六十七話 神の対処法
一同は散らばり各々の役目を遂行する。
朔桜、カシャ、デガロの三名は“五色雲”エプンキネと
顕現した神魚カムイチェプと対峙する事と相成った。
「桜髪。アレを倒す策はあるのか?」
「今の私たちに正真正銘の“神”を倒す術はありません。……ですが、策ならあります!」
意気込む朔桜にカシャは身を軽くして構える。
「して、その策は?」
「カシャさん。死んでもらう事は出来ますか?」
朔桜の非道な言葉にデガロは噴き出す。
「嬢ちゃんっ! あんた大人しそうな顔してなんて事を! 見損な――――」
「いいだろう」
デガロの言葉を阻み、カシャはあっさりと承認する。
「おい!? 正気かっ!?」
「無論だゾ。何をすればいい?」
「時間を稼ぎながら接近戦であの人と闘ってください。鮭の方はどうにか私が引き付けます。
深手を負った場合は退いてください。私が際限なく治します」
「接近戦なら儂も――――」
「ダメですっ! デガロさんの場合、本当に死んでしまう可能性もありますから」
「だが、あんなモノと一人で闘わせるなど無謀だ!」
「カシャさん以外の適任はいません。それに私の予想なら
私とあの人だからこそ、この戦いはこちらに有利だと思います」
朔桜は確信を持って発言する。
その言葉を信じ、カシャは堂々と前に出た。
「承知した。行くゾ!」
シュレーターダッシュで加速し、一気にエプンキネとの距離を詰める。
「むっ! 速い!」
エプンキネもカシャの速度に反応するも、先にカムイチェプが大きな身でカシャの行く手を阻む。
「っ――――!」
カシャは急ブレーキをかけ、カムイチェプから距離を取る。
「無駄だ。私の一定範囲はカムイチェプの守護領域。
一歩たりとも犯すのは不可能というもの」
「そうか。ならば、入らない事にしよう」
カシャは守護領域の範囲を十メートル程度だと見極め、ギリギリのところで何もせず傍観を決め込む。
「なんのつもりだ?」
エプンキネの問いにカシャは応えない。
ただひたすらと時間の経過を待つ。
「っ……範囲の見極めは良い。だが、これならば条件は変わる」
痺れを切らしたエプンキネは草鞋で力強く地面を抉り、一瞬でカシャとの間合いを詰めた。
「シュレーターダッシュ!」
相手の動きに合わせてカシャは後方に退くも、その間合いはカムイチェプの守護範囲内。
「っ!!」
カシャは覚悟を決めて防御態勢を取る。
「気絶するほど痛いサンダレイド!!」
朔桜が後方支援でエプンキネを狙い複数の電撃を放つが、カムイチェプの操る水塊が電撃を相殺。
カムイチェプの分厚い身体がしなりカシャを打つ。
「ぐっ!!」
盛大に吹き飛ばされるカシャだが、なんとか受け身を取って即座に戦線に復帰した。
「カシャさんっ! 大丈夫ですかっ!?」
朔桜が心配するも背中を向けたまま親指を立てる。
「問題ない。軽傷だ。ドワーフの能力のおかげで攻撃に体重を乗せきれていないらしい」
「儂の能力が助けになったのは良かったが……」
カシャは再び接近し、カムイチェプを誘っては離れる。
それを何度も繰り返し、絶妙な距離を保ちながら時間を稼ぐ。
何も手助け出来ないデガロは歯痒そうにカシャを見守る事しかできない。
「まるで隙がない。あの神の守護範囲が厄介じゃな……」
「たぶんですけど、あの漂ってる水でどんな攻撃も全て防がれると思います」
「なら成す術無しじゃないかっ! そんな相手に勝てる訳がない!」
「いいえ、そんな事もないんです。強力な力にはそれなりの代償が伴う。
神を相手にまともに戦うなんて馬鹿のする事だ。って最強の神使いが言っていたので」
ここまでの全ては朔桜の作戦通り。
「くっ……」
今まで凛と立っていた男がフラフラと身体を揺らす。
ついにエプンキネに動きがあった。
その異変の理由にカシャも気づいたらしい。
「なるほど。エナ切れか」
圧倒的な存在力のある神を世界に顕現させるには、膨大なエナが必要。
それを長時間維持するのは一、生命では至難の業だ。
朔桜はそれを八柱の神を使役する兄。
ロード・フォン・ディオスを見てしっかりと学んでいた。
「まだだ。まだ、解く訳には……」
気力で無理やり保たせているが、エプンキネはもう限界。
守りに強い守護の神の弱点。それは、徹底した保守行為である。
エナが供給不足となり、カムイチェプも末端の部位からエナへと変わり、透過してきている。
「あまり無理しないでくださいっ! 死んじゃいますよ!?」
エプンキネの身を案じる朔桜だが
エプンキネは踏ん張って最後の意地を見せる。
「我を甘くみてもらっては困る……」
「もう私の仲間たちは十分先へと進みました。
私たちの目的は果たされ、貴方は目的を果たせなかった。
貴方は役目を全う出来なかった。非情にはなれなかった。それが……結果です」
「みんな、不甲斐ない私ですまない……」
同胞への言葉を残し、エプンキネエナを消費しきってその場に倒れ
神魚カムイチェプは静かに消滅したのだった。




