お兄ちゃんも何で飛び出たの?」
「レオが戦うならば俺も戦う。それが男の絆ってもんだ!」
「流石キーフ! 俺の相棒だぜ!!」
二人は熱い腕組みをする。
その様子を他全員は冷めた目で見ていた。
「俺は別に生物全てを殺し尽くす気はない。
ただ俺の邪魔するモノは全て殺す。それだけだ」
「なんだ! じゃあ安心……邪魔した相手?」
「そうだ、故に俺の邪魔をしたお前らは殺す」
手を翳すと同時に、「待って」と止めたのはシンシアだった。
床に座るレオの前に膝を着き視線を合わせる。
「聞きたい事があるの」
「答えたら俺らを殺さないでくれますか?」
「それは彼次第だけど、全部嘘偽りなく答えてほしいの」
「もちろんです!」
「貴方たちもよ?」
キーフとキリエも頷く。
「よし、じゃあ聞くわね?
まず、オーガの壁を抜けた方法と理由は?」
「俺の能力《反拳》でオーガを倒した。
反拳は受けた衝撃を反射して二倍で返すんだ。
理由はこの二つ先にあるキジュ村に行きたかったから」
「分かったわ。次の質問よ。
黒い影に心当たりはあるかしら?」
「黒い影? 分からないなぁ」
「あんたが言ってるのはもしかして“ワザワイ”の事か?」
「ワザワイ? キーフだったわね?
貴方は何か知っているの?」
「ああ、キジュ村で気味の悪い黒い影が目撃されていると商人から聞いた。
最近村が襲われる事件が多く、そのキジュ村を中心に広がっているって話だ。
故に人々はその影を“ワザワイ”と呼んでいるらしい」
「ロード、これは大きな手掛かりよ」
「確かに。一度シネト村に寄り、休息と情報を集めをしたらすぐにキジュ村に向かうぞ」
「それなら俺らも連れてってくれよ!」
「断る。足手まといは一人で十分だ」
「だってさ! 悪いがキーフとキリエは歩いて来てくれ!」
「おいおい、なにしれっと足手まといの一人になってんだ。
足手まといは朔桜の事だ!」
「えっ!? なにしれっと酷い事言うの!?
ふん! じゃあ、もうペンダント使ってあげないもん!」
「いや、間違えた。足手まといはノアだ」
「あーいいんだ、ロード君そんな事言って~。
一回ノアに負けた癖に~」
「あの時は手を抜いていただけだ」
「実は黙ってたけど、ロード君が気絶した後
人前で言えないような凄い事してたんだけど言っちゃおうかな~~~~」
「おい、聞いてないぞ! それを言ったらもう給電は無しだ。
この世界でジャンクとして消え果てろ!」
「いいもん! その代わり電気が切れるまでロード君のあの話を言いふらしてやる!」
「ロードいいから謝って! 足手まといって言ってごめんねってして!」
「実はあの時ロード君はね――――」
「あの! 俺は着いて行っていいんすかね? へへっ」
「うるさい! とにかく黙れ!! 全員、黙れぇ!!!」
馬車の中は大騒音の大混乱。
もうめちゃくちゃだ。
キーフとキリエは呆れ果て
シンシアは昔を懐かしみ大笑いしていた。
それから数分後、ロードが朔桜とノアにごめんねして一応場は丸く収まった。
「で、俺らは何の話してたんだ?」
「俺ら一緒にを連れて行って下さいって話っす!」
「その黒髪の男はともかく残りはダメだ」
「こいつは俺の妹だ。こいつは俺の親友だ。こいつらが居なきゃ俺も行かねえ」
「そうか、なら全員ここに縛って捨てていく。これで決まりだ」
ロードは黒鴉の衣から太い縄を出し本当に縛ろうとする。
「待って、ロード。最後に個人的な質問をさせて?」
「いいだろう。だが、俺の意志は揺るがんぞ」
シンシアは静かに頷き、レオに問いかける。
「さっき言っていた貴方の、憧れている人は誰かしら?」
その質問を聞いて、ロードは質問を許すべきじゃなかったと後悔した。
「もちろん。勇者カウルです!!」
ロードの予想は的中。
その言葉を聞いてシンシアは優しく微笑んだ。
「ロード、申し訳ないけれど私はこの子たちに付くわ。
もしこの子たちを降ろすのであれば、私の同行はここまでよ」
「ノアも降りてロード君の話広める~」
「じゃあ私も降りちゃおうかな~。みんなで勇者カウルの話したいし!」
完全に意見が固まったみたいだ。
ロードは自分のミスを自責する。
「はぁ……シンシア、お前の勝ちだ。
もうそろそろ日も暮れる。英雄譚を語るなら馬車の中でしろ」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに朔桜とノアはロードに飛びつく。
それを見て笑うシンシアと羨ましがるレオ。
困惑するキーフとキリエ。
こうして七人の旅が始まった。




