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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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五十二話 ボーノvsウォーゾーン&メサ

静かな空間に乱れる呼吸音がより大きく響く。

仮面の魔人との戦いで息も絶え絶えな“人魔調査団”ボーノ。

腹部が爆ぜ、肋骨数本と背骨に(ひび)が入っている。

瓦礫に背を預け身体を起こしているのがやっと。

当然まともに戦える状態ではない。

大穴の遠くから聞こえてくるのは、多数の場所で繰り広げられる激戦の音。

F6の奥エンジン施設からも激しい戦闘の音が響く。


「私も参戦しなければ……」


無理に立ち上がろうとするも激痛がボーノを引き留めた。

脳が命を保持するため真っ赤な危険信号を放っている。


「無力だな。私は…………」


力無く頭上を見上げるとそこには

ウォーゾーンとメサ・イングレイザの姿があった。


「――――っ!!」


凶悪と異質。

ボーノはこの禍々しくも異様な存在に気付くのが遅れた事を自分で驚愕する。

ウォーゾーンが地に降りるとメサがボーノを指差した。


「あれ、生きてる?」


ウォーゾーンは静かに頷く。


「君は能力者?」


メサの突然の問いかけにボーノは動揺を隠せない。

すぐには返事をせず、最善の行動を考える。

敵か味方かなんてものは、ウォーゾーンの爪に付着した血の臭いを嗅げば明らか。

この状況下でまともに戦える術は無い。


「聞こえている? 君は能力者かい?」


再び問いかけるメサ。

その回答によってボーノの生死が別れる。


「…………だ……」


ボーノは小さな声で返答した。


「声が小さくて聞こえないよ」


メサはウォーゾーンの肩から降りて

ボーノへと静かに近づいてゆく。


「僕は…………能力者だ!!!」


残る全ての力を振り絞り、どこからともなく取り出した

二十センチほどの二枚のピザに気術をトッピングしてフリスビーのように両手で投げる。

生地の部分はそこら辺の刃物よりもよっぽど鋭く切れ味も抜群だ。


「…………」


メサは無言でボーノの全力の抵抗をかわす。

後方のウォーゾーンに攻撃が迫るとピザを狙い爪を伸ばし叩き落そうとしたその時。

ピザはボーノの気の操作で動きが変わり、ウォーゾーンの爪と腕を這うように真っ直ぐ切り裂いた。

ウォーゾーンのけたたましい悲鳴が響く。

だが、ボーノの攻撃はまだ終わっていない。


「鉄仮面。後ろ」


メサが忠告すると通り過ぎたピザは空中で交差して互いにぶつかり合うと

ブーメランのように戻ってウォーゾーンへと襲い掛かる。

ウォーゾーンが再び爪で撃ち落とそうとした途端

尻尾が千切れても二十メートルほどあったウォーゾーンの巨体は

比率を維持したまま一気に縮み、二メートル程度に変容。

自慢の木の幹ほどに巨大だった爪は木の枝程度の大きさになり

対象的に二十センチほどだったピザは二メートルほどに巨大化。


「鉄仮面――」


圧倒的な質量で回転するピザに細い爪が敵うはずもなく爪は易々と砕け散り

ピザはウォーゾーンの胴体を横一線で両断。続くピザが縦に鉄の仮面を両断。

多くの船員を貫き殺した魔物は四つに切り分けられた。

仮面という露出した弱点を壊され、ウォーゾーンの身体はエナとなり散りゆく。


「……やってくれたね。そこそこ気に入っていた仮面だったのに」


落胆し深々と溜息を吐くメサは、地面に飛び散ったウォーゾーンの血液を口に運ぶ。

そんな失意のメサに巨大なピザが迫る。


「縮尺とエナの大きさを変容させる能力……。

条件はアレに触れる、もしくはダメージを負わせるくらいかな……」


メサは初見で見事に能力の条件を看破した。

ボーノの能力《SML(スマイル)》は損傷させたモノの大きさと保持しているエナを小、中、大の三段階に変える力。

ウォーゾーンの二十メートルの身体を二メートルに。

ぶつけ合わせた二十センチのピザを二メートルへと零の位を一段階ずつ書き換えたのだ。


「僕には特出した回避能力は無いんだ」


能力に警戒したメサは即座にフロアを駆け出す。

同時に散ったウォーゾーンのエナを吸収し始める。


「くっ……逃がすものかっ! せめてお前たちだけでも道連れにっ!!」


気で巨大なピザを自在に操りメサに追撃を仕掛ける。

二つのピザを操りメサを部屋の隅に追い込んだ。


「僕のピザを召し上がれ!」


巨大な鋭く回転するピザがメサの胴体を捉え直撃。

普通なら両断され勝利を確信する場面だが慢心はしない。


「SML!!」


攻撃が直撃した瞬間ボーノはメサを縮めようと能力を発動した。

しかし、メサは縮まらない。

それどころか胴体すら繋がったまま平然と立っていた。


「なるほど。ダメージを負わせるが条件かな」


猛回転するピザを素手で掴み止めて地面に叩き落す。


「なんで、なんで、なんでっ!?」


静かに歩み来るメサに何度も何度も回転ピザを投げるが全てその身に弾かれる。


「その程度の攻撃じゃ、僕の“極鋼(アルティメイト)”の身体を傷付けるのは不可能だ」


気が付けばその天使(悪魔)はボーノの目の前に居た。

怯え竦み身動き出来ないボーノ眼前まで詰め寄り、顔を近づける。


「鉄仮面の代わりに()()()()()


ビキビキと鈍い音とともに、メサの顔の皮膚は泥のように溶け落ち

暗闇でも煌々と発光する人型粘土のような存在へと変わる。

ボーノは露出した異様な姿形に恐れ、怯え、震え上がった。

それは、人の身に非ず。

それは、人智を超越した最後の文字。

異端として廃棄された成れ果ての生命体。

ボーノが二つの深淵へ誘われるように視線を移すと、ボーノの人としての肉体が変容。

白い生地に赤のベースと緑と白の模様が栄える。

まるで、ピザのような物言わぬ仮面へと成り果てた。


「これは……いまいちかな」


仮面の出来を評価するとメサへと姿を変えていた何かは

自らの足でエンジン施設の奥へと進んで行くのであった。

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