二十二話 ロードの作戦
ゼルノからⅡ席は魔界の負の遺産。“魔神竜”ソロモンだと聞かされたロード。
だが、一度は驚きはしたものの、彼は冷静であった。
「まさか。あの昔話の欠落兵器が“高天ヶ原”のⅡ席だとはな……。
だが、封印されているなら好都合だ。アレと戦わなくて済むんだからな」
十二ある席の二席が封印中という事実は
ロードにとっては不幸中の幸いだった。
「凄い思考しているさぁ。でも、残念。ここを出るっていうならⅡ席はともかく
絶対的なⅠ席イフとの戦いは避けられないさぁ」
「イフ? ああ、Ⅰ席の名か。
そういえば聞いてなかったな。そのⅠ席の事を。
お前らが恐れる強さって事は分かったが、どんだけ強いんだ?」
ロードの問いにゼルノが問いで返す。
「ロード・フォン・ディオス。お前、チェスは知っているか?」
「勿論だ。魔界のボードゲームだろ?」
「人間界で似ているのは将棋。精霊界だと石取りって名前の駒取りさぁ。
それで例えるならば、イフは盤上から絶対に取られる事の無いキング、玉、大石。ってところさぁ」
「言い得て妙ね」
「的を得た言い方だな」
ゼルノの例えに二人は賛同する。
「それじゃゲームにならないだろ」
「そう、その通り。戦いにならないのさ。圧倒的過ぎて」
ゼルノの言葉の真偽を確かめるべくカウルとツグミの顔色を窺う。
しかし、二人も無言で頷き、ゼルノの言葉を肯定した。
「だが、同時にこちらが負ける事も決してない。
奴は貧乏性が故に積極的に駒を取ろうとしないのさぁ」
「どういう事だ?」
「これはシエラユースから聞いた話だが
遥か太古にⅣ席ティターニアが謀反を起こしたらしい。
その時、イフは何万回と挑まれても、ティターニアを痛めつけ半殺しにした。
挙句、最終的にアレを更生させたらしい」
「そのティターニアって奴が弱かったんじゃないのか?」
「何言ってんだ、ロード。お前も知ってるだろ? 奴の規格外の能力を」
カウルの言葉にロードは見当が付かないと首を傾げる。
「六体の精霊神の産みの親にして精霊界を統べた精霊女王。その真名がティターニアだ」
「おい……待て待て……あの精霊神を生み出した精霊女王も“裁きの調停者”なのか!?」
「そうだぜ? ラミュレットの城で言わなかったっけ?」
「ふざけんな、そんな重要な話今まで一言も聞いてねぇぞ!!」
ロードは激しく憤慨する。
「更に問題なのが、Ⅰ席に次ぐ実力の二体。
Ⅲ席ルシファーとⅣ席ティターニア。
奴らを対処しない事には、ここを出るのは不可能さぁ」
「他の“裁きの調停者”も侮ってはダメ。
皆、戦力は私たちと同等かそれ以上。一瞬の隙で勝敗がひっくり返る」
立ち塞がる膨大な問題量にロードは頭を悩ませ、言葉を詰まらせた。
だが、その無謀さを理解しながらもロードに力を貸してくれたツグミとカウル。
ついでにゼルノの前で心を折る訳にはいかない。
それに、大切な約束をそんな些細な障害で違える訳にはいかないのだ。
「…………よし。一度お前らが知り得る全ての情報を今ここで話せ。全ての話はそれからだ」
ロードは一度カウル、ツグミ、ゼルノから他の“裁きの調停者”に関する知識を全て聞き出した。
情報を精査しながら、大きな机に肘を突き、難しい顔でこの先の戦略を考えロードは提案する。
カウルは今から冒険にいくかのように楽しそうに。
ツグミはパズルの穴を埋めるかのように真剣に。
ゼルノは頭を掻きながら退屈そうに。
三者三様の忌憚のない意見の述べてゆく。
暇を費やし作戦を練る。
そして、ついに。
「……よし。決まった」
その言葉を聞き、三人は同時にロードの方を見る。
「よく聞け、背信者共! これが今あるカードで戦える“高天原”を出る作戦だ」
ロードは三人にその方法を説明した。
その常識を逸脱した方法に三人は声を漏らす。
「キキッ……こりゃとんでもない盤狂わせさぁ……」
「最低で最悪な作戦ね」
「でも、俺らのやろうとしている事はそういう事だろ?
今更俺は反対しないぜ」
「異論がある者は?」
三人は異を唱えない。
「なら決行だ。お前らすぐに準備しろ!」
こうして四人は衣服を靡かせ、絶対的な秩序へと抗うのだった。




