五話 ロードvsカウル
剣を構えるカウルは戦闘準備万端だ。
ロードも本気でかからないとまるで相手にならないと理解している。
左手を左目に翳し能力《無常の眼》を開眼。
自身の身体能力、魔力、魔力値を倍に跳ね上げた。
肉体の成長しない“高天原”でも
肉体強化の能力は有効らしい。
これでやっと相手になるかといったところだ。
「甚振るのは好きじゃない。手早く済ませるぜ!」
一足で飛び出したカウルは木刀を振る。
しかし、既にロードはその場に居ない。
「勇者様は近距離じゃないと戦えないんだろ?」
ロードはカウルの動きを的確に捉え、飛翔で上空へ回避した。
「風の力も使えるのか」
上空から速度のある蒼雷を落とすが、カウルは俊敏にかわす。
「ちっ……まるっきり当たんねぇ。防五段階一とかなら話にならねぇぞ……」
「どうした? 俺をぶっ殺すんじゃないのか?」
カウルには全然余裕がある。
まるで地面を飛んでいるような身のこなし。
“勇者”の名は伊達じゃない。
「こっちも反撃させてもらうぜ」
白い木刀を異空間にしまうと、再び異空間から激しい電撃を纏った剣を取り出す。
精霊装備『天籟の目』。
一太刀振れば、雷撃の雨が降るとされ、封印されていた災いの雷剣。
「雷光一閃!」
カウルが剣を振ると剣先から巨大な閃光が放たれる。
「っ! 風爆!」
ロードは空気を爆発させ、ジェットの如く飛んで天災級の攻撃をかわした。
「くっそ……制御がむずいな」
「安心するなよ! 雷光雷雨!」
天からか細い電撃が無数に落ちてくる。
「風壁―球!」
球体の風壁を出して攻撃を何とか防ぐ。
「この雷撃の雨に打たれるのはお前だ!」
ロードが地上を見るが、カウルはいない。
「なっ!」
カウルはいつの間にロードの真横にいた。
ロードが雷雨に気を取られ上を向いた瞬間
風の精霊術で足場を作り、電撃の雨をかわしつつ一気に駆け上がって来たのだ。
カウルの手には橙色の細い剣。
精霊装備『裸一貫』。
結界、防壁破りに特化した守り破りの剣。
「裸刹!」
カウルが剣を振り翳すと同時にロードは魔術を放った。
「閃雷!」
眩い閃光を放ち、カウルの目を眩ます。
「なっ!」
意表を衝かれたカウルは視界を奪われた。
ロードはカウルの防五段階が高位だと判断し、広範囲の魔術を放つ。
「紫雷―夢花火!」
巨大な紫色の花火が弾け、電撃を迸らせる。
「おっと!」
カウルはエナで攻撃位置を読み
直撃の寸前、風の精霊術で相殺した。
「ロード、意外と戦えるな!」
「言ってろ!」
自由落下するカウルに電撃で追い打ちをかける。
「これなら少し力を出しても平気そうだな」
落下する最中、異空間から取り出したのは、柄に虎の顔がある分厚い片刃剣。
光の反射で刃が白ギラギラと白黒に輝く。
名を『四精剣―白虎』。
「なんだあの剣……生物の意識を感じるぞ」
「正解! この剣は生きた剣……俺が最初に手にした相棒だ!!」
両手で剣を握ると下向きに構える。
「四虎爪!」
カウルが一振り上げるとロードに向かって鋭い斬撃が四つ飛び出す。
「一振り四撃の攻撃ってか! だが、こっちは八つだ! 爆雷―蜂! 」
八つ炸裂電気弾を二つずつ斬撃に当てる。
しかし、全ての斬撃は生きていた。
上級魔術を受けてもなお、その勢いは衰えていない。
「ヤバッ――――」
四撃がロードの身体を引き裂く。全発直撃。
だが、思った以上の負傷は無く傷も浅い事にロードは拍子抜けする。
「……随分と柔い攻撃だな」
「手加減はしていないぞ? 大抵の相手なら今のでバラバラの即死だぜ。
全く嫌になる。この神域の相手じゃ、今のも致死には至らないんだからな」
「なるほどな」
ロードは傷を見て理解した。
攻撃が弱いのではなく、大量のエナを吸収した
自身の身体が強くなっているのだ。
「あの女の掌底よりも弱い斬撃とは恐れ入ったぜ」
「ツグミの攻撃と比べるなよ。あいつの攻撃は特殊なんだぜ」
カウルが深い深呼吸を始めると空中に跳び上がった。
ロードは危機を感じ、即座に身構えると
カウルは身を回転させながら乱舞し一瞬で百回剣を振った。
無論放たれた斬撃は百の四倍。四百。
「強靭な相手には手数で勝負だ!」
上級魔術でも打ち消せない四百の斬撃が四方八方から襲い掛かる。
「狂雷! 雷光!」
全神経に電流を流し、肉体を強化。
光速でカウルとの差を詰め拳を構える。
「速いな……でも、その動き見えてるぜ!
俺は防護五段階一! 拳なんて感覚で避けれる」
「だから何だ」
「それに俺は精霊界を守り、救った勇者だ!
どこぞの魔人の拳なんかに屈するような――――」
「だから何だってんだっ!
たかが世界の一つ守れても、大事な女一人との約束も守れないお前を“勇者”とは呼ばねぇんだよ!!」
「っ――――」
ロードの言葉がカウルの感覚を鈍らせ
全力の拳がカウルの頬を打つ。
「お前は睡眠が足りてないみたいだな。少し寝て頭冷やせ」
「恰好つけてるとこわりぃけど
ロード……ソレ、追尾式なんだ……」
直後、ロードの背後に四百の斬撃が打ち込まれる。
「っ――――!」
そして、二人は高天ヶ原の地に倒れ、同時に気を失った。
カウル曰く、今まで受けた攻撃の中で
ロードの放った攻撃は一番効いた攻撃だったという。




