一話 世界を渡る決断(表紙絵あり)
登場人物
●ロード・フォン・ディオス
種族:魔人と人のハーフ
属性:雷 風 火 水 地 樹(六適者)
能力:《無常の眼》《八雷神》
宝具:【爪隠】
魔装:『黒鴉の衣』『黒帽子』『骨断』
魔導具『黒鏡』
●並木 朔桜
種族:人
属性:なし
能力:なし
宝具:【雷電池】
魔導具『黒鏡』
●ティナ
種族:魔人
属性:地
能力:なし
宝具:なし
魔装『八つ脚の捕食者』『視認できない剣』
魔導具『黒鏡』
●ノア
種族:人工宝具
属性:なし
能力:《ノアの方舟》
人工宝具:【最高の親友】【変身】【鵜の目鷹の目】【敏感感覚】 【満腹】
博士の発明:『雨の羽衣』
十月某日。
異国防衛対策本部駐屯地は何者かの侵略を受けていた。
「ダメです! 通信が繋がりません!!」
「相手に情報が全て筒抜けだ!!」
その場は大混乱。
なぜなら侵入者は国の最大セキュリティーをいとも簡単に突破し、管制室を占拠。
電気系統の権限をも全て奪取。
混乱の中、軍兵はたった一人の相手に軽々と蹴散らされている状況。
その姿は黒いパーカーのフードを目深に被り
黒いスエットを履いて白いキツネの仮面を付けた、いかにも怪しい者。
体術はもちろん、銃も爆弾もまるで通用しない。
人々は軽々と吹き飛ばされ、宙を舞う。
「このっ、化け物め!!」
男は侵入者に向け、震えた手で持っていた銃を乱射するが、数秒後、その音はピタリと鳴り止む。
そして最後まで立っていた男は、周辺の者達と同じく床に倒れて静かになった。
仮面を付けた者は辺りを見渡した後、懐から取り出した黒い折り畳みの鏡を開く。
「コード03 こちら全ての人間を制圧したわ」
「コード05 了解だよ、いひひ。コード04は認証権を手に入れたかい?」
「コード04 認証権のあるおじさんの身体手に入れたよ。でもここのドアは顔と指紋認証じゃ進めないよ?」
「コード01 電気系統のロックは全て解除した。そのまま進め」
「コード04 了解だよ~」
「コード03 今から管制室に戻るわ、以上」
黒鏡はここで切れる。
「ふぅ……」
通信を終えて一息ついた三人は占拠した管制室の椅子に座る。
「いやいや! ふぅ……じゃなくて! ねえ! これ犯罪だよ?! ロード!」
バンッ! と机を叩き、桜髪の少女、並木朔桜は突然立ち上がる。
「コードで呼べ。02」
「いひひ! 犯罪も犯罪、大犯罪!
傷害罪、住居侵入罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、なりすましに不正アクセス。国家反逆罪もいいところだ!
これは刑務所で一生を過ごせるね、いひひひひ」
「あう……」
朔桜の顔は青ざめ、魂が抜けたみたいに放心している。
「後戻りは選択肢に無い。覚悟はとっくに決めたはずだ」
「そうだけど……」
朔桜が言い淀んでいると突然、扉が蹴り開けられる。
「私の朔桜をいじめるなんていい度胸ね」
文句をつけた後、フードを取り金色のキメ細かい髪をなびかせる。
白い仮面を外し、手裏剣を投げるように手首をスナップさせて
ロードに仮面を投げつけるが、表情一つ変えず、指先で仮面を弾き飛ばす。
顔の整った美人な少女、人間名月星明もとい
魔界名ティナは不機嫌そうな顔でロードを睨む。
「会話の話を折るな。ちゃんと一人残らず制圧したんだろうな?」
「愚問よ」
「みんな生きてるよね?」
「ええ、誰も殺していない。全員気絶させてあるわ」
「良かった! ありがとうね、明」
「お安い御用よ」
ティナは得意げに胸を張る。
「ふん、甘い奴らだな。全員殺せば作戦を後五分は詰めれたものを」
「あなただったら迷わず殺すけど? 必要かしら?」
「ふん、やってみろよ。蜘蛛女」
ロードとティナの間に火花が散る。
二人の仲は相も変わらず悪い。最悪の部類だ。
「いひひ! 君主とティナちゃんは置いといて朔桜ちゃん。
もうここまで来たんだ。君は進むしかないよ」
「ううう……」
肩を落とし項垂れる朔桜。
それはこの作戦の二週間前に遡る。
全員はロードに呼び出され、まちかぜ園の地下に集められた。
その内容というのは
「俺たちは精霊界へ行く」
ロードの第一声はその場に居た全員の時間と思考を止まらせた。
「はぁ? 寝言は寝て言いなさい」
たまたま朔桜と遊んでいて、そのまま流れで付いてきたティナはご立腹だ。
「お前はここに呼んでいないし、来なくていい。行くのは俺と朔桜だ」
「ロード・フォン・ディオス。そろそろ本気で殺すわよ」
ティナは初めてロードと対面した時と同等の殺気を放つ。
「ふん、お前如き今の俺の足元にも及ばない。それに、お前は異界の門を越えられない」
「くっ……」
ティナは悔しそうにロードの事を睨みつける。
しかし、何も言い返しはしなかった。
「朔桜、覚えているか? ステン・マイスローズと戦った時、門の結界に俺たちは入れた」
「うん、あの人すごい驚いてたね」
「おそらく俺たちにはあの門を越える能力がある」
「私にも能力!?」
目を大きく見開き驚く朔桜。
「別に不思議な事じゃない。エナが有ろうが無かろうが、能力を持っている可能性は
生物皆、等しくある」
「じゃあ僕もあるのかな、いひひ」
「可能性は否定しない」
「いひひひひ、夢がある話だね」
Drは笑い終えた後、手をロードに向け「どうぞ」と合図する。
「話を続ける。ここ数カ月、俺は人間界をあちこち飛び回り世界を見てきた。
その結果、もうこの世界には俺たちが持っている以外の宝具は存在しないだろう」
「そんなバカな! 私たちは元々この世界に宝具を探しに来たんだぞ!
広い人間界に一つも無いなんて事はあり得ない!」
ティナは驚きを隠せず反論。
だが、ロードが感情を出さず涼しい顔で言い返す。
「それで? お前たちはこの世界で宝具を見つけられたか?」
「そ、それは……」
ティナはバツが悪そうに目を逸らした。
「普通あり得ない事がこの世界であり得ている」
「その根拠はあるの?」
朔桜が首を傾げ問うと
ロードは堂々と言い放つ。
「ある。アルべリアウォカナスを倒した後、現れた影の事を覚えているか?」
「Drがまんまと利用された人?」
「う゛っ……」
ノアが無邪気にDrの傷をえぐる。
「そうだ。Drに資金を提供し、人工宝具を作らせていたあの影が現れた時言った。
「まだ、取り残した宝具があったのか」と。
朔桜の宝具【雷電池】は結界で探知阻害され
ステンが持っていた宝具はこの世界のモノじゃない。
影が宝具を求めているのは明白だ。
もうこの世界の宝具は取りつくされた後なんだろう。
もし、あったとしても探知阻害で見つける術なんてほとんどない」
ロードはお手上げだと言わんばかりに両手を広げた。
「あの影が宝具を狙っていた事は分かった。それがなんだ。私たちになんの関係がある?
奴が宝具のコレクションをしようが関係ない。私は朔桜と平穏に暮らしていければ――――」
「もし、それが脅かされるとしたら?」
「何が言いたい! 簡潔にハッキリと言え!!」
ロードのまどろっこしい言い方にティナは痺れを切らす。
「人魔戦争」
そう一言呟いたのはロードではなく、朔桜だった。
ロードはフンと笑い仮説を話す。
過去、人間界に魔族が侵攻した“人魔戦争”。
その魔界側の敗因は人間が持つ宝具だった。
エナを持つ者たちは宝具という神の概念が宿るモノを使い、戦い
魔界側の侵攻を退ける事に成功したのだ。
過去の人間界には多くはないが、エナを使える者はいた。
だが、その者たちはほとんど戦死し、今の人間界はエナの使えない者の方が多い。
むしろほとんどが使えない。
それに加え、戦いの中で宝具も壊れ、この世界を離れてしまった。
影は世界中の宝具と戦力を集め、それの再来を望んでいる。
というのがロードの仮説だ。
「確かに筋は通るね。君主が居なければ、影が渡してきた玉手箱一つで
この人間界は滅びていたかもしれないし」
「あいつやっぱり悪い奴だったんだね!」
「おそらくあの影は世界を越える能力を持っているだろう。そして、奴は消える前に言った。
「精霊界に来い」と。朔桜、覚えているか? 俺たちの契約」
「うん。お母さんが見つかるまで私と宝具を守ってくれるって契約」
「そうだ。だが、再び人魔戦争が起きればそれどころじゃない。
宝具も無い。エナを使える者も居ない。
今の人間界が侵攻されれば一方的な殺戮となり、数カ月と経たず滅亡するだろう」
「そんな……」
皆は黙り、唾を呑む。
「だが、今この人間界には俺が居る。
十二貴族を倒し、忌竜をも倒したこのロード・フォン・ディオスが」
ロードは自らの胸を叩く。
「何もしなければ、近いうちこの人間界は滅びるだろう。
だが、この世界でコトを起こされるのは、俺の目的にとっても不都合だ。
お前との契約にも俺のモノになるまでその宝具を守ると誓った。
不穏分子はなるべく早く対処しておきたい。故に、決めろ、朔桜。
精霊界に行って奴をぶっ潰すか否か。お前が選択するんだ」
「私が!?」
「待ちなさい! あなたの妄想で話しが進み過ぎよ!
絶対人間界に攻めてくるなんて確証ないじゃない」
「過去に魔界が侵攻したのは、人間界と天界の二界。だが、天界とは遥か昔から永い停戦中だ。
俺ならば停戦中の天界や、見知らぬ精霊界よりも、先に四界で今一番弱い人間界を攻める」
「魔界の今の情勢でどの国が侵攻してくるっていうのよ」
「人魔戦争に参加した国は今でも不明だ。
文献を見ても何処にも情報が書いていない。
それはほとんどの国の奴らが、後ろ暗い部分をもみ消して情報操作してやがるんだろうさ。
魔界はどの国も資源不足が顕著で歪だ。
影に上手く乗せられれば、どの国に属していても未知の資源目当てに侵攻してくるだろうよ」
「…………」
ティナはそれ以降口を開かなかった。
それは魔人という欲と闘争に染まった血族の心理を
その身で理解しているからだ。
「朔桜、お前に二日やる。それで決めろ。
後、Dr。少し込み入った話がある」
「おお! やっとロボットを作れるのかい! いひひひ」
「ちょっと! そんな急に言われても!」
ロードはDrを別室に呼びつけて去ってしまった。
「行っちゃった……」
朔桜はそのままノアに別れを告げ、考えをまとめるために
一度ティナと一緒に帰路に着いたのであった。




