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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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七十八話 継がれゆく美しい名

森に散った各面々は、再び朔桜たちの元へと集って来ていた。

この場に集まった人数は十九名。

当初、登山を始めたのは朔桜、ティナ、ノア、レオ、カシャ、ラヴェイン、デガロ、ドクレス。

“人魔調査団”のウェポン、メイプル、スモークの十一名。

そこに奇跡的に生きていたリョクエンと“人魔調査団”のエンジェル。

何故か増えたメティニ。そして、身元不明の男二人を加え、十五名。

五色雲(ごしきぐも)”のエプンキネ、ポロオッカヨ、イラマンテ、ピリカの四名。

ドクレスは反旗を翻し、離脱した事により、総勢十九名となった。


「なんか人数多くない?」


ノアが真っ先に一番気になる点を口に出した。

ぞろぞろと夜の森に集まる集団。明らかに異質だ。

半分近くが見知らぬ顔。負傷者も多い。


「怪我してる人はこちらに! 私が治します!」


朔桜はノアの警護のもと、素性も知らぬ者たちに治癒を施す。

まず一番重症な腕が吹き飛んだポロオッカヨの腕。

次にウェポンの両足、全身打撲のラヴェインの身体を治癒させた。

連続の戦闘で疲れ果てた皆の口数は少なく、朔桜の治療が終わるまで身体と精神を休めている様子。

そんな中、カシャは見知った顔の少女を見つけた。


「むむ? お前、メティニじゃないかっ!!」


「ん? そうだけど何?」


「何って……お前一体こんなところで何を!?」


「あぁ……あんたには仮面の私を認識出来てなかったもんね。

先に説明するわ。私があんたと別れてあの空間で何があったのかを」


メティニがカシャに経緯を話す一方

朔桜は負傷の治療を終え、続いて黒体にエナを奪われた者たちのエナの回復をしてゆく。

その様子を名も知らぬ僧侶のような男が興味深そうに眺めていた。


「えっと……あなたも何処か怪我してましたか?」


治してほしい箇所があるから

見ているのかと思った朔桜は男に声を掛けてみる。


「いや、これは失礼。私はこの通り無傷。見事な手際なうえ迅速な対応に感心していただけだ。

重症者に早々の治療を。身近な者には万全の回復を。

縁遠い者には最低限動ける程度の回復に留めている。

先を見据えた効率的な浩然之気(こうぜんのき)の使い方だ」


「こうぜんの……それはどうも……それでその……どちら様でしょう?」


名も知らぬ男からの声掛けに戸惑う朔桜。

その様子を見て男は軽く頭を下げた。


「重ねて失礼をした。名を名乗っていなかったか。私は玖寧(くねい)


その名を告げた瞬間、ノアの目が大きく見開き、身体がビクンと跳ねる。


「(くねい…? その名前……船で狐面お姉ちゃんが言ってた。

二百年前の“人魔戦争”で活躍した“九邪”の人?)」


「何かな、少女? 私の名に何処か心辺りでも?」


(ざと)い玖寧の一言一言ハッキリとした丁寧な口調。

それは優しくも、冷たく不気味とも捉える事ができた。


「ううん! 珍しい名前だなって思っただけ~!」


ノアは陽気な幼い子供のように偽る。


「私は海を越えた先の大陸から来た。故にこの国では聞き馴染みがないのであろう」


「玖寧さんですね! 私は並木朔桜です! こっちはノアちゃん」


「並木朔桜……春のハジマリを知らせるような温かい名だ。月夜に咲き誇る淡く美しい名だ。

四の季節を巡り、代々継がれゆく名でもある。とても君に似合っている」


「ありがとうございます?」


やたらと褒めてくる玖寧に朔桜は少しだけ対応に困っている。


「それにノア。君は良い目をしている。

君はこの先ずっと強くなるだろう。私たちと肩を並べるほどに」


脈絡のない玖寧の言葉の意味をノアは正しく理解する。

朔桜は二人の間に流れる妙な空気に不思議そうに首を傾げた。

玖寧はそれを察して苦笑すると

まるで最初から後ろを向いて話していたかのように音も無く(きびす)を返していた。


「っ――――!」


ノアの別格に優れた目でも完全に捉える事が出来ない一つ上の動きに言葉を失う。


「若者の貴重な時間を奪ってしまってすまない。君と直接話せて良かったよ。並木朔桜」


「いえ、そんな……」


玖寧は朔桜との話を終えると一人静かに黒城の方へと向かって歩いて行く。


「ちょっ! 何処行くんですかっ!?」


「野暮用だよ」


朔桜とノア、二人を覗いて玖寧が去る事に気付く者はなく彼は闇へと消えた。


「あっ……御花摘みかな?」


朔桜は間違った解釈で玖寧を見送り

ノアは玖寧の背を危機感を持って見送った。

玖寧の全てを見透かしているような眼を見てノアの中に恐怖という感情が芽生えた。

一瞬でこの場の全員を殺せるあの空気にノアだけが気付き、ノアだけが抗っていた。

それは玖寧は“九邪”だと知っていたからではない。

同じ“九邪”メサ・イングレイザと対峙した経験から尋常じゃない強さを感じとった成長の証である。

そんなこんなで、朔桜はこの場の全員を話せる程度に回復させた。

ここから各自の報告が始まる。

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