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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
二章 人知の興は禁忌の罪
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十九話 機転利く凡人の名案

睨み合う二人の間にはピリピリと緊張感が走る。

先に動いたのはノア。

四本の布を自在に操り、多方向から一斉に攻撃。

でもティナは冷静に魔装『八つ脚の捕食者(スパイダー)』を使い、全ての攻撃を弾く。

しかし、ノアの背後から空間を歪ませ、無数の何かが飛んでくる。


「ちっ! 邪魔くさい!」


大きく円を描くよう脚を広範囲に振り、見えない何かを()ぎ払う。

ティナの持つ魔装『視認できない剣(クリアソード)』は不可視だが

あれは風景と同化する類のもの。完全に透明ではない。


「動けばどこにいるのか分かるのよ!」


ティナは一点に狙いを絞り、見えない何かを突き刺す。

刺された場所からみるみるとその正体が露わになってゆく。

姿を現したのは分厚い機械。先端が尖り、吸盤がたくさん付いた足。


「大きな……タコの足?」


「あーあ。一本壊れちゃったね? OGN01(オージーエヌゼロイチ)光学迷彩オクトパス。

Drが作った生物兵器だよ?」


「兵器ねぇ……こんなとこで迷彩兵器を作るなんて随分と腕のある人間みたいね」


ティナは素直にその技術力を評価する。


「それだけじゃないよ? Drは機械工学、医学、考古学のエキスパートだよ?

機械工学と医学の知識で人体を作り、考古学で宝具の事を深く調べて、ノアを作り出した。

正真正銘の天才だよ?」


機械工学、医学、考古学どれも奥深い学問の分野だ。

それを一人で極めるのは並大抵の事ではない。


「確かに、それは凄い事かもしれないけど

子供たちを監禁してする研究なんてやり方は間違ってるよ!」


朔桜はティナの前に出てノアの言葉に対し、正面から否定する。


「凡人のあなたにはDr.の考えなんて分かるはずもないよ?」


言葉を交わすのを諦め、ノア容赦なく攻撃を開始。

それに続くようにタコの足も攻撃を始める。


「下がって! 朔桜!」


朔桜の腕を引いてティナは前に出て、ノアとタコの攻撃を(さば)き切る。


「あのガキもそうだけど、透明なタコ足もやっかいね……。どうにかしないと」


ティナは攻撃を防ぐのに手一杯の様子。

対抗策を考えあぐねている間にも、ノアはどんどん電気を吸収し、力を蓄えてしまっている。

これ以上力を取り戻させては、上階で戦っているロードも、二人も負けてしまう。


「考えろ、考えろ。この状況を打破する方法を……」


朔桜は知恵を振り絞ろうと焦る。

だが、それではダメな事に気が付いた。


「……ダメだ。まずは冷静にならなきゃ。それじゃないと良い案を考えられない」


今の状況を整理する。

ここは海の底にある大きな施設。竜宮城。

竜宮城のゴミ捨て場。スクラップ場の地下に、マグマの熱を利用した地熱発電所があり

ここの電力で竜宮城と人工宝具であるノアの電気エネルギー源全てをここの電気供給(おぎな)っている。

私たちの一番の目的はみうちゃんもとい、子供たちの救出。

だが、先に障害となるノアを倒すのが優先。

倒すためには発電機の破壊が最優先となる。

発電所を壊す事により、ノアの人工宝具のチート級の性能は封殺できるからだ。

ロードはスクラップ場の上にある大きな部屋でノアと交戦中。

Drは現在居場所不明。

子供たちはおそらく、今だ楽園(プレイルーム)内。

朔桜とティナは、地下発電所でノアと透明なタコと交戦中。

ロードの持ち物は黒鴉の衣、黒鏡以外不明。

ティナは八つ脚の捕食者、黒鏡、視認できない剣。

朔桜の持ち物は雷電池、黒鏡、楽園から持ち出したバッグ、懐中電灯、電池、はさみ、カラフルに光るスーパーボール、小さなデジタル時計、フォーク、ナイフ、テープ、チョーク、野球ボール、ペットボトルの水、溶けたチョコ、溶けた飴。

この状況でどうにか現状を打破しなければいけない。

朔桜は無い知恵を絞り、色々な作戦を考える。

だが、どれも抜け穴が多く確実性が無い。これではダメだ。

数個案を考えた末に、朔桜の脳内に一つの名案が浮かんだ。

そしてすぐに準備に入る。


「くっ……このっ!!!」


準備の間、ティナがノアとタコの相手をしてくれていたが、そろそろ限界だ。


「待ってね! 今、準備してるから!」


「私、防戦はあまり得意ではないのっ!」


攻撃を防ぎつつも、空いた脚でノア本体を狙う。


「無駄?」


素早く威力の高い八つ脚の捕食者の攻撃を軽々と細身の身体で蹴り返す。


「あのチビさすがに強いわね……。

せめて透明なタコだけでもどうにかなれば、集中して戦えるんだけど……」


「できた! これを使って!」


ティナが小言を呟いている間に、朔桜は完成させた秘密兵器を投げ渡す。

それは中身が真っ白になったペットボトル。

白いチョークを硬い野球ボールで砕き、それを水入りのペットボトルに入れ、よく振ったもの。


「これは……なるほど。理解したわ、朔桜。使わせてもらうわね!」


ティナは発電所の上高くにペットボトルを遠投。


「なにをする気?」


ノアは警戒しつつも様子をみている。


「さあ、正体を現しなさい!」


指を鳴らすフェイクと同時に、ペットボトルは『視認できない剣』で斬られて真っ二つになり、入っていた液体が降り注ぐ。

ノアは遠距離の攻撃魔法だと勘違いしているだろう。

降り注いだチョーク水は、発電機の上に覆い被さるように隠れていたタコの全貌(ぜんぼう)を露わにする。


「しまった……これが狙いね?」


「そ、姿が見えればこっちのものよ。後は急所を突くだけ」


タコの足八本の足と八つ脚の捕食者の脚がぶつかり合う。

ティナは俊敏な動きで全ての足を弾き、かわし、打ちのめす。

飛び上がり、二本の脚で高さを固定。タコの頭の直線上に高さを合わせた。


「収束―四点!」


四本の脚を束ねた攻撃が真直ぐ頭に向かう。


「させないよ?」


ノアの布が角度を変えよう邪魔するが残った二本の脚がそれを阻む。

以前、ロードに指摘されていた攻撃してる時は守れず

守ってる時は攻撃できないという弱点は、もう完全に克服している。

タコの足も何本も重なりガードするが、気持ち良いくらい容易くそれを貫き

やがて四本の脚はタコの頭に突き刺さった。

そのまま発電機も破壊できたかのように思えたが、寸前の所でノアが布を巻き付け止めている。


「朔桜!」


ティナの合図で朔桜は胸元のペンダントに黒い柄を当て、願う。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「っ!?」


ノアがその異変に気付いた時にはもう遅く、魔装『視認できない剣(クリアソード)』は

発電機の基盤を突き刺していた。

それと同時に電気が落ち、緑色の非常電気が光る。


「そんな……ノアが……守りきれなかった?」


膝を折り、バチバチと火花を散らす発電機を見上げながら、脱力するノア。


「緊急 修理 緊急 修理」


手の長いたくさんのロボットがどこからともなく湧き出すが、ティナはそれを脚一振りで一掃する。


「まだやるかしら? おチビちゃん?」


口元に手を当て、勝ち誇った笑みでノアを見下ろすティナ。

それを姿を見上げ、弱々しい口調で返す。


「いや、ノアの負けだよ? 大人しくここのノアは引き下がるね?」


そう言い残すと目の前のノアは静かに消えていった。

それと同時に発電機が爆発し、火が上がる。


「さっすが朔桜ねっ! 咄嗟(とっさ)の判断、天才的だったわ!

さあ、ここも危険だしとっとと脱出しましょ?」


朔桜をノータイムで抱え、飛ぶように階段を駆け上がる。


「待って! 子供たちを助けなきゃ! 一度ロードと合流しよ!」


「え~~」


ティナは凄く嫌そうな顔をしつつも渋々、ロードとノアが交戦している二階の広い部屋へと向ったのだった。

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