十五話 互いの苦労
ロードが吹き飛ばした黒髪の男は
立ち上がると前傾姿勢で馬車に向い駆け出す。
「加足!!!!!」
爆発するかのように速度を上げ、みるみる馬車へと迫る。
「付いて来るか……あいつは俺が処理する。
シンシアは岩裏の術者を討て」
そういい残し、ロードは男の手が馬車に触れる寸前で、男の顔を蹴り飛ばし馬車を降りた。
男は馬車道をゴロゴロと転がる。
転がった男は素早く立ち上がると、口内が切れて溢れ出た血を道端に吐き出す。
「やりやがったな、オメー!!」
怒りの表情でロードを睨む。
その顔は目の傷も相まり、強力な威圧感とすごみを感じさせる。
一般の人間なら背を向け逃げるか、腰を抜かしているだろう。
しかし、ロードは違う。
「かけっこはもうおしまいか?
そんなんじゃ、参加賞のチリ紙も貰えないぞ?」
軽口を叩き相手を煽る。
ロードへの威圧は全く効果をなさない。
「てめえっ! ブチ殺すっ!」
言葉の意味は理解せずとも、挑発されている事だけは口調と態度で伝わった。
苛立ちを露わにさせながら怒りを募らせていた。
そんなピリピリした空気の中
後ろから先程吹き飛ばした茶髪の男が駆けて来て黒髪の男と合流する。
「やっと追いついたぜ~。馬車はキリエに任せるとして問題はこっちだな……」
「こいつ恐ろしく強いぞ。油断するなよ!」
「もちろん、分かってるぜ相棒!」
二人はロードを前にしても引く様子は見せない。
むしろどうやって倒そうかと探っているまである。
それを感じ取りロードは呆れて問いかける。
「まさかとは思うが……俺を倒そうってんじゃないだろうな?」
「もっちろん」
「そのつもりだ!!」
言葉を皮切りに二人は真っ直ぐロードへと迫る。
黒髪の男が素早くロードの背後に回り、茶髪の男が正面に立つ。
先程と同じく黒髪の男の足が光り、茶髪の男の拳が光る。
息を合わせ、蹴りと拳を同時に放つ。
その衝撃波が辺りの空気を揺らす。
しかし、その攻撃がロードに触れる事はなかった。
「なるほど。実力はその程度か」
二人とロードの間には風壁が張られていた。
風壁はビクともしていない。
「なんだこれっ!?」
「くそったれが! 舐めやがって! 出てきやがれ!」
二人は何度も攻撃を繰り出すも全く歯が立たない。
「ああ、そうそう。ノアに負けて以来、慢心はやめたんだった。
舐めてかかるのは悪い癖だ。手早く、確実に……殺してやる」
バチバチと電光を走らせ、茶髪の男に狙いを定めて右手を翳す。
「まずは一人だ」
中級の魔術を放つ寸前。
大きな声がそれを阻む。
「ロード!! だめ――――――――!!!!」
聞きなれた朔桜の大声。
ロードには分かる。この声は少し怒っている声だと。
その声に気が滅入り溜息をついて攻撃の手を止めた。
馬車が戻ってきて乗車していた全員が出てくる。
その中には見ない顔の少女がいた。
水色のベールで目元を隠した黒髪の少女。
年は朔桜よりも少し若いくらい。
黄緑のチアの衣装に似た服に黒いライン。
露出した腹部と腿の部分には目元を隠した水色の生地で覆われており、薄っすらと肌が見える。
黒髪の男と同じ色合いの服。
手には短い杖を持っていた。
ロードは瞬時に敵の仲間と判断し殺そうとするが
その思考を読んだ朔桜が少女の前に立つ。
「この子はいい子だから平気!
別に操られている訳でも、脅されている訳でもないからね?」
ロードの思考を先読みし、言おうとした事を先に言う。
「おまっ……」
想定した事を先に言われ、面を食らったように言い淀む。
「ロードが考えそうな事もう分かってきたよ……。
とにかくこの子もこの人たちも悪い人じゃなさそうだから」
その言葉を聞いてロードは風壁を解除。
その瞬間、黒髪の男はロードに蹴りかかる。
「おらぁ! さっきの蹴りのお礼じゃあ!」
「お兄ちゃん。。。見苦しいからやめて。。。!」
黒髪の少女の凛としつつもドスの効いた声が、放った蹴りをピタリと止めた。
「ちっ!」
それを聞いて面白くなさそうに足を下ろす。
「お前、命拾いしたな」
ロードはつまらなそうに
既に張っていた風嵐を解除する。
もしそのまま蹴りを打っていたら足は切り刻まれていただろう。
「お互い血の気の多い味方がいると苦労するね」
「ほんとです。。。」
朔桜と黒髪の少女は二人でしみじみとその苦労を分かつのだった。




