二十八話 吸音轟鳴 鳴雷神 リ・サウンド
ロードたちの前に立ち塞がった青龍は
《八雷神》の一柱である火雷神ブレイズを咆哮だけで蹴散らした。
「流石に今のは出させる訳にはいかねぇと俺様の龍血が騒ぎやがったから早々に止めさせてもらったぜ。
俺様の真の姿を拝める光栄有難く思いな!」
別格の気迫を放つ青龍の姿に常人ならば身体一つ動かせない。
だが、ロードは一切退く事なく、勝利する方法だけを貪欲に考えていた。
「……まだいけるかブレイズ?」
「たりめぇだ! てめぇ誰にモノ言ってやがる!」
怒りを糧に飛び散ったブレイズは再び巨大な業火へと姿を戻す。
「懲りねぇ神だな」
チンロウトウの“みる”という概念は黒雷神クラウが奪っている。
にも関わらずエナの気配だけでブレイズの巨大化を察していた。
チンロウトウが再び大きく息を吸い込む動作をした瞬間
ロードは同じ轍は踏むまいと先んじて勝利への一手を打つ。
「現れよ、我が“八雷神”が一柱。轟音轟かす鳴雷神! リ・サウンド!」
緑雷が落ち、宙に浮く六つの太鼓を操る少年が顕現する。
頭頂部から生えた一本の灰色の角。灰色の短髪。赤銅色の肌に大きな真っ黒い瞳。
黒色の大きな耳当て。
大きさの合っていないぶかぶかで質素な橙色の衣服を羽織っているが
左肩と両足は無防備にも晒されている。
両手には質の良い木で作れた撥を握っていた。
「鳴らせ! リ・サウンド!!」
「青龍帝咆哮!」
ほぼ同時の二人の声は太鼓の音に打ち消され
チンロウトウの暴力的な咆哮は消滅した。
「――――!? ――――!?」
チンロウトウは自身の咆哮がかき消された事に
何か言っているようだが、口を動かしているだけで何も発言していない。
「――――!?」
この現象にツグミも疑問を述べるも、声は出しているのに音が出ていなかった。
勘のいい“裁きの調停者”の二人は即座にその原因に気が付く。
「お前らの想像通りだ。《八雷神》鳴雷神リ・サウンドの能力は周囲の音を吸う力。
今は主の俺の声だけ聞こえるようにさせている」
「――――!!」
「ロード~僕だけ全然呼んでくれないの酷いじゃないか!」
「――――!!」
「お前の能力は特殊で団体だと扱いづらい」
「――――!!!」
「そんなー僕もいっぱい呼んでよ!」
「――――!!!!」
「機会があればな」
「――――?」
「絶対だよ? 約束ね!」
「外野がごちゃごちゃと言ってるな。あの巫女服の女は通るようにしてくれ」
「了解」
リ・サウンドが軽快に手元の太鼓を叩く。
「――――あ、声でた。ロード、そろそろ刻。締めて。無理なら手伝うけど?」
「バカ言うな。こいつらが万全で無理な訳がない」
ロードは自身の勝利を確信していた。
それほどに《八雷神》の力を信用しているのだ。
「――――!! ――――――――!!!!」
視覚に聴覚をも奪われたチンロウトウの状況は
暗黒の無の空間に閉じ込められているに等しい。
だが、絶対的な感覚は生きている。
単純な攻撃は軽々とかわされてしまうだろう。
だが、十分な広範囲攻撃手段は揃った。
「ブレイズ!!」
「――――! ――――!!」
両手を翳し放たれた万物を跡形も無く焼き消す回禄の雷炎
雷怒炎がチンロウトウを灼く。
「あ、ごめんね。ブレイズのせっかくの決め台詞消したままだった!」
太鼓を叩くとブレイズが睨みを利かす。
「うるせぇ! 過ぎた後で気を遣うな!!」
リ・サウンドの優しい気遣いがブレイズの怒りを加速させ、雷怒炎の火力を更に増加させた。
「――――ッ!!!!」
チンロウトウは鱗を鎧のように変化させる青龍帝鎧鱗で
世界滅亡級すら呑み込んだ雷炎の中をじっと堪え凌いでいる。
「あいつマジかよ!?」
流石のロードも驚きを隠せない。
それどころか引いてすらいる。
「――――――――!!!!」
全然余裕だと叫んでいるのだろう。
だが、虚しい事に彼の魂の叫びは誰にも伝わらない。
ロードはその姿を見て自身の力だけでは絶対に勝てなかったと単体での敗北を認め、チンロウトウに敬意を表す。
「消え果ろ。チンロウトウ」
ロードの合図で太鼓が強く叩かれ、無音の空間に轟音が轟く。
その暴力的な衝波はチンロウトウが放った咆哮を増強し、本人だけに絞った音の収束波動砲。
龍の逸脱して強固な鱗をも無視し、Ⅹ席チンロウトウの身体の内部に超強力な波動砲が反響して暴れまわる。
防御無視の内部破壊攻撃。
その場が鎮まると、勝負は決した。
ロードがブレイズに合図を出すと雷炎は消える。
チンロウトウは神の業火で燃え尽きず、波動砲に内部を破壊されてもなお
膝を付かずに立ったまま意識を失っていたのだった。




