八話 親睦
次の日の朝。
「朔桜とシンシアはここで待機だ。俺とノアであいつを倒す」
ロードは昨日倒し損ねたストロベリアルをおびき出すため
もう一度飛翔で飛び上がり、ストロベリアルを待つ。
緊迫した空気の中、静かに息を呑み五分が経過。
そして、十分が経過。
そして、二十分が経過。
「こないねー」
ノアが暇そうに呟く。
ロードはふーっとため息混じりに息を吐き、地上に降りた。
そして、早々に朔桜たちと合流する。
「ダメだ、出て来やしねぇ」
「もう別の領空に移動してしまったのかもしれないわ。
残念だけど、ストロベリアルの討伐はとりあえず保留ね」
「じゃあ、これからどうする?」
「とりあえず、私がここに来るまでに居た近くのホノポ村に行きましょう。
もう一度影の情報を集めたいわ」
全員その意見に賛同。
上空からだと木々が多く村が分からないとの事なので
シンシア先導のもと徒歩で村へ向かう。
ここから徒歩で二、三時間ほどで着くらしい。
暖かな太陽差す過ごしやすい気候。
廃村からの旧道ではあるが、道もそれなりに整っておりのんびりお散歩気分で進む。
ストロベリアルが近辺から去ったせいか、小動物や鳥などもちらほら見かけるようになった。
どれも人間界では見る事が出来ない生物だ。
朔桜やノアは興味津々でシンシアはそれを見て小さく笑っていた。
途中、森の中から黄色い発行体が現れ、朔桜の周りをくるくると飛び始める。
光の集合体のようなふわふわした光。眩しくもなく、熱くもない。
始めは一つだったのが、二つ三つと増えていき
気が付けば、十以上の発行体に囲まれていた。
「わわ、なにこれ?」
能天気な朔桜もさすがの量に警戒する。
「安心していいわ。それは精霊よ。危害は加えてこないから」
「はぁ……」
「それにしても、朔桜は随分と精霊に懐かれているわね。それも雷精霊ばかりに」
「なんでだろう? 私の宝具に集まって来てるのかなぁ?」
その言葉の直後、ロードが大声を上げる。
「おい!!」
その大きな声を聞き、雷精霊たちは一目散に散ってゆく。
和やかだった雰囲気は一変する。
「軽々しくそれを口に出すな!」
「そ、それってなによ!」
突然の大声にビビりながらも朔桜も反論する。
「バカが! 理解する脳も無いのか!?」
「言ってくれなきゃ分かんないよ!」
ロードは溜息を漏らし、苛つき気味に声を張る。
「宝具だよ、宝具! お前はそれを巡って死にかけた事をもう忘れたのか?」
「うっ……」
ロードとの約束で宝具の事は他言無用。
しかし、朔桜はそれをシンシアの前で言ってしまった。
「もしシンシアが宝具に固執する者なら狙われ
他に聞いている者がいても狙われる事になる。
言ったはずだぞ。それを持つには覚悟が必要だと。
そんな無神経な人間がそれを持つと周りが迷惑するんだ!」
ロードの本気の怒りを受け、朔桜は身を縮ませる。
「大丈夫よ、私は朔桜の宝具を狙ったりしないし、この周辺には私たち以外誰もいないわ」
「そういう問題じゃない。
日頃からそれを繰り返していたら、お前の命がいくつあっても足りないという事を言いたいんだ」
「まあ……確かにそうね。朔桜、今後宝具の事は軽々しく口にしてはダメよ。
どれが宝具でどんな能力があるかは知らないけど、
宝具一つで何千人何万もの死者が出る戦になるという事を頭に入れといて」
「はい……。ロードもごめんなさい」
「ふん、分かればいい」
「まあいいじゃん! ノアも宝具だし!」
「おい! バカが!! 言ったそばから――――」
「ロード君も宝具持ってるし、狙われるならこれで三人一緒だよ!」
「ノア!!」
ロードが怒り、ノアに電撃を放つ。
が、ノアはそれを身軽にかわした。
「当たんないもんね~」
「クソガキ! 仕置きが必要だな」
二人は道の真ん中で暴れまわる。
「ちょっと二人ともやめなよー」
仲裁に入ろうとする朔桜を無視して攻撃を続けるロードに挑発を続けるノア。
村を目指すという目的はもう明後日の方向に飛んでいってしまっていた。
「……っぷ! あはははは!」
突然、大きな笑い声がこだます。
その主は三人のやり取りを見て盛大に噴き出したシンシアだった。
それを見た三人は呆然とする。
クールで冷静な印象だったシンシアがこんな風に笑うなんて
誰も想像していなかった。
「ご、ごめんなさい!」
シンシアは顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
そんな姿に朔桜とノアも笑い出す。
さっきまでの殺伐とした雰囲気はあっという間にどこかに流されていった。
「少し昔の事を思い出してしまって……あなたたち変わっているわね」
「変わってるのはこいつらだ」
「そんな事無いよねー」
「ねー」
朔桜の言葉と同時にノアと首を傾ける。
「これじゃあ、不平等ね。
協力関係であるなら、狙われるなら四人でなくちゃ」
「それって……」
「そう、私も宝具持ちよ。これで誰が狙われたとしても文句は無しでしょ?」
「シンシアさん……」
朔桜は彼女の心遣いに喜び、胸元に飛び込む。
「ノアもー!」
三人は団子状態。互いに心を許し合った様だ。
「貴方は来なくていいのかしら?」
シンシアは悪戯な笑みを浮かべロードを見る。
「誰が行くか! さあ、お遊びはここまでだ。時間が惜しい。さっさと進むぞ!」
こうしてお互いの親睦が深まった四人はホノポ村を目指し進むのであった。




