五十五話 命を懸けた殺し合い
育ての母を殺され怒りを露わにするティナ。
ティナが所属していた“トロステア”に人生を狂わされ
復讐心を剥き出しにするアルレイア・インベルト。
復讐心と復讐心が激しくぶつかり合う。
ティナは『絡め捕る糸』を周囲に張り巡らせ
三本の脚で器用に上下左右自由自在に動き回る。
『八つ脚の捕食者』の脚五本は大破して使いモノにならない。
アルレイアは左の腕を落とされつつも、ティナの動きに即座に対応。
糸の位置も正確に把握してティナを追い回す。
その距離は次第に縮まってゆく。
「このっ……化け物が!」
「ふっ……聞き飽きた言葉だ」
アルレイアは指を鳴らし、音で《触爆》を起動。
既に触れていた糸を爆発させ、ティナの動きを阻害する。
「くっ!」
爆炎で視界が悪くなった刹那
アルレイアは能力《火中転移》でティナの背後に回り込んだ。
隙だらけの背後。後頭部に触れれば、勝ちが確定する状況だったが
アルレイアは違和感を感じ、逆に距離を取った。
「……“十二貴族”ってどこまでもムカつく奴ばかりね」
ティナが胸に溜め込んだ愚痴を睨みながら吐き出す。
爆発で視界を悪くされて背後に回り込まれるところまではティナの想定通り。
そのままアルレイアがティナの後頭部に手を伸ばせば、『八つ脚の捕食者』で押さえていた糸を離し
弾性エネルギーでギロチンのように上下からアルレイアの腕を切断する予定であった。
だが、アルレイアは勘だけでティナの策略を回避したのだ。
「その“十二貴族”という称号は疾うに無い。今は“九邪候補”アルレイア・インベルトだ」
「“九邪候補”だなんて、あんたも落ちたものね。可哀想。
私たちのせいでせっせと下積み労働を頑張っているのね」
「その点に関しては、むしろ感謝さえしている。
ちっぽけな世界でちっぽけな国を纏める“十二貴族”よりも
新世界を統べる“九邪”へと至れるのだから」
「あっそ」
「だが……我が腕の代償だけは、お前の命で埋め合わせて貰わねば気が済まない」
アルレイア・インベルトの能力《触爆》は触れたモノを爆発させる能力。
片腕を失ったという事は能力の半分を失ったに等しい。
腕を奪ったのはミストルティだが、進行してきた見果てぬ地の“十二貴族”
今は亡きステン・マイスローズ。
そして、配下である“トロステア”全てに憎しみと怒りを抱いていた。
だが、渦中の人物で生存しているのは、ティナたった一人。
アルレイアは全ての憎しみと恨みをティナへと集約させていた。
「一度ならず、二度までも。時間を掛けて馴染ませた我が腕を奪った罪は重いぞ」
「そんなに何度も落としちゃう腕なら、後生大事に木箱にでも仕舞っておいた方がいいわよ?」
ティナの皮肉がアルレイア・インベルトの琴線に触れた。
「爆ぜよ、害虫!!」
指を高らかに鳴らすとF6の交戦していた一帯が一瞬で爆ぜ、炎の海と化す。
「ピキっちゃって……随分と効いたみたいね……」
『八つ脚の捕食者』でなんとか爆発を防いだが、残り三つの脚全てに深い罅が入った。
もう移動手段や攻撃手段には使えそうにない。
「生きてるか、“人魔調査団”!?」
「生きている!! ミーもウェポンもなんとか凌いDA!!」
「お前たちは上層へ退いて私の世界で一番可愛い桜髪の親友に伝えろ!!
“九邪候補”アルレイア・インベルトは私が殺すと!!」
ティナは決意を胸に高らかに宣言する。
「戯言を……死ね」
弾ける爆炎がティナへと迫る。
身を転がし攻撃をかわすも怒涛の攻撃がティナの逃げ場を奪ってゆく。
魔装『視認できない剣』にエナを込め
応戦するも、炎を振り払うのが精一杯。
アルレイアの仮面能力により出現させた道具に《触爆》を使い
無限の爆撃でティナをフロアの隅へ隅へと追い詰めてゆく。
「はぁ……はぁ……」
「虫のように逃げ惑うだけか? 先程の言葉は虚言か? 口ほどにもない……」
ティナは全身の肌を爆炎で焼かれ、全身重度の火傷を負っていた。
満身創痍のティナに静かに詰め寄るアルレイア。
だが、彼にも突如として異変が起こった。
「っ……!」
一瞬だけ頭が真っ白になり、ふらつく仕草をみせるが、再び毅然と歩き出す。
しかし、その瞬間をティナは見逃さなかった。
「はぁ……はぁ……強がっていても、お前も限界まできているようね……」
船の最下層で周囲を覆い尽くすほどの火炎の中。
空気は爆炎の影響で喉を焼くような暑さ。
酸素も燃焼されて呼吸を乱す二人には毒に等しく
ティナとアルレイアは互いに酸欠状態に陥っている。
時間はもう数刻の有余もない。
『八つ脚の捕食者』の脚を失ったティナ。
『唖ムガルドの腕』を失ったアルレイア。
真に命を懸けた殺し合いをしていた。
「朔桜……ごめんなさい……」
ティナが小さく謝罪の言葉を呟くと
気息奄奄の中、憎しみを込めて互いは獣のように叫ぶ。
「アルレイア・インベルト!!」
自分の人生を狂わせた相手に死の念を込めて。
「“トロステア”!!」
自分の人生を狂わせた相手に死の念を込めて。
各々自身の命を賭して刹那の時に挑み
そして、因縁は決した――――。




