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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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七十七話 スクルカムイ

気を失ったティナを守るようにして拳を構えるレオ。

対峙するのは、小刀『マキリ』を構える少女“五色雲(ごしきぐも)”ピリカ。


「その小刀を置け! そしたらここは退いてやる!」


強気な口調のレオだが腰は引けている。

この場に居るピリカが只者ではないことは確か。

レオ単体でどうにか出来る相手ではない。


「退かなくていいから戦いましょ?」


レオの目には一瞬でピリカの姿が大きく映る。否。

一瞬で眼前まで迫られていた。


「っ!」


致命傷を避けるため反射的に首を後方に引く。

だが、ピリカの狙いは的の大きい身体の芯。心臓だ。


「こっの!」


レオは片足を軸に身を捻り、小刀の一刺しを間一髪かわし距離を離す。


「っぶねー!」


「ちっとも強そうじゃないのにいい動きをするね。

少しは場数を踏んで来たのかな?」


「こっちはここ少しの間に何回も死線を越えてきてんだ!

そんなちゃちな小刀で死んでたまるかよ!」


「そう……じゃあこれで死んで。気攻―(オッケ)!」


指先から一点に凝縮された生身の肉体を易々と貫く鋭いエナが放たれる。

この攻撃に速度はさほどない。だが、狙った位置はレオとティナの直線上。

レオがかわせば、ティナは即死する。

ピリカは常に拳を構えているだけのレオに術を防ぐ(すべ)はないと判断した。

だが、想定とは異なる。

レオは真正面に拳を突き出し、気攻に備えた。


「反拳!!」


拳に気攻が触れるとまるで攻撃は無かったかのように消え去る。


「気攻が……消えた? 彼の能力?」


ピリカが数秒思考している間にレオは両拳を合わせ、反拳を唱え続けていた。


「何をブツブツと……」


レオの異様な行動にピリカの心情に違和感と危機感が混じり合う。

時が経つにつれて勘が危機感を増幅させる。


「(まずい。先手を打たなきゃ何かされる!)」


焦りを感じたピリカは、再び一足でレオとの距離を詰める。

瞬間、レオの目を間近で見た。

その眼はピリカを見ていない。その先を透けて見ているような眼。

まるで勝負は着いたかのような眼だ。


「っ――――!」


レオが反拳で溜めた衝撃を放とうした途端、身体に異常が起こる。

口唇、舌、手足が痺れ、言葉が喋れず

身体も動かせなくなったレオはそのまま力無く地面に倒れ込む。


「っ――――!」


「残念。毒花の神 スクルカムイ。それが私の神様。

私に敵意を向けた相手に問答無用で異常を付加させるの」


「――――っ!!」


加えて、吐き気と腹痛が襲い、異常な速度不整脈が打ち

動悸、息切れ、眩暈も付加されてゆく。

この自身でも理解出来ない異常に焦れば焦るほど対峙する相手に強く明確な

敵意を向けその毒花の泥沼にハマる。


「これ以上私に意識を向けないほうがいいよ。苦しんで死んじゃうよ」


レオは脳内でピリカを敵と認識しないよう努める。

すると次第に症状は和らぎ、異常が緩和されてゆく。


「やべぇ……なんだ……この能力……」


「最強の権能だよ。発動時の範囲効果だから

不意を衝いて強い殺意を向けるのも無駄だからね?」


起きて早々、殺意を向け張り裂けそうな鼓動を刻む胸を押さえ

息を切らせるティナに向けて警告していた。


「私が死んでも……お前は殺す……」


フラフラの身体で殺意増し増しのティナが立ち上がる。


「普通、まず立てないんだけどな……壊れちゃってるこの人……」


ティナの神にも抗う執念にピリカは恐怖を感じていた。


「マズいですって!」


レオは咄嗟にティナの首を捻り、ピリカから視界を逸らさせる。


「はぁっ……!? お前を先に殺すぞっ!」


ティナの殺意がレオへと移ると

途端にティナへの負荷が消え去った。


「今ですっ!!」


「っ! お前……!」


「このまま範囲攻撃を!」


「命令、するなっ!」


ティナは魔装『八つ脚の捕食者(スパイダー)』を周囲に展開し無差別に攻撃する。

ティナの殺意は不意の能力で負かされたピリカよりも

冷静な判断で状況を把握して動いたレオに強く向いていた。

脚の無差別攻撃が地面や木々を破壊しながらピリカにも効果的な一撃を与えた。


「くっ! こんなっ雑な方法で――――」


ピリカは黒体の一撃で既に満身創痍。

そのうえ神すら顕現させたのでとっくに限界を超えていた。

その場で気を失い、スクルカムイの権能は効果を失う。


「よし、殺そう」


早々に鋭い脚を構え、トドメを刺そうとするティナをレオが止める。


「待ってください! こいつあの神使いの仲間ですよ!

殺したら後々彼らと遺恨(いこん)が残ります!」


「バレなきゃいい」


「バレますって! それに朔桜さんも怒りますよ!」


「くっ……!」


一番ティナの抑止に効果的な言葉を使い

何とか死者無しでこの場を収める事が出来たのだった。

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