七十九話 黒体の正体
玖寧が去った事によりこの場の人数は総勢十八名。
朔桜一行とその他、“人魔調査団”、“五色雲”で固まり
三種のグループが顔を突き合わせ、話す場は整った。
「みんな各々思うところがあるとは思うけれど、急がば回れ。
まず全体の状況確認といきましょう」
“人魔調査団”のメイプルがこの場を仕切りを務める。
「まず、最初に接触したであろうスモークのところから話してもらえる?」
メイプルの導入でスモークが主として語り出す。
「うむ。まず、ミーと仮面男はそこの全裸……いや、今は半裸かHAHAHA!!」
「それはどうでもいいわ、続けて」
メイプルは真顔でスモークに先の会話を促す。
「Oh……とにかく、ミーは仮面男と協力し、半裸男と対峙していた。
その最中、これくらいの背丈の黒い丸坊主の少年が突如として現れTA」
スモークは手で身長を示す。
その話になった瞬間、同様の黒体に心辺りのある者たちが表情を変える。
「うが……奴に触れたら気、吸われた。
おでの神で潰した。したら地に溶けた。
その後来た男、大声怒っておでの手吹き飛ばした」
吹き飛ばされた腕の付け根を押させポロオッカヨが語った。
「黒い少年は倒したのね? で、その男っていうのは?」
メイプルが正体を問うとポロオッカヨは周囲を頻りに見渡す。
「あで、いない……さっき居た。エプンキネと同じハゲ」
「我を引き合いに出すんじゃない。それにハゲではない。坊主と言え、ポロオッカヨ」
「もしかして……玖寧さんの事ですか? 眉毛がこう二つに別れた感じの」
心当たりのある朔桜が眉をなぞり特徴を伝えるとポロオッカヨは激しく何度も地面を叩いた。
「そう、その男! どこいった!?」
「ついさっき、一人で森に消えて行きましたけど、戻っていないんですか?」
「どうして止めなかったの!?」
「えっ!? だって野暮用だって言うから御花摘みかと!」
「それなら……まあ……仕方ないわね……」
メイプルも後の祭りだと納得する。
「くっ……ポロオッカヨの腕を吹き飛ばせるほどの男が去った事にまるで気が付かぬとは不覚」
気配を感知出来なかったエプンキネは自身を悔いる。
「もう居ない人の事は置いといてさ、話を戻そ。
ノアとそこのおにーさんもね、黒いのと遭ったよ!」
ノアはわざとらしく玖寧の話を逸らす。
あまり玖寧の話には触れたくない。
彼を刺激したくないのだ。
「本当か? イラマンテ」
エプンキネが本人に真偽を確かめる。
「ああ、本当だ。その子が一瞬でぶっ倒しちまったけどな」
皆はあの強固な存在を一撃で倒したノアを信じられないと驚きの表情で見る。
だが、ノアはそんな他者の評価にはまるで興味はない。
頭にあったのは、一人の少女の存在と繋げる情報だけ。
「その黒いのの姿がね……ポテのおじいちゃんだったんだ」
「っ!」
ノアの言葉にレオが機敏に反応する。
朔桜も手を肩の辺りまで上げ話す。
「実は私たちの方も、ヒシメさんみたいな黒いのと戦ったんだ……。
数秒触れただけのカシャさんはエナをごっそり奪われて、私の術は通じなかった。
デガロさんのおかげで物理的に破壊して勝てたんだけど……」
「わっはっは! よせやい!」
デガロが豪快に笑うなか、対照的にレオは深刻な表情を浮かべる。
「師匠に……ヒシメ……」
「私とウェポンは突然あのお爺さんが逃亡したから即座に追って行った。
そこで戦闘になって更に私たちも黒いのとも戦った。見た目は耳の長い女性の姿だったわ」
「耳の長い女性っ!? それって――――」
「精霊界であんたらと一緒に居たあのシンシアって奴だ」
朔桜が正体を口にする前に精霊界から行動を共にしていたしていたリョクエンが断言する。
「あのぉ……えっと……どちら様ですか?」
「リョクエンだよ! お前らと一緒に行動してたろうが!」
朔桜が首を傾げ少しの間の後ハッと表情を変えた。
「ああ、仮面の人。仮面取れたんですね。てか、生きてたんですね」
朔桜はリョクエンがロードを嘲笑った事をわりと、いや、結構、いや、かなり根に持っている。
「なんか態度が冷てぇな……まあ、俺はそこ女のおかげでどうにか助かった」
リョクエンは視線をエンジェルに移した。
「いえ~い」
無表情の軽いノリで朔桜に手を振る。
その謎のノリに困惑しながらも
「いえ~い」
と朔桜は肩から掛けた本日の主役の襷が気になりながらも手を振り返した。
朔桜が正体が分からず困っているとメイプルが仲介に入る。
「みんな紹介するわ。彼女はエンジェル。“人魔調査団”の一人よ。
海に落とされて死んだと思っていたけれど、なんか生きていたみたい」
「よろ~」
エンジェルは再び無表情で手を振る。
朔桜が手を振り返すと脱線した話を戻す。
「えっと、それでリョクエン……さんたちは黒いシンシアさんに勝てたんですか?」
「はん、勝ったぜ。爺の術を利用してな」
「術を利用? 黒いシンシアさんは術の攻撃が効いたんですか?」
「いいや効かなかった。私の気術は吸われてた」
会話の横からエンジェルが断言する。
「そう言われればそうね……。術が効かない相手に何故勝てたのかしら?」
メイプルは後々疑問になり首を傾げる。
「んなもん術者の爺に聞かなきゃ分かんねぇよ」
リョクエンは早々に結論を投げだした。
「で、その爺はちゃんと始末したんでしょうね?」
ティナが不快そうな目で朔桜たちを置いて行ったウェポンとメイプルを睨む。
「ごめんなさい。あのお爺さんかなりの手練れで……森の中に逃げられてしまったわ……」
「使えない連中」
ティナの刺のある言葉にウェポンが食らいつく。
「あ? エンジェルが生きてた今、俺らが奴を深い追いする必要はこれっぽっちもねぇんだよ!」
「怖気づいたなら正直にそう言えば?」
「んだとてめぇ!」
二人が言い争いだしたなか、ピリカは静かに立ち上がった。
「……時間の無駄。私はユプケに加勢しに戻る」
早々に踵を返すと同時にエプンキネが声を張る。
「やめておけ、ピリカ。お前の気の量では、もう神は顕現させられない」
的を得た言葉にピリカは顔を顰め朔桜を指差した。
「なら、そいつに回復させればいい!」
その瞬間、空気がヒリつき、ティナ、ノア、カシャはピリカを一瞥し、即座に戦闘態勢を取った。
「やめておけ。我々は負けた身。大人しくしていろ」
空気の変化に気づいたエプンキネはピリカを宥める。
神を顕現させられないピリカは自身の無力さを実感し、ペタリと地面に座り込んだ。
「…………」
それでもまだ自分を退かせ、戦いを引き受けたユプケの身を案じているのが見て取れる。
雰囲気を察した男が続いて静かに立ち上がった。
「なら、俺が行く。俺はまだ神を顕現させられるエナが残ってるしな。あんたらもいいかい?」
イラマンテが提案を出すと一同は朔桜の方を向き判断を委ねる。
ノアと対峙していたイラマンテにはまだ余力が残っている。
隠密能力なども考えれば適任だろう。
「分かりました」
朔桜は静かに首を縦に振り許可を出した。
「恩に着る」
朔桜に頭を下げ、黒城を見上げる。
当初とは違い、今の城内に常識を逸脱した量のエナが集まっているのを肌で感じていた。
「気を付けてイラマンテ。あの城に触れてる間、気を吸われ続ける。
それにユプケが倒したけど、そこの仮面の男に似た黒いのも見た」
「りょーかい」
軽い返事をするとイラマンテは早々に黒城へと赴いた。
皆がイラマンテの背を見送るなか、カシャは複雑な思いで唸る。
「うむ……私に似たのも居たのか……それにやられたのか……」
「黒い偽物を倒してもカシャさんが生きているって事は、本人に影響はないって事……ですよね?」
朔桜は不安そうに皆に意見を求める。
「そうだと思うよ。ノアの相手はポテおじいちゃんだったんだから」
ノアの対峙した黒体は故人。つまり死者の模造品だ。影響があるはずもない。
「ポテ師匠、ヒシメ、シンシアさん、カシャさん。それに丸坊主の少年ってのは多分イツツだ……」
現れた黒体の素性を口に出し、それに関連する者を胸に思い浮かべ、レオは歯を強く食いしばる。
「みんな深く接してきた人たちばかり。その偽物を作ってるのは……間違いなく……キリエだ」
皆が頭で仮定していた最悪の結論。
一番身近なレオが断言した事によって空想の仮定が確定へと変わった。




