五話 精霊界
門を通る三人の身体は五感が狂い
自分の意識が肉体から切り離されるような感覚に襲われていた。
そのまま身を任せていたら、本当に切り離されてしまうかもしれない。
三人は意識をしっかり保ったまま、異空間の中を歩いてゆく。
体感五分。目の前に入ってきた時と同じ門だけがはっきりと見えた。
門の前に立つと、ロードは朔桜とノアの顔を見た。
「行くぞ」
二人が頷くと先導していたロードが扉を押す。
重厚な扉は軽々と開いてゆく。
門を出たロード、朔桜、ノアの三人は、無事精霊界に到着する事ができた。
しかし、着いた先は一寸の光もない真っ暗闇。
影の奇襲に備えるも、周辺には生物の気配はない。
「な、なにも見えないよ!?」
「落ち着け。今、灯りを点ける」
ロードは手から小さな火を灯し、周囲を確認する。
門の辺り一面は大きな岩に囲まれているようだ。
「少し離れていろ」
ロードが正面の岩を電撃で破壊すると
太陽光らしき目映い光が暗い岩の中に差し込む。
三人は恐る恐る外に出て、空を見上げた。
日はまだ高く朝~昼の時間帯のようだ。
気温は暑くもなく寒くもない。
人間界の春と同じくらいの気温。
門の外見をよく見てみると、数十枚の板状の大岩が歪に重なり合って地面に突き刺さっている。
まるで、門を隠すかのように人為的に造られた祠のようだ。
大岩には緑の苔が鬱蒼と生え、岩の先端には罅がみえる。
人間界のように管理されている様子はなく、むしろ荒れ果てている印象だ。
「ここが……精霊界……」
朔桜は物珍しそうに辺りを見渡す。
目に付くのは、幹が細く高く伸びた長い木と小さな草花。
そして乾いた土と砂だけ。
今のところ目新しいものはない。
ロードはそれよりも別の事に気づく。
「なんだ、この人間界や魔界とは比較にならないエナ量は……」
朔桜とノアは全くピンときていないが、周囲には噎せ返るほどのエナが宙を漂う。
自然が多く、生物が行き来しない場所にはエナが溜まりやすい。
「とりあえず、対話出来る奴を見つけてあの影の情報を集めるぞ」
ロードは当たり前のように朔桜を抱えると、飛翔を使って宙に舞う。
「ノアも~」
ノアは両手を広げ、抱えてほしいとアピールする。
「お前は俺に掴まれ」
「え~~~~」
ノアは文句を言いつつも雨の羽衣をロードの左右の足に巻き付け
ブランコみたいにぶら下がった。
「ちぇ~」
「行くぞ。落ちるなよ」
ロードは上空から周囲を見渡す。
しかし、見えるのは生い茂った森と大きくそびえる岩山だけ。
ずいぶんと広大な土地なようだ。
「全然人気が無いね」
「人工物が見当たらない。この辺は誰も住んでいないのか?」
若干の諦めムードのなか、周囲に目を凝らしながら進んでゆく。
そんな中、遠く空の彼方に小さな赤い物体が見えた。
結構な距離があるのにハッキリと見える。
そこそこ大きい飛行体のようだ。
「ノア、あれが何か分かるか?」
ロードの指差す方向をノアが宝具【鵜の目鷹の目】を使い物体を確認する。
「ロード君……。まずいよ……」
「何だ、何が見えた?」
「えっとね、驚かないでね?」
「勿体ぶらず早く言え」
「赤い巨竜がこっち目掛けて突っ込んできてる!!!」
慌てふためくノアとは対照的にロードは冷静沈着。
むしろ呆れていた。
「精霊界に来て早々これか……。派手に行くぞ!」
ロードは笑みを浮かべつつ
精霊界最初の戦いに気を引き締めるのだった。




