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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
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十一話 新衣装と次の目的地

「はっ!」


目を覚まして飛び起きると、そこはベッドの上。

どうやら、俺はいつの間にか寝てしまったようだ。

昨日の昼過ぎから夜までの記憶は無く、黒鴉(こくあ)の衣を着たまま寝た覚えも無い。

昨晩、何かあったような気がするが、何も覚えていない。

だが、なにか引っかかる。

思い出そうと必死で記憶を辿(たど)る。

少数のゴブリンをノアが倒した? 辛うじて思い出せるのはここまでだ。

変わった事といえば、額が大きく腫れている。

それに髪の中から陶器らしい小さな破片が落ちてきた。

なにかあった事は間違いない。

急いで他の三人の安否を確認する。

記憶の状況を話し、部屋を回り起こしていくが、全員無事のようだ。

朝食は広間が一番でかい俺の部屋で集まる事にした。

朔桜とシンシアが手慣れた手つきで朝食を作る。


「どうぞ! 召し上がれ!」


並んだ朝食は見覚えのあるものと見覚えのないものがある。

見覚えのあるのは朔桜が作ったものだろう。

そして、もう一方はシンシアが作ったものだ。

どちらも甲乙付けがたいほど美味い。

しかし、昨日の夜に食べた記憶はない。


「昨日の晩飯はどっちが作ったんだ?」


「ふ、二人で作ったけど、ロ、ロード昨日は疲れたから

もう寝るって夕食食べずに寝ちゃったよ????」


「そ、そうね。ノアちゃんがゴブリンを倒した頃にはもう眠いと言っていたわ????」


「え? 違うよみんな、ゴブリンはロードくんが――――」


「そ、そうですよね! 私もそうだと思います! そうだよねノアちゃん!」


「あ、え……?」


ノアは不思議そうに首を傾げている。


「だが、俺の記憶だけ消えているのは違和感がある。敵の能力かもしれん。調べる必要があるな」


「いいよ! 調べなくても! 大丈夫! 問題なし!」


「そうね、怪しい者は見なかったし、問題ないと思うわ!」


三人を集め、話を聞くも誰も心当たりはないという。

しかし、朔桜とシンシアは何か隠している様子だった。

電撃で脳を刺激し、記憶を思い出そうとする事もできるが、自分に使うには流石にリスクが高い。

多少気にはなるが、特別な異常は無さそうなのでやるべき事を先にする。


「まあいい。今日はまずこの世界の服を新調する」


「分かった! すぐに支度するね! いこ! ノアちゃん!」


朔桜はノアの手を引っ張り部屋に連れ込む。

それを不審に見ているとシンシアが顔を赤らめこっちを見ていた。


「なんだ?」


「い、いえ! なにも!!」


勢いよく立ち上がり、バンと机に脚をぶつけ食器が跳ねる。

シンシアは痛みを気にする様子も無く、何かを気にするようなぎこちない動きで食器を片していた。

全員の支度が終わり、四人で市場に出向き各々好きな服を見繕う。


「これは、これは、勇者様」


突然、店の主と思わしき中年の女が腰を低くし、すり寄ってくる。


「勇者様? 俺の事か?」


村人に媚びられるほどの行いをした覚えはない。

もしや、昨日の換金所の男が金塊を売った事を話したのか?

だが、そう決めつけるには情報が少ない。


「違うのですか? 私は避難していて聞いた話なのですが、

大雷の精霊術でゴブリンを一掃したのだとか……」


大雷でゴブリンを一掃? そんな記憶はない。

やはりなにかがおかしい。


「き、昨日ノアちゃんがロードの姿で雷撃でゴブリンを倒したんだよ!」


「俺の姿で?」


「あ、うん! そう! 勝手に変身したら怒られると思って! 黙ってたの!」


朔桜がノアにジェスチャーで何か合図を送っている。


「そんな手こずるほどの相手には見えなかったが?」


「ロ、ロードくんの名声を上げるためにわざと目立って活躍したんだよ~。

そっちの方が情報集まりやすいかと思って!」


額に汗を浮かべながら熱弁するノア。

確かに。隠密で動くよりも民衆に貢献し情報を聞く方が効率はいいか……。

息を呑み、俺の反応を窺っている様子。

褒められるのを期待しているのだろうか。

配下を労うのも王の仕事だ。


「やればできるじゃないか。

だが、次からは独断で行動せず俺の判断を仰げ。いいな?」


「う、うん!」


俺とノアの話を固唾を呑んで見守っていた朔桜とシンシアは

安堵(あんど)し、服選びを再開し始めた。

一体何なんだ。とにかく、勇者と持ち上げられている以上その立場を利用しない手はない。


「店主、昨日の一件についての意見が聞きたい」


「といいますと?」


「憶測でいい。なぜゴブリンはこの村に現れた?」


「たしかこの周辺の山岳地帯はゴブリンの生息地。

つい昨日、この近くで誘香粘竜の粘液を目撃したと山菜取りの者が申しておりました。

恐らくその匂いに誘われて来たのが原因かと……」


ゴブリンは俺らが呼び込んじまったってわけか。


「なるほどな。最近この周辺で影が目撃されているらしい。そっちには心当たりはあるか?」


「はて? その話は聞きませんね。

ですが近頃、近隣の村に行く道中で通行人が何者かに襲撃されているという噂はあります」


「襲撃……」


あの影が何か関係しているのだろうか?


「ロード来て~!」


いろんな可能性を考えていると朔桜が大声で俺を呼ぶ。


「なんだ?」


渋々、声の場所へ向かう。

そこは人一人入れるほどの小さなスペース。

深緑の布で中が見えないよう仕切られている。

布が勢いよく開き現れたのは、この世界の服に身を包んだ朔桜だった。

膝まである臙脂(えんじ)色のボディ・コンシャスなワンピース。

大胆にも肩と胸元は大きく開き、胸元から首から飾られた雷電池が輝く。

服の縁全てに黄色のライン。

ワンピースには唐草に似た黄色の模様。

模様は既視感は無くこの世界独特のものだろう。

髪には同じえんじ色のリボンを結び、首元手首にレースの薄ピンクのフリルが付いている。

モダン柄の黒タイツにえんじ色の靴を履いていた。


「どうかなっ!」


重心を崩さず綺麗に一回転して見せる。

朔桜は満面の笑みでこっちを見た。

俺には分かる。この表情は、感想を求めている表情だ。

配下を褒めるのも王の仕事だ。


「まあいいんじゃないか?」


「えーーもっとないのぉ?」


朔桜は頬を膨らまし不満そうだ。

本当に面倒くさい奴。ここはスルーが安定だ。


「他の奴はどうした?」


俺が尋ねると、もう一つの仕切りが開く。


「はいっ! お待たせ!」


露草色の胸元が開いたロリータ服。

腹部の深緑の帯と同色の帽子に白い花があしらわれており

服には紺青のリボンとフリルが服のあちこちに施されている。

白いタイツに深緑の厚底靴だ。


「まあいいんじゃないか?」


「同じ感想~! ロードくんに感情は無いの~!?」


頬を膨らまし怒っている。

最近朔桜に似てきたなこいつ。

実に騒がしい。


「シンシアはどうした?」


仕切りのある小部屋はもうない。


「私はここよ」


ゴツい革の装備を外し、素肌を晒したシンシアが物陰から現れる。

ここではフードを取る気はないようだ。


「私は新調していないわ。少しほつれた装備を修繕してもらっているだけ」


服は随分と年期が入っているみたいだ。

修繕しているという事は、革装備は宝具ではないみたいだ。

あの服が宝具なのだろうか?

それともあの大きな弓?

それともあの指にある銀の指輪か、あの小さな腰袋?

いや、悪い癖だ。詮索はよそう。


「ロードは着替えないの?」


「俺は黒鴉の衣以外着る気は無い」


「でも一人だけ目立つよ? そしたらせっかく着替えた私たちまで怪しく見られちゃう」


くっ……朔桜のくせに珍しく妥当な事を言いやがる。

確かに黒鴉の衣が目立つのは事実。

人間界でもかなり浮いていたからな……。

仕方ない。郷に入っては郷に従え……だったか。


「分かった。店主、この服に合うものを見繕ってくれ」


「お、お任せくださいませ!」


店主は素早く服を見繕う。


「こちらはいかがでしょうか?」


店主から渡された服を手に小部屋で着替える。


「どうだ!」


すぐに着替えを済ませ、仕切りを開けて朔桜たちに披露する。

上着に薄く丈夫な革の服に深緑のシンプルなズボン。

黒鴉の衣を羽織りその上から革のベルトを締め、肩に若緑色の羽織り。

なかなかにこの世界の服装に馴染めているのではないだろうか。


「まあいいんじゃない?」


「まあいいと思うよ」


「お……おう」


俺が言った言葉をそのまま返された。

実際されると意外にショックなもんだな……。

今後心に留めておこう……。


服を新調した俺たちは二日間ホノポ村で情報収集を始めた。

ホノポ村三日目の夜。俺の部屋に四人が集まる。

ここ二日の聞き込みの話を持ち寄り共有作業だ。

しかし、集まったのは近隣の村が襲撃された話や

ストロベリアルが飛行していた話、ゴブリン村を襲ってきた話。

影に関係する目新しい情報は特に無かった。


「これ以上新しい情報は集まらなそうだな」


「そうね、次の村に行きましょうか」


シンシアは腰袋から折り畳まれたボロボロの厚紙を広げ

おそらく、今いるであろう場所から指で道を辿ってゆく。


「次の村は……シネト村ね」


この世界の地図だろうか。

ざっくりとした地形と文字と記号が記されていた。

人間界の文字は辛うじて読めたが、こっちの文字はまるで読めない。

記号もさっぱりだ。


「その村はどんなところだ?」


「湖が近くにある景観の良い村よ。周辺は高くそびえる崖だから凶暴な精霊や精霊獣もほとんどいないわ」


「よし、次はそのシネト村に行く。出発は明日の朝だ。各自荷物をまとめておけ。解散!」


俺の号令で各自は自室に戻る。

静かな部屋の窓柵に身を預け、片手に一杯の果実水を飲みながら緑月を眺めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ♂の主人公には確かに人間と種族の違う論理の王族の感じがでてます。 ノアちゃんがマスコット感がででてて、可愛いです。 [気になる点] 宝貝人間って何かで読んだ覚えがありますが。 [一言] 4…
2021/07/26 19:13 退会済み
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