特別話 滅亡計画
静寂の闇の中。宝具【秘伝のメモ】の力で
虚無の空間に赤黒い罅が入り三体の邪悪が戻る。
「お帰り、玖寧、カテス。そして……えっと……君は?」
出迎えたのは“九邪”の一人メサ・イングレイザ。
「私が選んだ“九邪候補”一文字咲だ」
「ああ、フェイスが宝探しで死んだって言ってた子か。
生きていたんだね、良かった、良かった!
戻って来るなり戦力を減らしてしまったと指をツンツンして落ち込んでいたよ。
是非、生存を知らせてあげるといい」
笑顔で咲の方を見て行動を促す。
「あ! はいっ! 玖寧さん、ご迷惑をお掛けしましたぁ~」
咲は血塗れのセーラー服姿でパタパタと走って別の虚無空間に消えて行った。
「先に着替えた方がいいよ~」
メサは声が届くように口に手を添え、虚無の空間に助言する。
「さて、カテス。君も戦いの連続で疲れただろう? 悪いけど、自分の空間に戻って休んでくれ」
「……はい。失礼致します……」
カテスも自分の空間へと姿を消すと早々に疑問を口にする。
「カテスの試練の結果。どうなったかな?」
「残念ながら、まだ器ではない」
「まあそうだよね」
メサもその結果に納得していた。
「能力には目を見張るものが、あるが戦闘面が甘く脆い」
「彼女にはこの先に期待しようか。今一番有力候補はアリアの連れて来た元“十二貴族”かな?」
「妥当ではあるが……」
「絶対的なモノがないよね。僕、ヒルコ、スカルノヴァ、ラフォーラ、フェイスみたいな逸脱した能力。
君やあの叛逆者のような超越した戦闘能力。
アリアみたいな例外もあるけど、何か卓越したものが欲しい……。
世界滅亡級のような大きな力か、生物を殲滅するような特殊な何か」
「…………」
目の前でドクレスという世界滅亡の力を持つ逸材を見逃した玖寧は口を閉ざす。
「どこかに逸材はいないかな~」
メサの小言が無の空間に吸収された。
「他の面々はどうしている?」
「落ち込んで自空間で引き籠っているフェイス以外はみんな魔界だね」
「見かけによらず勤勉な奴らだ」
「本当だよ。各自好き勝手に国を蝕んでいるよ」
メサと玖寧が談笑していると禍々しい影が顕現した。
「あぁ、来たかヒルコ。良い報告がある」
「良い知らせ? まだそんな話があったのかい?」
玖寧の言葉にメサと影は興味を示す。
「……聞こうか」
「人間界で神璽の一つを見つけた」
「っ! 本物か? 見せろ、何処にある」
「持ってきてはいない」
「なんだと? アレを見つけておきながら、みすみす見逃したのか?」
ヒルコから“怒り”の感情が溢れているのが分かる。
「お前が執着しているあの二人の末の娘。並木朔桜が持っていた」
「――――」
「ああ、あの子か。《解放の黒揚羽》を使った時
なんだか違和感があったんだよね」
「メサ……何故それを精霊界で報告しなかった」
「ロードと君が割り込んできて確証を得れなかったからね。
話す必要はないと僕が判断したからだけど?」
「…………」
険悪な空気が流れる。
「その話は私には関係ない。
どうしても今奪い取る必要があると言うのならば、すぐにでも取りに戻るが、どうする?」
玖寧が問うと影は長考する。
「…………いや、今はいい。最終的に集う定めだ。その時まで後生大事保有していてもらおう」
「器のためにもなるしね」
「これで残りの神璽は後一つ。計画を一手進めよう」
「やれやれ。やっと一手か。悪いけど、神様の時間感覚にはついていけないよ」
「そう言うなメサ。永い命を得ると一つの事柄に執着するようになる。それは私とて同じだ。
貴様も不老長寿になれば分かる時が来る」
「そういうものかね」
メサは理解出来ないと両手を挙げた。
「二百年前我らの侵攻“人魔戦争”を阻んだ憎き魔人
レグルス・フォン・ディオスを始末し、私利私欲で腐り果てた魔界全土を滅ぼそうではないか!」
影は陽炎のような身体を揺らめかせ、高らかに魔界の滅亡を宣言した――――。




