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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 裁き 十二神域なりし時
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三十六話 冥呑

冥土へ人々を呑み込む存在“冥呑(メイン)”。

精霊女王ティターニアによって逸脱した強さの怪物が、同時に三体も生み出された。

一体は三つ目四つ尾の山のように巨大で溶岩石のように強固な蛙。

一体は獣人のような顔をした大型の蝙蝠(こうもり)

一体は二つの薄い氷の羽根が生えた氷騎士。

これに対するは、精霊界を救った“勇者”カウル。

息を呑むような緊張感が漂う中、ティターニアは

電気キリンの放った電撃の電熱で燃えた薔薇園を不愉快そうに見つめていた。


「焦げ臭い」


今にも始まりそうな戦いには目もくれず、指を鳴らすと

スポンジのような精霊が出現。周囲の焦げ臭いを吸収する。

そしてもう一度指を鳴らすと魚の精霊が地面から飛び出し、スポンジの精霊を丸呑みにして食い殺した。

続けて指を鳴らすと、地面から二茎の桃色の花が咲き、腰掛けるのに丁度良い机と椅子へと変わる。

腰を掛けるとティターニアは更に指を鳴らし、二つの指に収まる程度の小さい精霊を生み出す。

彼女は細く綺麗な指で躊躇なく掴み、小さく上品な口に入れ

精霊を生きたまま咀嚼(そしゃく)する。


「ぎゅい――――」


ティターニアの口の中から咀嚼された精霊の悲鳴がほんの一瞬聞こえた。


「少し物足りないわね」


不満そうに指を鳴らすと別の姿形の小さな精霊が生まれ、当然のように生きた精霊を喰らう。

戦いに一切の興味を示さず、自ら生み出した我が子をなんの躊躇もなく喰らうという

衝撃的な光景を目の当たりにしたカウルは絶句する。


「何……してんだよお前……」


カウルの声はティターニアに届いていない。

彼女は彼にまるで興味がない。眼中にない。

ティターニアにとって精霊界を救った“勇者”は脅威ではなく

広大な敷地に入ってきた小蠅(こばえ)程度の認識でしかない。

復元する庭を茫然(ぼうぜん)と眺め、再び生み出した精霊をお菓子感覚で喰らう。

生みの親とはいえ生命の尊厳を冒涜(ぼうとく)する狂気的な行動にカウルは怒りを覚えた。


「やめ――――」


カウルがティターニアに敵意を向けた瞬間

足元の地面から鋭い氷が突き上がる。


「っ!」


カウルは咄嗟に回避。

だが、正面から見えない衝撃波がカウルを吹き飛ばす。


「がっ!」


その範囲は凄まじいほどに広く、防五段階一のカウルですら回避出来なかった。

威力も凄まじく、常人なら跡形もなく消し飛んでいる。

大量のエナを持ち強固な肉体を有するカウルですら今の一瞬で全身の骨が砕けた。

もうまともに立ち上がる事すらままならない。


「っ!」


カウルは即座に異空間から『四精剣―朱雀』を己の右腕の上に出して突き刺す。

朱雀の癒しの炎の効果で腕の損傷を癒した。

そのまま精剣を手に移し替え、朱帝を発動。

煌めく癒しの炎の渦で自身を包んだ。

カウルの砕けた骨はみるみるうちに接合されてゆく。

だが“冥呑”もその様子を黙って見ていない。

蛙は口の中から大量の御玉杓子(おたまじゃくし)を吐き出す。その数推定六十匹。

カウルは無数の敵意を感じ取り、まだ完治していない状態で炎の中から飛び出し

白凪(はくなぎ)』で、地を跳ねて進む御玉杓子へと斬り掛かった。

しかし、まるで刃が通らない。並みの生物の硬さではない。


「まじかよ」


御玉杓子は目の前のカウルを補足すると小さな口の中から無数の黒い粒を発射。

カウルが感覚でかわすと黒い粒が後方で盛大に爆発した。

小さな粒の一つ一つが手榴弾に匹敵する程度の威力。

カウルは『四精剣―白虎』へと持ち替えて早急に御玉杓子を断ち切る。

その瞬間、御玉杓子が発光。


「――――っ」


カウルは咄嗟に『四精剣―玄武』を取り出し、玄帝を展開。

周囲一帯は壮絶な爆発で軽々と消し飛ぶ。


「なんて威力してんだ……」


世界滅亡級をも防ぐ防壁で爆発を凌いだカウルが周囲を見渡すと

既に大量の御玉杓子に取り囲まれていた。

その一体一体が“喰者(フルーヅ)”に匹敵する強さだ。


「こりゃやばいな……」


焦りを露わにすると同時に

御玉杓子が黒い粒を吐き、蝙蝠が広範囲超音波を放ち、氷の騎士が氷撃を飛ばす。

カウルは即座に『四精剣―青龍』へと持ち替えた。


「青帝!」


空間を湾曲させ黒い粒、超音波、氷撃の軌道を曲げて猛攻全てを凌ぐ。

だが、“冥呑”と御玉杓子たちは既に攻撃の準備を整えている。

圧倒的不利な状況。だが、カウルの顔に絶望はない。


「相手にとって不足なしだ!」


彼はこの状況でも希望を捨てていない。

仲間を信じ、自分を信じ、この世界から脱出した後の事を考えていた。

勝利するための熱に満ち満ちていた。

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