百三話 朔桜のするべきこと
北の地の激戦から一週間が過ぎた。
朝、朔桜は自室のベッドで目を覚ます。
「んん~」
目に優しくない一面ピンク色の空間。
眠い目を擦り階段をゆっくりと下りる。
普通の学生なら学校に行く時間だ。だが朔桜は普通の学生ではない。
精霊界へ行くため退学届けを叩き付けている。
故に学校へ行くため急ぐ必要は無かった。
上下薄ピンク色のパジャマ姿で洗面所で顔を洗い、リビングの扉を開けた。
「おはよ~」
朔桜はソファーに腰掛ける人物に声を掛ける。
「おはよ朔桜」
返ってきたのは少し前まで一緒に暮らしていた相手ではない。
護衛としてこの一週間一緒に過ごしているティナの声だった。
私服姿でノートパソコンで作業をしている。
「朝軽いのでいい~?」
「ええ、お願い」
朔桜はさっとサンドウィッチを作りテーブルに二人分配膳する。
飲み物は良く冷えた500mlのペットボトルの水だ。
「ありがとう朔桜」
ティナは手を止めてテーブルに移動。
二人で一緒に朝食を摂る。
「地下施設に行くの今日だよね?」
「そうよ。特に持って行く物はなくても大丈夫」
「分かった。他のみんなはどうしてる?」
「おチビちゃんの魔改造は昨日終えたらしいわ。
超絶強化されたとか通信越しから騒いでた。
有象無象共は地下施設に軟禁してる。
全員バイタルには異常なし。でも、あの黒衣の子、キリエだっけ?
あの子は“黒”の力が残ったままみたい」
「そっか……」
「羨ましい限りね。私が受けたかったくらいよ」
「明!」
「冗談よ。それより朔桜。この先やるべき事は決めた?」
人間界に脅威を齎した影の誘いに乗り、朔桜たちは精霊界へと渡った。
影の企みであった精霊神による精霊界の滅亡を阻止し、“九邪候補”の試練も阻止した。
今後の方針を決めるのは朔桜だ。
「決めてるよ、私のやるべきこと」
「そう。決意は変わらないのね」
「うん」
朔桜は強い意志を持って頷く。
「はぁ……やれやれね」
ティナは既に朔桜の言うやるべき事を知っている。
無謀に近いと呆れはしつつも否定はしなかった。
食事を終え、冷蔵庫の中をチェック。
朔桜が着替え終わるとブレーカーを落とし家の扉を施錠。
二人が庭へと出る。そこには物々しいマンホールが設置されていた。
ティナが蓋を開けると照明が付き階段が現れる。
それは地下施設に続く地下通路の一つだ。
「朔桜が先に降りて」
「うん」
慎重に降りる朔桜の後からティナはしっかりと蓋を閉めて降りる。
家の地下には小さい路面電車のようなものが設置されており、四つの座席と二人くらいなら立てる空間があった。
ティナがスイッチを押すと乗り物が動き出す。
「人の家勝手に改造して……」
「合理的でしょ?」
数分で地下施設へと到着。
「待っていたよ」
「二人ともおひさ~」
Dr.とノアに迎えられ高所からメインルームを見下ろすと
カシャ、レオ、キリエ、メティニ、ハーフ、バグラエガ、ペテペッツ、ラヴェイン、デガロ、リョクエンが控えていた。
全員が朔桜の言葉を待つ。静寂の中、朔桜が意を決して前に出る。
「この場で私の方針を発表します。
私は……魔界へと渡り、母の生存を父に伝えに行きたいと思います!」
朔桜は迷いも躊躇なく魔界へ行くことを宣言した。




