九十三話 世界滅亡級の鬱憤
キリエは唯一の身内、キーフの死を受け入れる事を拒み
カテスの造り出した紛い物にして幻想の世界を閉じ籠ろうとしている。
意識は混濁し、認めたくない現実が真実であると理解しつつも、悪夢だと錯覚しようとしていた。
「うわぁぁぁぁ。。。!」
キリエの激しい感情に呼応し、俺らの居る一室が大破。
部屋を構成していた黒の煉瓦が崩壊してゆく。
「うおっ!」
大きめの瓦礫を足場になんとかキリエに近づこうとするが
踏み込む度に“黒”の瓦礫に触れた足からエナが徐々に吸われていくのは結構きつい。
「来ないで。。。!!!」
明確なキリエの拒絶に加え、巨大な瓦礫が正面から飛んできた。
「《反拳》!!」
俺は拳を突き出し、瓦礫を拳が接触した瞬間に弾き返す。
「黒地―弾礫!」
キリエは続けざまに周囲の瓦礫を鋭い弾丸へと変え弾き飛ばしてきた。
全方位からエナを吸収する“黒”の弾丸が俺を狙い撃つ。
マジで殺す気かよ。
「うぉぉぉぉ!!!!」
素早い足捌きで周囲に散らばす瓦礫を移動し、機敏に弾丸をかわす。
進行方向のかわしきれない弾丸は周囲の瓦礫を拳で弾き、弾丸と相殺。
カシャさんとの特訓の成果もあり、ギリギリ全ての弾丸を凌ぎ切った。
俺は息を切らしながらも、黒の瓦礫の上で茫然と立ち竦むキリエに向かって叫ぶ。
「俺のぉ……自慢はこの拳だけじゃねぇぞ、キリエッ!!
この足もなかなかのもんだって親友のお墨付きがあんだよっ!」
キリエはその言葉に反応し、一瞬身体を震わせた。
「っ。。。!!!」
言葉の真意が伝わったのだろう。
キリエは苛立ちを隠さず、子供のように空を裂くように暴れると
激しい動きに合わせ、巨大な瓦礫が一斉に俺に向けて放たれた。
視界を覆うほどの瓦礫の量。総重量は数tを越えているだろう。
しかし、俺は怯まない。臆さない。
強く両拳をぶつけ、自身の能力で力の流れを反復させる。
そして、左手を前に構え、狙いを定めた。
呼吸を絞り、身体を捻り、力を溜め込んだ右拳を一気に正面に突き出して力を解放する。
「欧波転衝!」
数百倍に増幅した衝撃波が空気を揺るがせ、並の攻撃では傷一つ付かない“黒”の瓦礫の山を穿つ。
「っ。。。!」
迫る死を前に手加減をする余裕などなく、弾け飛んだ破片が飛び散りキリエを襲った。
自身に迫る黒地に動じる事もなく、キリエはまだ呆然と立ち竦んでいる。
頬からは掠めた破片で傷付いたのか血が流れ出ていた。
「レオは……また私を置いて強くなったんだね。。。」
静かなる怒りを感じる。
キリエが怒る時はいつもそうだ。
「どうして。。。どうして邪魔をするの。。。? レオ。。。!!」
ロードさんが神々を呼び出す時のように、天に手を翳すと
崩れ落ちた瓦礫が重力に逆らい天空に集う。
「黒地―瓦解!」
空に黒く大きな穴が空いているのかと錯覚してしまうくらいの巨大な残骸の塊が夜空を覆った。
砂のように細かい黒地が中心で高速で渦を巻き、外側で大きな黒地がゆっくりと漂っている。
「これは大地を際限なく抉り取る。。。あの精霊神の放った“黒”の一撃と同格の世界滅亡級の大罪術。。。」
キリエは儚げで虚ろな眼で天を仰ぎ、自身の行おうとしている所行をまるで他人事のように語る。
「さようなら、望まぬ世界。。。さようなら、偽りの世界。。。さようなら、残酷な世界。。。」
何もかもを諦めかかのような静かに別れの言葉を呟くと
世界滅亡級の鬱憤が人間界へと向けられた。




