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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
二章 人知の興は禁忌の罪
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二十七話 結成

あの出来事から一か月が過ぎた。

今はもう梅雨の時期だ。

最近はずっと雨続きだったが、久々の晴れ模様に子供たちは大はしゃぎで運動場で遊んでいる。

ひと時の日差しを浴びながら、児童養護施設の縁側で子供たちの遊ぶ姿を眺めていた。


「朔桜お姉ちゃーん」


小さな女の子が笑顔でこちらに手を振る。

私は笑顔を返し小さく手を振って見せた。

その女の子と遊んでいるのは、以前この児童養護施設には居なかった子。

そう、あの子は過去にDr.から誘拐された女の子だ。

事件以降、竜宮城の“楽園(プレイルーム)”に軟禁されていた子供たちを

自分の家に返したのだが、子供達自身が自分の家庭環境に問題があると

児童相談所に報告し、自らの意思で家庭を去った。

そして詩織さんの計らいで、全員がここ、まちかぜ園に引き取られる事になったのだ。


「みんな~~少し休憩しなさーい」


詩織さんがたくさんのコップとたくさんの冷えた麦茶ボトルを持ってきた。

子供たちは飛びつくように集まる。

ちゃんと順番を守り喧嘩もなく仲良く麦茶を飲み囲む。


「朔桜ちゃんもどうぞ」


冷えた麦茶が手渡される。

お礼をいい冷えた麦茶を喉に通す。おいしい。


「あなたも一息ついたらーー!?」


こちらに背を向け、花壇を手入れする遠くの人物に詩織さんは大きな声で呼びかける。

その言葉に気づき振り向いた男は、あの事件の元凶であるDr.J。

ロード曰く、殺すには惜しい人材という事で警察には突き出さず

ロード監視下の元、まちかぜ園で詩織さんのお手伝いをしているのだ。

彼の作ったロボットのせいで園内は派手に壊れてしまったが

罪滅ぼしとしてロードの金を売り、増やした資金での生活援助。

施設の修理と手入れの無償手伝いという条件で詩織さんはDr.を許した。

Dr.もこれで気兼ねなく今まで通り子供たちと居る事が出来るだろう。


「助かるよ」


Dr.は私と同じく縁側に座り手渡された麦茶をまるでビールの飲むかの様に喉を鳴らして飲み干す。

かぁ~っとおじさんくさい言葉も忘れず添える。


「それ飲んだら続きもちゃんと頑張ってね?」


「いひひ、もちろんですよ」


二人は仲良く談笑を始める。なかなかに良い雰囲気かもしれない。

詩織さんが他の用事で席を外す。

子供たちもすぐに麦茶を飲み干し、すぐに遊びに戻ってしまい、私とDr.が二人で並ぶ。

う~ん、気まずい。私が席を外そうとすると不意に引き留めるかの様に声を掛けてきた。


「まってくれ! 少し話さないかい?」


「いいですけど……」


少しの沈黙。


「君は僕が嫌いかい?」


「嫌い……ではないと思います。でもなんて言うのかな?

何を話せばいいか分からないというか……」


「まあ、そうだろうね……」


そしてまた長い沈黙。

子供達の遊ぶ声が良く耳に響く。


「それにしてもまさかあのロード・フォン・ディオス……っとと、ロードくんだったね。

あの子が僕を見逃してくれるなんてどういう意図があったんだい?」


「それを私に聞かれても……私もロードの事、良く理解しているわけではないので……

でも、あなたの事はとても評価してましたよ!

人工的に宝具を作れるなんて神の業だとか人間界の逸材だ! とか」


少しロードの声や話し方の真似をしながらDr.の評価を色々と話す。

するとDr.は嬉しそうに微笑んだ。


「そうか……彼は僕をちゃんと……。正当に評価してくれるのか……」


そんな話をしていると突然どこからともなくロードが姿を現す。


「わっ! びっくりした!」


「声がでかい。リアクションもでかい。いい加減慣れろ」


「いや、そんな事言われても……」


「とりあえず、お前ら顔を貸せ」


「僕はこの後花壇の手入れが……」


「後にしろ。詩織には話は付けてある」


詩織さんには明確にロードが魔人だとは直接言ってはいないが

なにか察しているところがあり、不思議な事にかなり寛容だ。

みうちゃんを助けて帰った時なんて


「今戻った。助けたぞ」


「ありがとう」


の二言で解決してしまったぐらいだ。


「とにかく地下に行くぞ」


「地下?」


「そんなものあったっけ?」


問いかけは無視された。

ロードに促され、渋々のその後に付いて行く。

そして用具入れの前で立ち止まる。

取手に触れ電気流すと奥から仰々しい音がする。


「入れ」


一言そう言ってドアを開くとそこは地下に続く階段になっていた。


「なんで施設をこんな魔改造してるの!?」


「詩織の許可はもらっている」


「えぇ!?」


何事もなかった様にロードは先に進む。

私とDr.はも動揺しながらロードの後に続く。

そして着いたのは、近代的な金属の部屋。

物はまだなにもないが天井は高く、室内も広い。


「ここはなんなんだい?」


Drが尋ねるとロードは笑みで返す。


「分からないか? お前のラボだよ」


そう聞くとDr.はぎょっと目を開く。


「そうか……。また……私に子供たちを使って宝具を作れという事か」


その言葉を聞き、私は険しい表情でロードに強く迫る。


「どうゆう事!? ここの子供たちを実験台にするつもり!?」

 

「そうだ。こいつの研究には価値がある。ここに施設は用意した。

神願(しんがん)の触媒になる子供は(さら)わずともここにいる。

これでもう一度宝具を作ってみせろ。この……俺のためにな」


「そんなの! この事は詩織さんも知ってるの!?」


「知るわけないだろ。地下の作成、利用権を買っただけだ」


「いひひひひ……所詮は魔人か……。結局は僕を利用するために……」


Dr.は力なく俯く。


「この世はな、強い者が弱い者を支配する。敗者は勝者に全てを奪われる。

これが世界の構造だ。お前は俺に負けた。

そして、自分の罪が招いた災いの種。忌竜アルべリアウォカナスを倒すのまでをもこの俺に頼った。その恩忘れたとは言わせないぞ」


「お前が来なければ、あの箱は使わなかったっ!」


「いや、いずれは使()()()()()()()()。あれを奴から受け取った時点でお前は、人間界を滅ぼす運命の大罪人だ」


Dr.はその言葉が酷く刺さった様子でうなだれる。


「奴も俺も目的は同じ。お前に人工的に宝具を作らせる事だ。ただ、違うのは主だ」


「それって……」


「俺はお前を操らず正式に俺直属の技術師とする。

そしてここまちかぜ園は、俺の支配下とする。

そして、研究に使用するモノは全て俺の所有物とする」


私はロードの言葉の意味がいまいち呑み込めず、首を傾げる。


「要約するとロードくんはDr.を罰しないし、ここと子供たちを守ってくれるって事だよ?」


階段から下りてきたノアは笑顔で答える。


「ロードくん素直じゃないからね、そういう(てい)にしてあげて?」


「ノア、黙っていろ」


「は~い」


嬉しそうに返事をしてロードの斜め後ろに立つ。

ノアちゃんはロードを理解し肯定しているようだ。


「どうするDr.J? 我が配下となり、その才能を存分に発揮させるか、罪人として牢獄で一生を過ごすか。選べ」


ノアちゃんもDr.の返事を静かに見守る。

Dr.はロードに真直ぐ向き合う。

そして、床に着くほどの深い土下座をした。


「我が君主、ロード・フォン・ディオスよ。

その寛大な待遇、この丈一郎(じょういちろう)誠心誠意務めさせていただきます」


丈一郎って名前なんだ……。

という感想が先にきてしまったが、こうしてロードの配下として

正式にDr.Jとノアが仲間に加わった。


Drは考古学、医学、機械工学に優れているらしく

その知識を合わせて作られたのが五つの宝具を宿す人工宝具統合体のノアちゃん。

邪念が少ないまだ幼い子供が神に心から願いを捧げる神願により

強い願いを適正のモノに集約し、増大させる事により宝具を作る事ができる。

立地がとても重要らしく、竜宮城のあった場所は立地が最高だった関係で

宝具を五つも生み出す事ができたみたい。

今のこの場所では作れるかどうか分からないそうだ。

ノアちゃんは諜報兼私の護衛となった。

ロードから電気供給を受ける事で活動でき、宝具も使えるようになる。

それゆえにノアちゃんはロードを兄の様に慕っているみたい。

(てぃな)とは一度戦った事もあり、相も変わらず仲が悪いみたいだけど……。

とにかく、今ここに魔人ロード・フォン・ディオスのチームが完成した。


三人は積もる話があるそうで、早々に私一人追い出されてしまい

魔改造された掃除用具を通り施設に戻る。

すると廊下で一人の女の子が私の前に立ち止まった。

その女の子とはこの事件の一番のきっかけであり、被害者の蓮木(れんぎ) みうちゃんだった。


「あのね……朔桜ちゃん。あの時はありがとう……」


あの時とは楽園での時の事だろうか?


「わたしね、あの時の朔桜ちゃんのおかげでゆうきがついたの!

だからね、今はね、みんなと友達になることがんばってるんだ!」


「そっか!じゃあもうアルマジロさんは卒業した?」


「うん!!!」


笑顔で元気な返事。

奥から女の子二人がみうちゃんを呼んでいる。

一人は元からここまちかぜ園に居た子。

そして、もう一人は竜宮城の楽園にいた子だ。

どっちの子とも仲良くできているみたいで私は心から安心した。


「お友達が呼んでるよ?」


「うん! またね!」


そう言い残し、友達の元に元気に走りだした。

その後ろ姿を見送ると入れ替わりで詩織さんがやってきて一礼する。


「あなたのおかげ。いいや、()()()()()()()()()。本当に……ありがとう」


両手で顔を覆い涙を流した彼女のお礼は

心に温かな感情をもたらしてくれた。

~人知の興は禁忌の罪編 完結~

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