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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 裁き 十二神域なりし時
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三十一話 己すらも欺く

まっとうに戦って勝てる見込みが皆無な故に、神へと至ったツグミを囮として

ルシファー諸共に穿つという苦肉の策を講じてもなお、ルシファーは健在。

自身の白き両翼を犠牲に神の一撃、土雷神ネザーの世界震撼砲を凌いだ。

ルシファーの制空権を奪う事は成功したが、その代償は大きい。

ロードは全身が焼け爛れ重傷。

ツグミは雷神を降ろしていたとはいえ、世界震撼砲の直撃を受けて重篤状態だ。

そして、上席と戦うための最後の切り札。

“正常盤”が真っ二つに破壊され、二人は絶望的な窮地に立たされていた。


「驚き。焦り。危機感。その表情に偽りはない。これ以上の愚策は持ち合わせて無さそうだな」


「…………」


「安心するといい。お前もツグミも殺しはしない。カウルもゼルノもだ」


「ちっ……全部筒抜けかよ」


「ただ、君らには罰を受けてもらう事になるだろう」


万策尽きた状況だが、ロードはまだ諦めてはいない。

新たな策を講じるため、カウルの援軍の可能性も期待して

会話を一秒でも引き延ばす。


「罰……だと? それはお前が神様気取りで下すってか?」


「否。あのⅣ席(フォーネ)ティターニアすら改心させたⅠ席(ワールド)イフの罰だ」


「Ⅰ席イフ。お前らがそれほど恐れるって事は、さぞ絶対的な力を持ってるんだろうな」


「ああ。常識の域を超えている。アレは“生きる法”だ」


「天界の救世主様が随分な評価をするじゃねぇか。

罰って一体何をされるってんだ? 俺らを二度と逆らわないよう洗脳でもしようってか?」


「否。単純な話だ。もう二度と秩序を乱さぬよう徹底的に身体に染み込まされる。

刻で言えば数百年程度か。圧倒的な力を持つイフに瀕死にされ、治されを続ける」


「数百年だ? そんなの身体よりも先に精神がぶっ壊れる」


ロードは体感一年でも今までの人生と同じくらいの長さを感じていた。

それを数百倍と考えると想像もできない。永遠に等しく感じるだろう。

身体はともかく精神が保つはずがない。


「安心しろ。身体が死ぬ事はない。精神が、心が壊れる事はない。そのための“正常盤”だ」


それがどれだけ無謀で愚かな行為だったかを思い出し

以前、反旗を翻し、歯向かおうとした経験者は語る。


「それは今お前が――――」


「私が破壊したのは神殿の複製盤。彼の居城には“原初(オリジナル)”がある」


「“原初”……?」


ルシファーの言葉を聞いてロードの表情が変わる。

イフに何度も叩きのめされて教育される恐怖でではない。

ロードの表情の変化を見てルシファーは吐息を漏らした。


「お前を期待させるための情報開示ではなく、絶望させるための言葉のつもりだったのだがな」


この期に及んで今の情報を加味し

新たな策を絞り出そうとしているロードの笑みを見てルシファーは呆れる。


「諦めろ。これは避けようのない罰だ。甘んじて受け入れろ」


「ふん……断る。俺らは帰るべき場所に帰る」


「この期に及んでまだ諦めていないのか? いくら会話を引き延ばそうと戦況は変わらない。

立っているだけで精一杯だろう。もう抗うエナも残ってはいないだろう。お前にはもうなす術も策もないだろう」


聖剣に手を翳すと遠くの聖剣が静かにルシファーの手に収まる。


「だが、抗う気力は……あるか?」


「あたりまえだ」


「……そうか」


淡泊な問答をかわすとルシファーは聖剣を天に掲げ、再び輝かせた。


「もう気張る必要はない。すぐに楽にしてやろう」


剣を振り翳すその刹那、かわしようのない巨大な斬撃がルシファーを斬り裂く。


「くっ――――」


不意の攻撃にルシファーは構えを崩した。

万全の姿のツグミが最大の好機に叫ぶ。


「ロード! 決めろ!!」


ロードは一体何が起きているのか全く理解していない。

だが、その千載一遇の好機を見逃さなかった。

右手首を左手で抑え狙いを定めて固定。

残りのエナを振り絞り、魔術を唱える。


「雷闢―(えんじゅ)!」


稲妻迸る激しい黄金色の雷滅砲がルシファーを穿つ。

致命的な一撃を受けたルシファーは地を転がり、数千年ぶりに地に這い(つくば)った。


「神位に通じる雷か……」


自身の肉体を負傷させる事の出来る攻撃にルシファーも驚きを隠せない。

ロードはカウルとツグミとの修行で“黒”には至らずとも新たな力を習得していた。

雷を雷で凝縮し、立ち塞がる全てを開き、退ける。

己の突き進む道を通す、開闢の力。

だが、ルシファーとて並みの存在ではない。

初代六大天使から天界を、天族を救った救世主(メシア)

神位へと至った不屈の男は、深紅の血に塗れながらも再びロードとツグミの前に立ち塞がる。


「化け物が……」


ロードはボロボロの身体で渾身の一撃を放ち、もう余力などない。

ルシファーが即座に攻めてくればなす術なく敗北する。

だが、ルシファーは一行に攻めて来る様子はなかった。

彼はもう一足遅かったと感覚で理解していた。

身軽な足取りのツグミがロードの背後に降り立つと何かをロードの背に触れさせる。

するとボロボロだったロードの肉体はその怪我が異常でまるでなかったかのように

ルシファーと戦う前の“正常”な姿に戻った。


「これは…!」


ロードが目を丸くして驚くとツグミが背後で笑みを浮かべ、ルシファーの目を見た。


「ロード・フォン・ディオス……何処までが君の策だ?」


「?」


ルシファーの唐突な言葉にロードは首を傾げる。


「まさかこの私を欺くとは……」


「欺くも何も……」


ロードすら今の状況に困惑している。


「何を驚いているの? 全てロードの作戦の通り。面白いくらい上手くいった」


「俺の作戦? 何を言って……」


「最初から説明しましょうか? チンロウトウと戦った後

貴方は《八雷神》リ・マインドの力で自身の記憶を改竄(かいざん)して

その岩板を“正常盤”だとずっと誤認識していた。

でもそれはこの世界に作らせたなんの能力もない精巧な偽物。

本物はずっと私が着物の中に隠し持っていた方」


ツグミは本物の“正常盤”を掲げ、神馬ライトニングにも触れると元の正常な姿に戻す。


「神の砲撃を受ける間際、同じ雷神であるタケミカヅチの力でこれだけを死守した。

後はロードの想定通り。偽の“正常盤”が破壊される頃合いで私が完全復帰して戦況を一転させる事が出来たってわけ」


完全に回復したロード、ツグミを前にルシファーは深い溜息を吐いた。

己すらも欺き、大天使の心眼をも逃れたその大胆不敵な策に笑みを溢す。


「……まんまとやられたよ」


「ロード、速攻で決めるよ!」


ツグミは再び《神降(かみおろし)》を発動。

新たな神をその身に降ろす。


「降神―フツヌシ!」


武の神を顕現させ、一迅の風のように一気に攻め込む。

ロードも狂雷と光雷で自身を強化。

懐から“五魔剣(いつまけん)”『骨断(ほねたち)』を手にしてその背を追う。


「覚悟っ!」


「消え果てろ、ルシファー!!」


迫り来る二人を前に、動じる事なく瞼を閉じるルシファー。

そして、その眼が開いた時、真っ黒な黒気が周囲一帯に噴き出した。

身体の神経を(むしば)むような痛覚を揺さぶる黒気にロードとツグミは即座に身を翻す。

黒気が晴れると二人の前に漆黒の六枚の禍々しい翼を持った黒の堕天使が鎮座していた。


「さあ、ここからが本番だ」


白と黒が混合した聖剣『粛天(アテュラソーン)』を(かざ)し、ルシファーは二人と再び対峙した。

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