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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 裁き 十二神域なりし時
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十一話 伝説の魔剣職人

男は斬る。

魔物を、魔獣を、魔人を。

見境なく、ただひたすらに斬る。

飢えの(しの)ぐ訳でもなく、危機を逃れるためでもなく

歪んだの快楽のため。

自ら打った剣の出来を試すため。

何千、何万もの命を奪った狂気の魔人。

魔界の魔剣士にして魔剣職人 ランドルト・ベーゼン。

魔界で剣士を愛好する者ならば、一度は必ず耳にする名前。

後世まで語り継がれている伝説の名だ。

ロードが現在所持している“五魔剣(いつまけん)”『骨断(ほねたち)』の制作者でもある。

“五魔剣”を作り上げた後、消息が分からなくなったと伝えられていた。

その真相は、神域に至り、神の裁き

もとい、神の審判を受けて“裁きの調停者(テスタメント)”へと昇華されていたからである。

一同は、灼熱の工房を出て城内を喚起。

寒くもなく、温かくもない“高天原”の空気を取り込み

城内の中央部の何も改装されていない

広大で質素な空間に机と椅子を引っ張り出し、卓を囲む。

ロードは悪評が固まって出来た生きる伝説を前に驚きを隠せない。


「まさか、ランドルト・ベーゼンが生きていたとはな……」


シエラユースと戦った時、ベーゼンの名を出した事に合点がいく。

魔界での評価を伝えるとベーゼンは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「まさか、私がそのまでの(ひょう)を得ているとは」


本人は実に満足気だ。

行いは褒められたものではないが

実際、魔剣職人としての腕は確かなものがある。


「俺もお前の剣には、幾度か窮地を救われた」


スネピハでの鬼人戦。上級魔術にも耐える天使の機体を一撃で両断し

シエラユースと戦った時、最上位色である“白”の天術をも凌いだ実績がある。

ロードは魔装『黒鴉(コクア)の衣』から“五魔剣”の一本を取り出す。

すると、その場の三人の目の色が変わった。


「おお……おおっ!! それは私の太古の傑作っ! 『骨断』ではないか!!」


ベーゼンは神の像を崇めるかの如く、手を握り合わせる。

いかに綺麗に斬れるかを知る『骨断』

いかに簡単に斬れるかを知る『首切(くびきり)

いかに振るわず斬れるかを知る『肉喰(にくぐい)

いかに血を出さず斬れるかを知る『吸血(きゅうけつ)

いかに残酷に斬れるかを知る『(れつ)

魔力を凝縮し、悪意と憎悪の怨嗟(えんさ)渦巻く呪われた傑作の五本の剣を“五魔剣”と呼ぶ。

興奮するベーゼンに反して、ツグミとレオは身を引いて忌避(きひ)の態度を示した。


「なにその妖刀……吐き気がする……」


あまりの怨嗟の量にツグミは口を手で覆う。


「ロード。正直、それは手放した方がいいぜ……」


無数の剣を使うカウルでさえ、手にしたいとすら思わなかった。

それほどまでに醜悪な存在の剣なのだ。


「それは無理だ。お前はもう『骨断(それ)』に魅入られている」


二人の批評を受けたベーゼンがカウルの提案を棄却(ききゃく)した。


「魅入られているだと?」


自覚の無いロードが顔を(しか)めて問う。


「そうだ。“五魔剣”は普通の剣とは違う。魂の宿る剣なのだ。

心が弱った時、使い手の魂を呑み込もうとしてくる呪物に等しい。

身体を乗っ取ろうとする場合や、魂や肉体と融合する場合もある」


スネピハで初めて剣を握った時、ロードは闇に意識を呑まれそうになった。

あの時、朔桜が手を添えてくれていなければ、そのまま剣に心を呑まれていただろう。

ロードはベーゼンのその言葉を聞き、大切な事を思い出した。


「身内に“五魔剣”に呑まれて性格が変わっちまった奴がいる。

そいつを救いたい場合は、どうしたらいい?」


ロードの父レグルス・フォン・ディオスは桜花が消えた事を自身の責に感じ、魔剣に心を呑まれた。

それを救う可能性を知るのは、その魔剣の制作者 ランドルト・ベーゼンただ一人だ。


「そんな事を今更聞いてどうする……まあいい。

使い手の魂が呑まれていた場合、身体が乗っ取られていた場合は

魔剣を持った状態で一思いに折ればいい。

魂の強さと身体との結び付きがあれば、戻る可能性は極僅かだがある。

ただ、私の作品は並の力では折れんがな。

そして、魂や肉体が魔剣と融合していた場合は、もう手の施しようが無い。

魂や肉体を物質と乖離させる能力持ちや宝具を探す他にはあるまい」


ロードはレグルスを救う極々小さな可能性を得て笑みを浮かべた。


「ふっ、そうか。ならまだ正気に戻す希望はあるんだな」


「後は、戻す者と戻される者次第だ」


「ふっ、こんなところでお前に出会えて良かったぜ、ランドルト・ベーゼン。

現世に戻った時、妹への良い土産話が出来た」


「現世に戻る、だと?」


ロードの世迷言(よまいごと)にベーゼンは首を傾げる。


「そうよ、今回はそれが本題。

ベーゼン、貴方ここを出る気はない?

私たちは現世に戻りたい。

そのために助力してくれる調停者を探している」


ツグミの言葉を聞いたベーゼンは盛大に笑う。


「ハッハッハ! ここを出たいか、変わった者も居たものだ。

先に断言しよう。私がここを出る事は無い。

ここには永遠がある。煩わしい事を考えず、()()()()()()()()()()()()()

素材が(いささ)(とぼ)しいのが難点だが、私にはこれほどの理想郷は存在しない」


その狂気と言わんばかりの逸脱した理想に三人は返す言葉も無かった。


「貴様らが出ようと勝手に画策するのは構わん。

が、私からこの永遠を奪うのであれば……容赦はしない」


ロードは言葉の刃に喉元を引き裂かれたような感覚に陥る。

地に膝を付き、血か滴るはずの無い首を抑えた。


「今……死んだのか?」


ロードはベーゼンの発した殺気の混じった言葉に殺されたのだ。

カウルとツグミは何事も無かったかのように平然としている。

殺気に負け動揺するロードの方を一見もしない。

だが、二人はベーゼンから一瞬たりとも目を離してはいなかった。


「なに、今どうこうしようと言う話ではない。あくまで可能性の話だ」


ロードは改めて“裁きの調停者”との差を思い知らされた。

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