表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
340/396

八十八話 ……でもないかぁ~(過去編)

咲の過去編です。

退屈な日常は一瞬で変化を遂げた。

蜥蜴が道場に乗り込み、お師匠を殺し、うちを抱え屋根を駆けている非日常。

うちは抗う事を知らず、全てを流れのままに任せていた。


「何故ソレを連れて来た? どうせ今の騒動で宝具は移動される。そいつの情報は意味を成さない」


先導している若い女子の声が疑問を飛ばす。


(なぐさ)み道具(けん)非常食ですよォ、上司様ァ」


蜥蜴(とかげ)はわざとらしく()びた口調で答えた。


「低俗で下品。その無駄にデカい頭部に本当に脳は詰まっているの?」


「……それは権威暴力ってやつですよ上司様」


「そ? 私たちの主様に影響されてしまったのかしら。失礼な事を言ってしまったなら謝るわ」


ギスギスした会話に聞き耳をたてていると動きが止まった。


「少女を(さら)う魔物と魔人か」


蜥蜴とは違う男性のはっきりとした言葉の羅列(られつ)が耳に届く。


「人間? なんだおめェ?」


「その少女は"一文字”の娘だ。この場で手離した方がいい」


「断ると言ったらどうなるんだァ?」


「私の前で……魔が滅びる」


男性は一拍を置き、呼吸をすると同じに返答を返した。

その言葉で明確な敵意が男性に向けられたのが分かった。


「あまり無駄な殺生はしたくない。もう一度だけ警告する。その少女を離せ」


「誰が脆弱(ぜいじゃく)な人間の命令になんて――――」


蜥蜴の大きな声は続かず途中で途切れ、私はいつの間にかその男性の腕の中に()った。

その腕はまるで女性かのように細くしなやかやったのを覚えとる。


「は……? ギ、ギバエフは……?」


「殺した」


男性は無情に死を告げる。


「冗談……だろ? 人間(ごと)きがリザードマンを一瞬で――――」


女子の言葉も途中で途切れた。彼女も死んでしもたんやろか?

少しの間、沈黙の時間が続く。

その間感じたのは、()()()()()()()()()()

男性の優しい温もりだけやった。


「……やれやれ。逃げられてしまったようだ」


男性は深く息を吐き独り言を漏らす。

それと同時に温もりが消えた。

冷たい屋根瓦がうちの背中の熱を奪う。


「年端もいかぬ娘に酷い事をする」


何かに巻かれる感覚があり(まぶた)をこじ開けると

粗雑な紺色のローブがうちの肌を隠すように巻かれていた。


「無事で良かった」


見知らぬ男性の口から安堵の声が漏れる。

その言葉を聞いた途端、年齢らしい感情が目から零れ落ちた。


「親御さんも心配しているだろう。早く帰って安心してあげなさい」


男性は泣きじゃくるうちの背中を優しく叩くと

哀の感情が剥がれ落ちてゆくようだ。


「家まで送ろう」


男性はうちを優しく抱えた。

周囲の風景に見覚えはある。まだ一文字家の広大な敷地内。

うちはこんな状況でも外の世界に出れなかった事を少しだけ(うれ)いていた。


「少しだけ口を閉じて堪えてほしい」


うちは男性に言われた事に従順に従う。口を閉じ、準備が出来たと二回頷いた。

男性は合図を確認すると穏やかな表情が凛々しく変わる。

景色が流れるように線のように伸びると敷地の中心部にある母屋の前に到着していた。

その間、僅か数秒。数秒足らずで数百メートルを移動した事になる。


「この場で大丈夫かい?」


男性が確認を取るとうちは激しく頷いた。


「あの……(しば)しお待ちください……。

うちの安否を伝えた後、貴方様にお礼をさせていただきます」


うちは男性の返事も聞かず、扉の前に彼を残したまま帰宅した。

しかし、母屋にも関わらず誰一人として居らん。

母も父も使用人すらも居らん。

不思議に思い、うちは嫌な想像をしつつも、宝具が愛蔵(あいぞう)されている地下室へと真っ先に向かう。

何重にも施された結界は無事。だが、施錠してあった門の扉は不用心にも空いている。

妙な胸騒ぎを抑えながらも黙々と進むと、宝具の最も奥の扉だけが閉ざされていた。

扉の前に立つと中から聞き馴染んだ声が聞こえる。


「無事で良かった!」


父の口から安堵の声が漏れる。

でも、それはうちに対してではない。


「本当に()()()無事で良かったわ」


母の口から安堵の声が漏れる。


「しかし、また世継ぎを作らなければならんなぁ……」


「せやね。今度は男の子がええわぁ~」


あろうことか、一人娘が死んだと伝えられたであろうに

笑顔で談笑しながら出て来た二人を見た時は流石のうちも絶望したわ~。


「ああ、そうだな――――ひっ!」


二人はもう存在しない亡霊を見たような顔でうちを見てた。

なんやその目。なんでなんも言わんの。

見苦しく言い訳でもして欲しかったわ。

あぁこんな弱い()()殺す価値すらあらへん。

うちは人間二人を素通りし、盛大に祀られている小汚い(さや)へと手を伸ばす。

手持ち無沙汰ついでに、伝家の宝刀『菊一文字』もパクっておく。

今までの従順な良い子はいない。

反動が一気に溢れ出し、うちは札付きの悪い子へと変貌(へんぼう)を遂げていた。


「や、やめ……」


男はいつも通りうちを(とが)めよう声を絞り出す。

でも今のうちの眼は良い子のうちとはまるで違う。

ひと睨みしただけで男は沈黙した。

男を見ているうちの今の眼は、あの蜥蜴がうちを見た時と同じ目をしているのやろうな。

二人はうちを止める事も出来ず、一人娘、宝具、宝刀の三つを同時に失った。

母屋の扉に戻ると全方位兵に囲まれた男性がちゃんと待っていてくれた。


「全員下がりぃ!」


うちの一声で兵は恐れ(おのの)く。

あの二人と同じ。霊でも見たかのような目。

それもそのはず。ローブに身を包んだ怪しい姿。

片手には宝具【型透かし】。腰には宝刀。

状況も相まって、誰かが胸の内を言葉にした。


「……謀反(むほん)だ」


些細(ささい)な呟きが、水辺に落とした泥のように波紋となり広がる。

皆は怯えた顔でうちへと武器を向けた。

あぁ、もううちの味方は誰一人居らんのやね。

兵は団結し、自他を鼓舞(こぶ)するため怒号を上げて迫り来る。

も~どうでもええ。

こんな環境。

こんな境遇。

こんな世界。

全部、全部どうでもええ!!

うちは被害者なのに、まるで加害者のようや。

何の躊躇も無く宝具【型透かし】を使う。

条件型の宝具であり、手で握っている間、範囲十メートル弱の生物の動きが詠める。

五十人近い兵を華麗にすり抜け、うちを救ってくれた男性の前まで到達していた。

兵はこの宝具の力を知らん。知っているのは“一文字”の者だけ。

何が起きたのか理解出来ていない凡兵共には目もくれず、男性へと真摯に向き合う。


「こちら、お礼の品です。お受け取り下さい」


うちは身を低くして今の所持品で最も価値のある宝具を献上(けんじょう)する。


「有難く頂戴しよう」


男性は両手で宝具を受け取ってくれた。

素直に受け取ってくれて良かったわ。

これでうちが通せる義理は通した。

後は気兼ねなく好きに出来る。好きに生きれる。

宝具を見ず知らずの男に譲渡したのを目の当たりにした

兵たちの怒りや嫌悪の感情がヒシヒシと伝わってくる。


「文句がある奴は掛かって()いや!!」


うちの啖呵(たんか)を皮切りに兵が再び一斉に押し寄せる。

『菊一文字』を携え、構えたうちに勝てる者なんてこの中に存在する訳が無かった。

うちは刀の反りの部分を振り回し、大立ち回り。

空気のように軽く、不思議と手に馴染む刀で兵をバッタバッタと斬り伏せる。

五十近い兵はあっという間に肉片の山と変わっていた。

あ~あ。()ってもうた。

もう後戻りは出来んなぁ~。


仕事を終えて一息つくと男性はうちの技術を見て正当に評価し、拍手してくれた。


「お見事。惚れ惚れする太刀筋だった」


「どうも、どうも~。身ゲバのお恥ずかしいところお見せしました~」


「君には才がある。どうだろう。一つ提案……なのだが――――」


「受けますぅ!!」


「まだ何も言っていないぞ」


「関係ないですぅ! この先のうちの命全て貴方に尽くしますぅ!」


うち自身が諦め、捨てた命。それを拾ってくれたのは彼だ。

この命の所有権はもううちには無い。この身この魂は既に貴方の命だ。


「名も知らぬ私に命を尽くすのは随分と早計ではないか?」


「なら名前! 名前教えてくださいっ!」


「いいだろう。私の名は、玖寧」


「玖寧さんっ! ……ん?」


なんか何処かで聞いた事ある偉大な名前やなぁ。


「君も“六大神宮(ろくだいじんぐう)”なら深く知っているだろう。あの“人魔戦争”の事」


“人魔戦争”という単語で言葉で完全に思い出した。

約二百年前にて人類側の最前線として魔族と戦った“八英雄”の一人と同じ名前や。


「まさか!玖寧さんの御子息(ごしそく)様ですか!?」


うちが期待を胸に問うと玖寧さんは首を横に振った。


「その認識は間違いだ。その“八英雄”と呼ばれし玖寧そこ今君の目の前に居る私だ」


うちは目を丸くする。

こんな状況で状態言いなさる人には見えん。この状況で言えたら茶目っ気がヤバすぎる。


「ほんまもんですか?」


「ほんまもんだ」


生の“英雄”を前に声が詰まる。

そして玖寧さんは更に言葉が出なくなる事を言いなさった。


「そして今は“人魔戦争”で人間界を滅ぼすべく魔族を率いた九つの(よこしま)な存在。

新たな“九邪”の一人【自解(じげ)】の玖寧である」


うちの救世主はどうやら滅ぼす側のお方やったらしい。


「構いませんよー。うちのヒーローは玖寧さんや。

地獄の果てにでも御供させていただきますぅ~」


こうしてうちは命の恩人である“九邪”玖寧さんに心酔し

“九邪候補”と相成ったのでした。ちゃんちゃん♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ