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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
二章 人知の興は禁忌の罪
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二十六話 邪道標

ロードは脱力した身体でフラフラと潜水艦の上に降り、膝を着く。

金属の擦れる音とともにハッチが開き、朔桜が満面の笑みで飛び出してくる。


「お疲れ様!! ロード!!」


それに続いてノアやDr.Jも出てきた。


「まさか! 本当にあの巨大な化け物を倒してしまうなんて!!」


Dr.が興奮しつつ食い気味にロードに迫る。


「暑苦しい! 迫ってくるな」


「ロードくん、どうやってあんな巨大な奴を倒せたの?」


「ああ、ネザーの大陸震撼砲で跡形もなく蒸発させた」


「ネザー?」


ノアは頬に指を当てあざとく首を傾げる。


「二柱同時に出した八雷神の一柱。あの時大気圏外に顕現させていた。

大気圏外に漂う膨大なエナを吸収し、凝縮して放つ。

それが大陸震撼砲。言葉通り大地を揺るがせる天からの一撃だ」


「なんと!! 衛星レーザーと言ったところかい! いひひひひ」


「それが何かは知らんが……とにかく用は済んだ。陸に戻るぞ」


丁度水平線に日も落ち、青紫色の空に黄色い月と星が煌めく。

全員が安堵し、潜水艇の中に戻ろうとしたその時だった。


「マダ:…取リ残4*宝グ■有ったと⁂は」


ノイズのような、雑音のような、声というよりも音と表現するのが正しい音が耳に入る。

頭上の空間が歪み、吐き気のするような禍々しい瘴気が溢れ出た。

その瘴気はアルべリアウォカナスを取り巻いていたモノ。

咄嗟にロードはなけなしの魔力で風壁を張る。


「なんだ! お前!」


「ロードくん! あいつ!! Dr.に玉手箱を渡した奴だよ!」


赤黒い炎のような、影のような曖昧な存在。

実体は在る様で無い。無い様で在る不確定な存在。

顔は漆黒に塗られ、何も見えない。

陽炎の様に揺らめくそれは、普通の生物とは違う。

一目見れば、誰でも分かる。危険だと。関わってはいけないと。

そんな異質なモノを潜水艦の中から伸びた黒い槍が、問答無用で貫く。


「朔桜! 早く中に!」


ティナが異変を感じ、即座に先制攻撃。

しかし、手ごたえは無い。


「幻覚……?」


「いεや……我ハ此処二存在◆…る」


八つ脚の捕食者の脚は、赤黒い(ひび)のようなものに染まって(むしば)まれてゆく。


「蜘蛛女ぁ! 脚を切り離せ!!」


ロードの焦った叫びを聞き、迷いなく別の脚で根元から切り落とす。

根元まで赤黒く染まった脚は黒い(ちり)となり宙に消えた。


「あれは……炭化? いや……侵食か?」


「Φン……勘が良いノ葉葉葉×譲りカ……」


影はボソッと小言を漏らす。


「っ! おい、今――――」


「みんな! 早く入ってくれ! 逃げるぞ!」


ロードは影の言葉を問い詰めようとするが、Dr.が割り込む。


「ロードも早く入ろう!」


頑なに動こうとしないロードの腕を朔桜が引っ張る。

その最中、潜水艦が急発進。


「うわっととと! 落ちるう!!!」


バランスを崩した朔桜は潜水艦から足を踏み外す。


「このバカ!!」


ロードは反射的に朔桜を抱え守るようにして落下。


「二人とも、捕まって!!」


ノアが咄嗟に雨の羽衣を伸ばす。

だが、僅かに長さが足りず、無情にも二人は潜水艦から放り出された。

ロードは海面ギリギリで防御用に張っていた風壁を海上に張り、足場として流用する。


「あいつら、海中に潜りやがったか……」


「ごめん……ロード。私のせいで……」


「お前のやらかしはもう慣れた。今更だろ?」


だが、そうは言ってもうこれ以上新たな魔術は使えない。

雷神の顕現により、ロードの魔力は風前の灯火。

風壁を維持するのがやっとだ。

朔桜の【(エレクトロ)電池(チャージャー)】もエナの貯蓄も空っぽ。

ノアは電気不足。

もし、このままDrとノアが裏切ったとしても、

ティナならば、朔桜のためになんとしてでもここに戻ってくるだろう事を期待する。

しかし、対峙してるのは得体の知れないモノ。

戦闘になれば、倒す手立ても守る術もない。

数秒で塵と消える(さだめ)


「さて、どうしたもんかね……」


朔桜を抱え、魔術も使えない。絶体絶命だ。


「亜a……今すぐ2℣も56したい。そノ命、そん罪を奪板い……」


聞き取りづらいが、最初と比べ、言語はなんとか聞き取れるほどにはなった。


「てめえ、何が目的でアルべリアウォカナスをこの世界に持ち込んだ? この世界を壊す気か?」


「ソうだ…私ハこの世界に怒り、コの世界を恨み、゠の世界を憎しみ、この■界を滅ぼすモノ」


「なぜ、そんな事をする必要がある?」


「コノ世界は必要◆い。」


「お前は何なんだ? この世のモノなのか?」


ロードは妙案が浮かぶまでの時間稼ぎとして、

質問を続けるが、急に返答を止める。


「………。憎き子らよ、精霊界に来い……そ●§我が積年の■■を晴らさせ÷もら%ウ……」


突如、激しいノイズのようなモノが走り、少しずつ存在が分解されていく。

まるでこの世界がアレの存在を否定し、異物を取り除いているみたいに。

その間も影はただじっと二人の姿を見ている。

何も言わずに。ただ、ただ、無言で見ている。

その目は見えずとも分かる。感じる。

激しい憎悪。怒り。悲しみ。嫉妬。

それは世界に向けるモノではなく、二人に対して向けるモノ。

その奥の何かを見ていた。

やがて悪意の塊は、この世界から静かに姿を消したのだった。

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