二十五話 神々の主と龍子孫
“高天原”の二か所で凄まじい轟音が響き渡る。
「あいつら始めたな」
「私たちも急ぐよ」
ロードとツグミの二人は姿勢を前に倒し、足を速めた。
「ここよ」
二人の前に広がるのは、熱線のような熱いライトが煌々と照らされており
激しい音楽が流れまるでテーマパークやライブ会場のような派手な居城。
全体的に蒼白く棘々しい鋭い突起が目立つ。
「趣味の悪い城だな。出て来い! トカゲ野郎!」
ロードが大きな声で叫ぶと、天から一閃が降って来る。
「呼んだか!? サンドバッグッ!」
人離れした強固な拳を握り降って来た居城の主。
Ⅹ席チンロントウの劇的な奇襲をロードはヒラリとかわす。
「なにっ!」
チンロウトウはそのまま地に落ち、地面がチンロウトウに激突した。
居城の前の舗装された道は跡形も無く吹き飛び荒野と化したが
“高天原”の力で壊れた部分が即時修正される。
「あれをかわすたぁ多少はやるようになったみたいだな!!」
チンロウトウは笑みを浮かべ、拳を強く握る。
「俺様の居城までわざわざ何の様だ?」
「んなもん決まってんだろ。再戦だ、再戦!」
「再戦だぁ? てめぇとツグミの二人だけでいいのかよ?
せめてカウルの野郎も連れて来ねぇと話になんねぇぞ」
「はっ! 寝惚けた事言ってんな! お前なんぞ俺だけで十分だ!」
ロードは堂々と啖呵を切った。
「おいおい、お前よぉ! 殴られ過ぎて前の記憶飛んじまったのか?
あんな完全な敗北を喫してよくその台詞を吐けたもんだぜ!」
腹を抱えて笑うチンロウトウ。
ロードはその姿を見て睨みを利かす。
「初見殺し能力の癖によく言う」
その捨て台詞を吐くとチンロウトウから笑みが消えた。
「新人、お前バカか? 戦いとは一期一会の殺し合い。全てが初見の命の奪い合いだ。二度目なんてねぇんだよ」
縦長の瞳孔が小さくなると鋭い眼で睨み返した。
相手がどれほどのエナを持ち、どんな能力、どんな装備を備えているのかを探り、相手の命を奪う。
魔界で生まれ育ったロードはそれを嫌というほど味わってきた。
「……それもそうか。俺もここに来て随分と腑抜けたな。殺し合いってもんを久しく忘れていた」
ロードはチンロウトウの言葉にあっさりと納得してしまう。
だが、言葉は撤回しない。退く気など毛頭ない。
気を引き締めたロードは戦闘態勢を取った。
「殺す気でいく。ツグミ、周囲の警戒は任せたぞ」
「了解」
背中に大きな風呂敷を背負ったツグミ。
上席の横槍が入らないよう警戒に努め、後方へと退く。
チンロウトウの能力《清老頭》は
足場から広範囲に陰陽太極陣を張り、その範囲内の一人、九人の魂には絶対に負けないという条件付きの無敵能力。
ロードは事前にその能力の詳細を協力関係の“裁きの調停者”から聞いていた。
故に戦い方は対策済みだ。
「俺の全力! 初見で対応してみやがれ!」
狂雷で全身を強化し、手を天に翳す。
「現れよ、我が“八雷神”が一柱。万物を引き裂く裂雷神! クリムゾン!
現れよ、我が“八雷神”が一柱。雷雲纏いし黒雷神! クラウ!」
“高天原”の空に真っ黒な雷雲が現れ、天から落ちた紅と灰の雷から
四つの豪腕を持つ大きな赤鬼と実体の無い漆黒の幻想竜が顕現した。
「さあ、全力で暴れろ、お前ら。アレはお前らの全力に十分応えてくれそうだ」
ロードはこの一年の間に“高天原”でも全ての《八雷神》を呼べる事は検証済み。
《無常の眼》を使わなくても最大六柱の神々を呼べる。
「神格……いや、神そのものか! こいつは楽しくなってきたぜ!」
チンロウトウは二柱の神を前にしても恐れるどころか
今までで一番の笑みを浮かべ全身に力を込める。
「行け」
ロードの号令で四本の腕を構え、クリムゾンが飛び出す。
「若僧安心せい! 殺しはせん!」
クリムゾンの拳に触れたモノは万物を“裂く”。
急所に一撃当たればそれで終わりだ。
「神の攻撃、どんなもんか受けてみてぇのは山々だが……」
チンロウトウはクリムゾンの猛攻を身軽にかわす。
「触れたら終わっちまいそうだ」
戦いの勘でクリムゾンの脅威性を感じ取っていた。
「クラウ。奴の視界を奪え」
ロードの命令に従いその力を行使。
チンロウトウの“みる”という概念を奪う。
「うおっ」
突如として視界が奪われ、真っ暗になったチンロウトウが狼狽えると
同時にクリムゾンが拳の連撃仕掛ける。
だが、チンロウトウはその攻撃を全てかわしきった。
「少しばかり焦ったが、甘いぜ神さんよぉ!」
チンロウトウも選ばれし才ある存在。
視界に頼らずとも感覚で攻撃をかわせる防五段階一を会得していた。
「ちっ、てめぇも防五一かよ! 還れ。クリムゾン」
単発の攻撃は防五段階一を会得しているチンロウトウには意味がないと判断し、早々にクリムゾンを天へと還す。
そして、新たに二柱の神々を顕現させた。
「現れよ、我が“八雷神”が一柱。天から地に放て、土雷神! ネザー!
現れよ、我が“八雷神”が一柱。形在るものを焼き尽くせ! 火雷神! ブレイズ!」
遥か上空の彼方に複数の翡翠色のひし形水晶体が顕現。
橙の雷がロードの手に落ち、小さな火の玉が揺らめく。
「次はなんだぁ?」
チンロウトウは全身に神経を集中させ、神経を研ぎ澄ます。
ロードは新たに防五段階一を会得していても物理的に避けきれない
広範囲攻撃を持つネザーとブレイズを顕現させた。
「ブレイズ、キレろ」
「んだ、てめぇ! 俺様を呼び出して早々意味の分からねぇ命令かよ!」
ブレイズは早々に不満を口にして一回り大きくなった。
「その調子だ。シエラに負けた汚名を返上しろ」
「てめぇ!!」
怒りを募らせたブレイズは次第に大きくなっていく。
「上空に一体。それにお前の手から熱気を感じる」
“みる”概念を封じられているチンロウトウ。
だが、エナを読み取り、周辺の状況をほぼ把握していた。
「あいつは防五一だ。最大化してから雷怒炎をぶっ放せ」
「うるせぇ! いちいち命令すんな!」
怒りで巨大化したブレイズはロードの手を離れ自立した業火と化す。
「あんなもんこれで十分だ!」
ブレイズは手を前に翳し術を唱える。
「災禍!」
突如として現れた大炎がチンロウトウの周りを渦を巻いて取り囲む。
「さっさと溶けちまいな!」
酸素も燃え尽き、呼吸も出来ない暴炎の中
チンロウトウは静かに佇んでいた。
「ぬりぃな。青龍帝飛翼」
チンロウトウは背中から二枚の剛翼を広げ
大地を抉るほどの羽ばたきで災禍をかき消した。
「野郎、俺様の神炎をっ!」
苛立ちを露わにしてブレイズは更に大きさを増す。
「ならこれで消し飛びな!!」
両手を構え、精霊神をも滅ぼした雷怒炎を放とうとした瞬間
命の危機を感じたチンロウトウはその姿を一変させ、大きく息を吸い込んだ。
「青龍帝咆哮!」
“高天原”全土を揺るがすほどの巨大な咆哮がブレイズを穿ち、バラバラに散らした。
「……冗談だろ?」
神すら消し去る圧倒的な咆哮にロードは唖然として立ち尽くす。
「人種に祀り上げられた神だか知らねぇが、龍種の俺様には関係ねぇな!」
ロードの前には大きな両翼を広げ、大きな手足と鋭い爪を輝かせた
蒼白の鱗に覆われた神々しい青龍が立ち塞がっていた。




