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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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九十話 壊れた心

キリエの切なる声に呼応して現れた最も近しい黒体。

家族のように一緒に育った信用された黒体。

レオとキーフの黒体がレオの前に立ち塞がる。

その見た目は今までの黒体とは似て非なるほぼ本物に等しい姿。


「キリエッ!! お前っ――――」


怒りに満ちた声で、死んだ兄を模造したキリエの名を叫ぶも

レオの声に聞く耳を持たず、キリエが天井に手を掲げた。

渇望の黒城(アブゾァーブ)の天井と床が罅割れ、崩れ始める。

巨大な破片が、重力に逆らい天空へと浮上してゆく。

その破片の上には虚ろな目でレオを見下ろしたキリエがいた。


「キリエーーーー!!!!」


手を伸ばし追いかけようとするも、エンジェルの能力《推進力》の効果距離から外れ浮遊効果が切れた。

コケそうになりながらも、渇望の黒城に足が着く。

その瞬間、触れたモノのエナを際限なく吸収する城の力が発動。

レオのエナの量だと靴越しにでも、十数分程度で全てのエナが吸収され

レオの存在そのものが完全に消え去ってしまう。

叫びも虚しく、キリエは応答なく遥か上空へと行ってしまった。

無力さと悔しさに押し潰されそうなレオは、歯を砕けんばかりに噛み締める。

その憂さを晴らすかのように、行く手を阻む二体に強い視線を向けた。


「邪魔だっ!!」


レオが先手で駆け出す。

時間の経過はレオにとって圧倒的な不利。

速攻で勝負を決めるのが最善の策だ。

だが、あっという間に速度のあるキーフの黒体に背後を取られてしまう。


「早っ――――!」


繰り出された蹴りを上体を逸らして間一髪でかわす。

だが体勢が崩れた隙を突き、レオの黒体が即座に左右の拳を繰り出した。


「自分の動きなら良く分かる!」


レオは拳を難無くかわし、自身の拳と拳をぶつけ合い

《反拳》を反復させ、威力を倍々にして拳に溜め込む。

先に倒すべきは動きを完全に理解し、機動力の低い自身の黒体ではなく

速度と機動力のあるキーフの黒体であると理解していた。

左右から同時に攻めて来る黒体の攻撃を飛び上がり回避。

レオは上空から隙だらけのキーフの黒体に拳を構えた。

蹴りで片足を上げているキーフは即座に回避行動を取れないのは明白だ。


「反――――」


溜め込んだ衝撃を放とうとするが、手の動きが無意識に止まる。

あまりにも精巧に作られ、まるで生きているかのように動く亡き親友の姿を見て

自身の拳で破壊する事にレオの身体が躊躇してしまった。


「っ!」


その一瞬の隙は、キーフの黒体が再び素早い上段蹴りを繰り出すには十分だった。

レオは溜めた拳の衝撃を横に放ち、その衝撃でギリギリで蹴りをかわす。

黒体は二体で連携してレオを狙い連撃を打ち出してくる。

黒体に触れられれば、エナをごっそりと奪われる。

この黒城においては、寿命が縮まるに等しい。

ほんの一瞬の隙が、命取りになる極限状況。

黒体の動きも今までの黒体とは違い、ぎこちなさは皆無。

術者の身近な存在という事も相まって動きの解像度が高い。

まるで本物のレオとキーフを本物を相手にしているかのようで

二体のコンビネーションに翻弄されつつあるレオ。

だが、戦力には少しの差があった。

キリエの知っているレオは精霊神と戦ったところまで。

レオはその後もヤゲンやウォーゾーン。ラヴェインとの激しい戦闘を生き抜いてきた。

短期間での成長は著しく、目を見張るものがあった。

キーフの黒体の素早い動きにも対応出来ているのが、成長の証。

二体の黒体が放つ渾身の拳と蹴りをレオは機敏にかわし、自身の拳をぶつけ合い衝撃を溜めた。

精神を整え、目の前の黒体を贋作であると強く認識。


「…………っ!」 


言いたい言葉を呑み込み、両拳に溜めた衝撃を一気に解放する。


「《反拳》!!」


拳から放たれた凄まじい威力の衝撃波が自身と親友の黒体を打ち砕く。

レオは悲しそうに上半身と下半身が別々に分かれた友の残骸を眺める。

親友との再びの別れ。贋作だと分かっていても気持ちの良いものではない。

そんな悲壮感溢れるレオの顔を見たキーフの黒体が自身の肉体が崩れゆくなか

レオを励ますかのように拳を突き上げた。


「っ!」


その姿を見たレオは漏れそうになった声を必死に抑え

俯きながら黒体が砂へと還る様を最後の最後まで見送った。


「え。。。」


静まった空間にキリエから驚きの声が漏れる。

そして、同時にレオの黒体は砂へと還った。


「どうして。。。お兄ちゃん。。。レオ。。。また死んじゃったの。。。?」


天空へ浮上した黒城の姫が身を乗り出し、現状に困惑していた。

自身の足元に岩を配置し、階段のようにして足早に降りて来る。

膝から崩れるように地面に着くと、二体の黒砂を両手で(すく)う。

手の隙間から砂がサラサラと零れ落ちた。

再び砂を抄い上げては掌から零れ落ちるという行為を幾度となく繰り返す。

その行動にいたたまれなくなったレオは静かに口を開いた。


「キリエ……俺は……ここに居るぞ」


レオの言葉にキリエはビクリと身体を震わせる。


「レ……オ……?」


レオを見上げるその瞳には光はない。

ただただ虚ろな目をしていた。


「ああ」


「今死んじゃったのは。。。?」


「お前が作り上げた幻想。偽物だ」


「そう。。。だったんだ。。。良かった。。。精霊神に殺されたって聞いたから。。。

それならお兄ちゃんはどこ。。。? 一緒じゃないの。。。?」


「キリエ……」


「どこ。。。? 顔を見て安心したいんだ。。。」


「キリエ……」


「お兄ちゃんはどこ。。。? 何処に居るの。。。?」


(すが)るように問いかける言葉がレオの心を(えぐ)る。

あまりにも過酷な現実を自分の口から再び言わなければならない。

互いに残酷な思いをしなければならない。

レオは唇を噛みながらも意を決して錯乱するキリエに真実を伝えた。


「キーフはもう……いない」


「いない。。。?」


「あいつは死んだんだ」


「何を言ってるの。。。? レオ。。。?」


「あいつは――――」


「違う。。。!!!! い、生きてるよ。。。!!!」


キリエの声とは思えない大きな否定の声が静かな空間に響いた。


「ほ、ほらここに。。。」


彼女の背後で黒い粘土のようなモノが(うごめ)く。

キリエがレオの視線を誘導するように背後を振り向くも、あるのは不気味に動く泥の塊だけ。


「――――っ。。。」


精神面が不安定になったがゆえ、まともに黒体を精製する事が出来ない。

ただの泥の塊を目の前にしたキリエは絶句する。

そこにはあるべき者がない。

そこにあるのは、ただの虚しい現実だけだ。


「嘘。。。嘘嘘嘘。。。!!!」


頭を抱え悲痛な叫びを上げる。


「キリエッ!!」


レオはキリエの肩を掴み、幻想の世界から強制的に引き摺り出そうと揺さ振る。

するとキリエはレオの手を強く振り払った。


「違う。。。こんな世界は偽物だ。。。紛い物だ。。。」


キリエの全身からドス黒いエナが溢れ出す。

その莫大なエナの量は今までのキリエの比ではない。

もう別の何かと言っても過言ではないほどにその存在の在り方が変容していた。


「壊さなきゃ。。。こんな間違った世界は壊さなきゃ。。。」


キリエの眼に光はない。

レオの姿を見ておらず、現実を見ていない。

ただただ、この()()()()()()()()()()()()()()()()と化していた。

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