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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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五十九話 完全敗北の記憶②

仮面能力を使う“顔の無い集団(ノーフェイス)”を裏切ったラヴェインが

メサ・イングレイザに姿を変えていた“九邪”パーフェクト=フェイスを強烈な拳で殴り飛ばす。


「全然見えなかった……」


凄まじいラヴェインの攻撃に

レオは呆気にとられ、思った言葉が口から漏れ出た。

同時にラヴェインは己の拳を抱えて膝から崩れる。


「ぐっ!?」


「ラヴェイン師匠っ!」


カシャがラヴェインの身を案じ近寄ろうとするも、来るなと手で制す。


「まさか、私の拳が逆に砕かれようとはな……」


岩すら砕くラヴェインの拳が逆に粉々に砕け

指はゴムの塊のようにプラプラと内柄に丸まっている。


「痛かったでしょ? 手、大丈夫?」


闇の中からラヴェインを案じる声が響く。

フェイスは仮面能力《軽重(けいちょう)》で超重量化を受け

常人なら身動き一つ出来ない重さに変えられたにも関わらず、さも当然の事のように

パーフェクト=フェイスは静かに歩いて戻って来た。


「そんなバカな――――」


驚愕と呆れの感情が混じるラヴェインの前に

咄嗟にレオとカシャが出て、拳を構える。


「もう俺らの身体は《軽重》の影響を受けていない万全の状態!

むしろ重さに慣れていた分今は身体が軽い! 任せてください!!」


「……邪魔だよ。形態(フォルム) ウォーゾーン」


ビキビキと鈍い音をたて、フェイスの両手は瞬時にウォーゾーンの巨大な手へと変化。


「変化能力!?」


その巨大な手で三人は軽々と薙ぎ払われる。


「くっそっ! 野郎、まるでノアちゃんの――――」」


「今ので生きているんだ。なら、これはどう? 形態 万年大樹」


フェイスは再び鈍い音をたてると、再び両手が変異。

両手は千の枝を持つ無機質な大樹に変化した。

次の瞬間、千の枝木が一斉に三人に向い、目にも止まらぬ連撃を打ち出した。

たった数秒の出来事。たった数秒の攻防で勝負は決まった。


「何が――――」


「起きたん――――」


「だ――――」


並の生物なら一撃受ければ、身体が弾けている即死級の攻撃。

肉弾戦が得意な三人の硬い皮膚の表面は高速の連撃を受けて黒く焼け焦げ

強靭な筋肉は抉れ、全身の骨は当然のように砕かれていた。

一瞬にして戦闘不能にされた三人。

四つの事柄が奇跡的に三人の命を繋げた。

一つは、肉塊となった腕を盾にして顔への致命傷を間逃れた事。

二つは、レオとカシャはDr.の作ったインナーを着ていた事。

三つは、三人居た分攻撃が三つに分散されていた事。

そして、四つ目の最大の幸運は外れた攻撃が船床に複数の穴を開け、自重を保つために船底に溜まっていた海水が噴射した事だ。


「っ!」


フェイスは海水を忌避して、即座に攻撃を停止。

一瞬で両手を戻し、後方へと下がる。


「あちゃ~やっちゃった」


「何をしている! ここにはフォン・ディオスの末妹も乗っているんだぞ」


「そうだったね。忘れてたよ。もうここはダメだ。後は彼女の運を祈るしかない」


体内に手を入れると強固な身体は粘土ように変わり、体内から小さな古紙を取り出す。

そして、(おぞ)ましい能力の名を口にした。


「《世界への冒涜》」


突如として船内の空間が赤黒い(ひび)のようなものが入り

周囲がみるみるうちに(むしば)まれて広がってゆく。


「なんで……お前がその能力をッ!」


ティナはその能力に見覚えがある。

太平洋の沖合で見た禍々しい侵食。

見紛う事なくあの影の能力だ。


「これは僕の失態だ。だけど、もう“宝探し”は終わった。帰ろう。鏡面」


「勝手に決着に割り込んで来たうえ、戯言を言うな。まだ決着が――――」


「選んで。ここで僕と帰るか。ここで()()()()()()()()


そう淡々と告げたフェイスには、今までには無かった逆らい難い重圧と気迫を感じる。


「…………従おう」


アルレイアが折れるとフェイスは侵食の中に入り

後ろ髪を引かれる思いのアルレイアが続く。


「この場で……私たちにとどめを刺さなかった事……いずれ後悔する……ぞ……」


ボロボロのティナの言葉を聞き、アルレイアは嘲笑うかのように一瞥する。


「世界の終焉(しゅうえん)に全てを清算するのもまた一興であろう。

精々足掻いて生き延びるといい。藻屑と消えては興醒めだ」


“九邪候補”アルレイア・インベルトと“九邪”パーフェクト=フェイスは

壊滅的被害を受けていた一同にとどめを刺す事もせず、侵食の中へと消えて行った。

脅威が完全に消え去った途端、限界の限界を超えて張り詰めていたティナの緊張が解け

気力だけで保っていた意識が霞み始める。


「っ……ここで倒れるわけには……」


しかし、抗いも虚しく電源を落としたかのようにティナの意識は完全に断たれた。

これがティナたちが“九邪”と“九邪候補”に完全敗北した時の記憶である。

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