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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
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十四話 阻む巨壁と三人の戦士

朝露が葉に残る霞みがかる時間。

日がまだ完全に昇っておらず、微かに暗い。

そんな中、眠い目を擦り朔桜が大きな駅馬車から顔を出す。


「おはよ~ロード……」


昨晩、朔桜、ノア、シンシアの三人は馬車の中で大きな毛布に包まり川の字で寝て

ロードは見張りを兼ねて馬車の屋根上で一夜を過ごした。


「ああ、良く寝れたか?」


「うん……良く寝れふぁ~あ」


会話の途中で大きな欠伸をする。


「おはよう朔桜、ロード」


「う~おはよ~みんな~」


続々と目を覚ましだす。


「全員起きたか。少し早いが出発するぞ」



駅馬車は目的のシネト村に向かってゆっくりと走り出した。

シンシアは軽食を片手に馬たちを御する。

彼女が食べているのは、ロードが人間界から黒鴉の衣に入れて持ってきた棒状の栄養食。


「これ凄く美味しいわ! こんなに美味しい保存食があるのね」


もったいぶりながらちまちまと味わって食べている。


「人間界の文明はかなり進んでいた。食い物も美味かったしな」


「いつか行ってみたいわ、人間界」


「それには世界の門を越える必要があるけどな」


「あ、そうだ、それ。具体的に聞きたかったの。

どうやって人間界からこの精霊界に渡ってきたのかを」


「ああ、そういえば、門については詳しくは話していなかったな。

俺と後ろで二度寝している朔桜はなぜか知らんが、世界の門を渡る力があるらしい。

一緒に二度寝しているノアは人工の生命体。無機物がゆえに通る事ができたみたいだ」


「なるほどね。それでこっちの世界に影を追って来たって訳ね」


「あいつは俺らの目的の邪魔になる。

それにあいつも俺らを憎んでるようだったしな」


「何か心当たりでもあるの?」


「奴の能力らしき力。黒い侵食に気が付いた時、奴は言ったんだ。

()()()()()()()()()()() と」


「母親譲り? あなたの母親とあの影は知り合いって事?」


「さあ? だが、俺の目的の思わぬ手がかりだ。必ずあの影を探し出して吐かせてやる」


決意の言葉と同時にシンシアが急に馬車を停車させる。


「ロード。またオーガよ」


視線の数キロ先にはオーガの群れが横一列に壁の様に立ち塞がっていた。

前回同様、八十強はいるだろう。


「この道を進むのが村に行くには一番早いのに。

他の手段だと馬車を置いて岩山を越えるか、川を渡って迂回するしかないわ」


ロードはパキパキと肩を鳴らす。


「問題ない。道はすぐに開ける」


ノリノリのロードを余所に

異変に気付いたノアがそれを止めた。


「待って? あそこ誰か戦ってるよ?」


ノアの眼は宝具【鵜の目鷹の目(うのめたかのめ)】を宿しており

五キロ先までハッキリと見る事ができる。


「ほんと。あれは精霊人かしら? 男の子二人と女の子一人がオーガと戦っているわ!」


「ノアはともかく、お前もこの距離から見えるのか」 


「私は他種族よりも段違いで目が良いからね」


「まあいい。とりあえずオーガも人も消し飛ばす!」


「ちょちょちょ!!!」


シンシアとノアは急いでそれを阻止。

やむを得ず、馬車を進ませてオーガの方に近づく。

馬車を百メートル手前で停めるが、オーガたちは横一列に並び

不動のまま一同を見ているだけで襲ってくる様子はない。


「通せんぼしてるのかなぁ?」


ノアの言う通りそんな立ち塞がり方に見える。


「先程戦っていた三人の姿は見えないわね」


「もう死んだのか、このオーガの壁の先にいるのか。まあ、全部殺せば分かる」


ロードは飛び上がり、蒼雷―天罰を唱えた。

天から一列に並んだ簾のような雷が降り注ぎ、

並んだ全てのオーガを一撃で消し去りエナへと変える。

舞い散るエナを漏れなく吸収し尽くし、馬車へと帰還した。


「貴方またエナを……」


シンシアは小声でぼやくもロードの耳には入っていない。


「邪魔は消えた。村に向かって進め」


シンシアは溜息をつきつつ馬車を走らせた。


「今凄い音したけど!?」


雷の轟音で飛び起きたらしい朔桜が馬車の中から遅れて顔を出す。


「うるさい。また寝てろ」


「あーそういう事言うんだ」


二人はいつも通りの口論を始める。

ノアとシンシアはまたかと大きな溜め息をついた。

オーガが立ち塞がっていた辺りを通過すると

突如、十メートルほど先の地面から

二メートルくらいの高い岩の壁が現れ馬車の行く手を阻む。


「構わん、進め」


ロードは表情一つ変えず手から放った爆雷で岩の壁を爆散させ

馬車はそのまま道なりに進んでゆく。

遠くの岩陰に今の術者らしい人影が見えた。

それに馬車道の少し先の木陰と草原の(くぼ)みに一人ずつ潜んでいる。


「ロード、この先に――――」


「分かっている。そのまま進め。ノアは朔桜を守れ」


「はーい」


ノアは身軽に馬車の中に戻ると雨の羽衣を漂わせ、警戒態勢に入る。

すると、木陰に隠れていた男は真っ直ぐ進路上に出てきた。

黒い服に黄色いライン。

黒いバンドで茶髪の前髪を上げた男。

拳にはゴツめな黒いガントレットを着けている。


(ぞく)か? 構わん。そのまま()き殺せ」


「正気!?」


「当たり前だ。馬車の行く手を人為的に阻むのは、賊と相場が決まっている」


「確かにその可能性は高いけど、相手はまだ子供よ!

それに馬が(つまず)いて最悪車体がひっくり返るわ」


「その場合は俺の力で車体を戻す。それに馬が怪我しても朔桜なら治せる。構わん、轢け」


馬車のスピードを落としつつも、ロードの言う通りシンシアはそのまま進行する。

無論、シンシアは本当に轢き殺す気など無い。

最悪、寸前で曲がれる程度の速度に調整している。


「命が惜しいのならば、道を空けなさい!」


シンシアは大声で男に忠告するも道を空ける様子はない。

窪みに潜んでいた男が飛び出し、馬の行く手に立つ。

ボディーラインがくっきりしたアンダーウェアに黄緑色のラインが入っている。

無駄の無い引き締まった筋肉。

足には脹脛を覆うようにゴツめの黒いグリーブを着けている。

髪は黒いリーゼント。首と左目には古めかしい傷がついていた。

茶髪の男は拳を光らせ、黒髪の男は足を光らせている。

それにいち早く気づいたロードは瞬時に男二人の間に移動し、二人を両脇に吹き飛ばす。

その場でくるりと宙を舞い、進行してきた馬車にスマートに戻った。


「ふん……意外と頑丈だな」


後ろを確認すると、二人の男は草原に膝を着いているが

死んでもいなければ気絶もしていない。

そして、黒髪の男は馬車を見据えていた。

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