十二話 神位の一本
ロード、カウル、ツグミ、ベーゼンの四人は
互いに警戒を解き、話を仕切り直す。
「今一度話を整理するけど、私たちが“高天原”から出るのには協力しない。
貴方からここを奪わなければ、邪魔もしないって事でいい?」
ツグミがベーゼンの主張を纏める。
「そうだ」
「そ、なら話はおしまい。邪魔したわね」
ツグミは早々に立ち上がり出口へと向かう。
「少し待て。強力はしないが、一つ提案がある」
「なにかしら?」
「“高天原”を出る気だというのならば、上席の者たちとの戦闘は避けられん。
何かと入用ではないか?」
煩わしい言い方にツグミは顔を顰める。
「単刀直入にいいなさい」
「貴様らに剣を打ってやる。それくらいの手伝いならしてもいい。どうだ?」
ベーゼンはうずうずと前のめりになる。
だが、ツグミとカウルは即断した。
「お断りよ」
「俺もいいや」
「何故だ!?」
ベーゼンは力強く机を叩き見解を求める。
「貴方の作った邪悪な剣になんか触れたくない」
「俺も魔剣はちょっとな」
神域の刀使いと神域の剣使いに断られ、ベーゼンは落胆する。
「なら、お前はどうだ?」
「俺か?」
「魔剣を使いこなせているお前ならば、扱えるかもしれんぞ」
「同郷の者としてここは一つ」
ロードは数十秒悩んだ末に首を縦に振った。
「いいだろう。伝説の魔剣職人の剣有難く使わせて貰う」
「本当か!」
ベーゼンは歓喜の声を上げた。
「正気?」
ツグミはロードを嫌悪の目で見る。
相当魔剣が気に入らないらしい。
「ああ、先の斬撃。神速に至っていた。
魔装であの域に達したモノが手に入る事なんてまず無いからな」
利己的で現実主義のロードは使えるモノは惜しみなく使う。
「そりゃそうだけど……」
ツグミは今だ不服気味だ。
「でも、どうして?
貴方が私たちに協力するメリットなんてないでしょ?」
何か裏があるのではとツグミは最後まで勘ぐる。
実に慎重で堅実的な性格だ。
「剣とは何だと思う?
何千、何億と作ったとて、使わなければただの飾り。
意味がないのだよ。
人を斬ってこそ“剣”なのだ。
“戒律”のあるここではむやみに振るえぬ。
先のようにうっかり殺してしまってはまずいからな。
故に反旗を起こそうとする貴様らに使ってもらえば、剣も本望というものだろう」
剣第一主義。
それが魔剣士にして魔剣職人ランドルト・ベーゼンの生の使い方。
三人にはまるで理解のし難い理由だが、ロードは好意を有難く受け取る事にした。
「剣を作るにあたって何か必要な物はあるか?」
「うむ、上質な鋼が不足している。
欲を言えば、天界の鉱石極鋼が良いのだが」
「極鋼?」
ロードは聞いた事無い単語に首を傾げる。
「貴様、天界に行った事は?」
「ない」
「そうか。なら知らぬのも仕方なし。
天界には、極鋼という白い鉱石が豊富に存在する。
街の建造物や武器などにおいて使われる素材だ。
お前が使う“五魔剣”『骨断』も極鋼を素材としている。
天界のモノ共は皆肉体が強靭だからな」
ロードは朔桜たちがスネピハで戦ったと言っていた“精天機獣”と
それを複製結合した“喰者”バルスピーチから産まれた白い鬼人の事を思い出す。
ロードの上級魔術で傷を付けるのがやっとだった強固な相手。
その白い身体こそが極鋼。
故にベーゼンが手心を加えた極鋼製の『骨断』が鬼人を両断出来たのだ。
「そうか……あれが、極鋼か……。魔界のアクト石とは違うのか?」
「アクト石も硬度は申し分ないが、同じ硬度の衝撃に弱く、砕けやすい。
故に加工がしにくいのだ。だが、極鋼は粘りが強く加工のしやすさは段違いだ」
「聞いておいてなんだが持ち合わせていない。だが」
ロードは『黒鴉の衣』を大きく開くと懐から大量の剣を放出する。
「これは!?」
ベーゼンが宝の山を見るかのように剣を漁り始める。
「千剣蛇って魔獣から拝借した魔界製の剣だ。溶かすなりして好きに使ってくれ」
「おおおお!! これは我が同胞イビシンが作った剣ではないか!!
流石、練度が高い! おおこれは――――」
ベーゼンは剣の山に夢中だ。
一人で剣の知識を語っているが、その場の誰も理解できない。
「さて、もう用は済んだし行きましょ」
「だな」
ツグミとカウルはロードを置いて早々に城から立ち去る。
「おいっ! とにかく、神位と戦える名剣を頼んだぞ!」
ロードは最後に念を押して二人の後を追った。
「ああ、任せろ。これなら……ミヤモトムサシとの約束も果たす事が出来ようぞ」
ベーゼンはたった一人の大きな居城で小さく呟いた。




